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日向家は異世界を旅する


あと一歩、近づけば後ろから襲える・・・!


じりじりと足音を立てずに子豚の魔獣【ポク】に近づく。

こいつはたまにマナの光にならずに丸々その姿を残すことがある。

そしてその味が美味いのなんの、今日の昼飯はこいつに決まりだ。


「えーい!」


踏み込んだ、飛びかかる、このまま背中に乗った。

この前教えてもらったばかりだが拳に魔力を込めてポクの背中を上から殴った。


「ぽっく!ぼぐほぐっ!」

「うわ!わわっ!」


暴れん坊のポクを抑えることが出来ずに振り解かれて地面に尻餅をついてしまい、傷んでいる隙に持ち前の逃げ足を発揮して気がついた時には遥か先に消えていった。


「なんだ、また失敗したのか」


後ろから聞こえたのは父の声、振り向くと両脇には2頭のポクを抱えている。


「あともうちょっとだった」

「逃げられてるんだからお前の負けだっての。母ちゃんとこ戻るぞ」


不貞腐れた顔をしながら父の背中を負う。

数分歩くと木々の無い開けた場所に出た。


「おかえりー凛斗、パパ」

「おう美穂。二匹も取れりゃ十分だろ」


そこには焚き火をしている母と馬とサイが合わさったような荷物引きの魔獣【ダリオル】が男達の帰りを待っていた。


「あれ、凛斗はまた失敗したの?」

「逃げられてたぞ」

「まっこー勝負ならぜっっったい負けないし」


この様に日向家は異世界であるハーモラルを父、母、凛斗の3人とペットのダリオルと一緒に旅している。


これは俺が大きくなってから知ったことだが、今このハーモラルを行き来できる人間は日向家と東雲家の二つの家の人間でもう一個、霧雨家というのがあったらしいが血筋が途絶えたらしい。


そして日向家は代々、ハーモラルで得た技術や知識などを調査して現代日本に提供することで家計を回しておりこの一瞬一瞬が仕事だと。


「飯も食ったしそろそろ動くか」

「そいえば、つぎどこむかってるの?」

「あん?そりゃ()()()()()だろ」


センタレア、それはハーモラルにおける中枢都市国家だ。

ハーモラルに現存する文化、技術、信仰、商業に多数の種族の人々が集まりここで生まれここで生を終える人も少なくはない。


「えー、あそこ人おーいだけじゃん!なんでそんなとこいくの!?」

「お前を小学校入れるから一旦帰る」

「しょーがっこー?」

「学校だよ。勉強しろ」

「いやー!いやいやいやー!」


「すぅー・・・すぅー・・・」


あまりにもいやいやうるさかったが荷車に放り投げたらあっさりと駄々を捏ね疲れて寝てしまった様だ。


「寝ちゃったね」


膝の上で眠る愛しい息子の頬を優しく撫でる。


「向こうに帰る前にギルドのみんなにも挨拶しとかないとね。手紙来てたけどライメルさんも今はセンタレアに戻って来てるみたいだし」

「ライメルか。そういえばあいつの娘も凛斗と同い年だったか」

「スノウちゃんね。確か誕生日も一ヶ月違いだったはず。最後に会った時は5年前だしもっと可愛くなってるかもね」


目を覚ますとそこに映ったのは自分を見守るように寝ている母親。

それを起こさない様にゆっくりと起きると外の景色は夕暮れを見せてくれた。


「おう、起きたか」


荷車から飛び降りて少しだけ土を歩くと父が脇を抱えて父の前のダリオルの背に跨る。


「一年ぶりのセンタレアだ。どうだ?」

「もっとキレイなとこ行きたかった」


ぷいっと顔を晒して臍を曲げた。

これだから子供は難しい。


「うっはぁー!にくにくにく!!!」


前言撤回、やっぱ子供単純だわ


向こうの世界に帰る前に日向家が所属しているギルド【夜明けの太陽】に顔を出すと急遽宴会を開いてくれることになりまだ子供の凛斗は目先の食事に釘付けだ。


「ようキョーヘイ!リントくんも随分大きくなったじゃねえか」

「おっすロック。まだまだチビだって」

「ミホ!久しぶりじゃない!」

「メティも元気そうで何よりよ」


父は仲間のギルドメンバーと楽しそうに酒を飲み話をしており母も母で同じ様に魔法使いの女性と会話しているのでこうやって一人で大皿の肉料理を独り占めしている。

周りを見渡しても同じくらいの子供などいないのでこうして料理と向き合うしかないのだ。


喉が渇いたので少し離れたギルドの受付嬢さんに飲み物を欲していることを伝える。


「「ジュースください!」」


声が、被った?

横を見ると少しだけ背丈が低い長く、綺麗な白い髪の女の子がきょとんとした顔でこちらを見ていた。

というか、なんだこの女の子・・・


「かわいい・・・」

「はぁ!?なによきゅうに!?」

「ごめんねぇ。もう一人分しか残ってないのー」


受付嬢さんが申し訳なさそうに一本のビンに入ったジュースを持って来た、が。


「おれが!」

「わたしが!」


再度、見つめ合った。

本当に結構可愛い顔してるなこの子

だがそれはそれ、これはこれだ。


「なに、あんた」

「おまえこそなに?」


俺は今このジュースが欲しいのだ。


「スノウ、ここにいたのか」


スノウと呼ばれた少女の後ろには大きな金髪の優しそうな男の人が酒を片手に立っていた。


「パパ!」

「おう凛斗。ちゃんと食ってるか?」


そして俺の後ろには父親の恭平が。


「ライメルじゃねえか。久しぶりだな」

「キョーヘイ!会いたかったよ」


ライメル?

確か親父が結構話してたな。

なんでも昔よく一緒に戦った仲間だと。


「そこの白い髪の子はスノウちゃんか」

「そうだよ。リントくんもかなり大きくなったね」

「そっちこそ、あの時の赤ん坊がこんな可愛くなっちゃって」

「ねーパパ。この男の子、わたしのことかわいいって言ってきたよ」

「なんだ凛斗。ナンパするにはまだ10年早いだろ」

「ちげーし!」


いや、違くないけど。

だってこのスノウって女の子・・・めっちゃかわいいんだもん


「そんなことよりわたしジュース飲みたいのにこの子譲ってくれないの」

「いいかいスノウ?こういう時は自分から譲るんだ」

「いやいやいいって。凛斗我慢しろ」

「や!」


子供同士が睨み合う。

父親達はそれにすこしだけ呆れた目をしたが、あるギルドメンバーがこんな疑問を口に出した。


「キョーヘイさんとライメルさんって確か家族で旅してんだろ?どっちの子供が強いか気になるなぁ!」


三度、見つめ合った。




「おれに勝ったらジュースあげるよ」


即座に外の訓練場に出た。

観客はお互いの両親に加えて陽気なギルドメンバーがガヤを飛ばしながら今後の夜明けの太陽を背負う人材の大事な一戦を見守る。


「じゃああんたがわたしに勝ったらなんでもしてあげるわ」

「なんでもぉ?」

「そうよ、わたしつよいもの。ジュースもタルごとだろうがかってあげる(パパが)。あ、そうだ!あんたとケッコンしてあげてもいいわよ?顔はちょっとかっこいいし、あんたも私に惚れたんでしょ?」


ひゅーひゅーと外野のおじさんおばさん達が白熱する中、展開された子供だけの戦場。


「最近の若い子はオマセさんだなぁライメルさんよぉ!うちのクソ坊主にも見て欲しいぜ!」

「スノウはああやって挑んできた人全てを完膚なきまでに叩きのめすのが好きなんですよ」

「あっはっはっ!凛斗!気の強え嫁さんもらうと苦労するぞー・・・はっ!」

「へえ・・・苦労してるんだぁパパぁ?」


何故か後ろから母の殺気を感じたが無視しよう。


「じゃあおれに勝ったらおまえドレイでもなんでもなってやるよ」

「へぇ・・・言うじゃない。ハッタリじゃないといいわね」


スノウの持っている気の杖が怪しく光る。

それに応じる様に凛斗も拳を構えた。


少しだけ、風が吹くとそれをスタートの合図と感じ取りスノウの氷魔法で生成された氷塊が凛斗に発射され、凛斗はスノウに近づくべく駆け出した。


「はぁぁぁ!」

「うぅるぅぁぁ!!!」





そしてこの夜が、ハーモラルで過ごす最後の夜になってしまった。


「またこの夢か」


目覚ましが鳴ったので目を覚ましてそれを止める。

少しだけ天井を眺めて10年前の記憶に浸った。


当時6歳でハーモラルを家族で旅していた俺はあの後すぐに起こった事件をきっかけにこちらの世界に俺()()()帰還した。

そんな俺も立派に成長して今では高校生だ。


「今日の夜は出ないといいな・・・」


眠い目を擦りながらベッドから降りて下のリビングに足を運んだ。


--------


第一話に続く

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