魔王VSじいちゃん 決着
魔王を相手にして五体満足。
十分過ぎる成果ぢゃろ。
「ぬぅ…!」
「ほっほっほ…」
数多の経験を積んだ老齢の戦士同士の技と技のぶつかり合い。
いくらマナ濃度の薄い地球とはいえどちらの技もハーモラルの一流戦士を大きく上回る。
そしてそんな大技同士が衝突を見せた。
清の両腕は多少のダメージは負ってしまったものの継続して戦闘は行える。
魔王の鎧は青を砕かれ赤の鎧が姿を現していた。
「その鎧の奥、何を隠しておる」
「…今宵はここまでだ。我は戻るとしよう」
「逃げんなや。あほんだら」
「心配するな。いずれまた戦う運命だ」
「相変わらず…しつこいガキだ…」
背中を向けた魔王に対して逃すまいと左肩を掴んだが、魔王が空に放った圧倒的な魔力に気を取られ視界から魔王を逃してしまった。
「な、なんぢゃありゃ…貴様!」
振り向くもそこに魔王の姿はない。
ならば今やる事は空から落ちてきている大きな魔力玉の対処だ。
これが落ちてくればこの裏山は間違いなく地図から消える。
「おばあさま!空に…」
「スノウちゃんは心配せんでええ!うちの爺さんがどうにかするわ!」
少し離れた場所で凛斗の治療をしていた幸恵は空に目もくれずただひたすら孫に手を尽くす。
「婆さん!ワシの刀はぁ!」
「足元の土んなか入っとる!」
魔王を抑えていたはずの旦那がこちらに来るという事は決着がついたと言う事だが今初めてそんな事を気にしている場合ではない。
清はおもむろに地面に右腕を突っ込む。
「ぬぅん!」
そしてその腕を引っこ抜いた時、その右腕には一つの巨大な武器を握っていた。
「こやつを振るのは久しぶりぢゃ…のう【神喰刀 断】よ」
その刃渡と身幅はもはや刀と呼べる代物ではない。
大剣に近しい攻撃的なその刃は離れているスノウに本能的な恐怖が伝わる。
「ほぉぉぉぉぉぉ……」
清に流れる全身の魔力を刀にも流す。
そして暗い空から墜つ魔力の玉に跳び向かい
「ざぁぁぁぁぁんッ!!!」
真っ二つだった。
割れて制御を失った魔力の玉は空中で爆発。
ハーモラルに戻った魔王もその事を感知したのか少しだけ空に目を向けた。
「ふん…やんちゃ小僧め…」
「魔王様!お戻りになられたのですね!」
自分の帰還を察した兵士が裏庭まで駆けつけた。
しかし纏っている鎧の色が赤まで割られている事に並々ならぬ驚きを見せた。
「っ!赤の鎧…一体誰が…!」
「想定内だ。我にもまだ運があったようだ」
「しかし、チキューにその様な戦士がいるのですか!?」
「世界というものは広い。いずれ貴様もわかる…しばし身体を休める。用意を」
「はっ!こちらより伝達!魔王様はこれより裏庭から寝室へと戻られる!至急、休息の用意を!」
さて、久々に地球に赴いた甲斐はあったな
あのやんちゃボウズどもめ…老いてもなお研鑽は忘れてはおらぬか…
可能であればあの少年を連れて行きたかったが…
地球にいる間は難しいだろう
とはいえあの少年がハーモラルに来る手段はあの鋼の籠車しかない
ハーモラルで捕えたとて時間が経てば強制的にバスが少年を連れ去るのは分かりきった事…
その度に我が出向き直接捕まえるのも計画に支障が出るな
ヘルルとリイゼに任せておくのが現状では最善か
「くくくっ…どこの世界でも上手く行く話はないな」




