地球の異世界の分岐点
作者はバカなので歴史のことは間に受けないでください
我々の地球に魔法はありません
「リント・ヒナタ殿。異界管理局よりあなたに協力するよう正式な依頼を受けており、我らセンタレア国直属魔法士団はこれを了承。この世界に詳しく、かねてより親交のあったスノウ・メロウルをあなたの協力者としてお貸しいたします」
口調、声色を変える。
これはコミュニケーションや腹のさぐりあいではない。
異界管理局伝いとはいえまだ未熟な冒険者に一組織としての依頼だ。
とはいえ、やはり気になるものは気になる。
なぜこんな少年に二つの世界に関する事象を任せるのか理解できない。
おまけにうちに期待の新人まで取られて。
あのキョーヘイさんの子といえ、そこまでしてこの子に期待する必要があるの?
バカ王子は何かを感じ取ってるみたいだけど数ある冒険者の一人でしかないのに。
「異界管理局を代表してケンゾー・タカハシがリント・ヒナタに命じます。地球に魔獣が出現する理由をハーモラルと地球の二つの世界を巡り解明せよ」
「はい!Dランク冒険者リント・ヒナタ!確かに拝命いたしました!」
「センタレア国直属魔法士団よりスノウ・メロウルに命じます。異界管理局からの命を遂行するリント・ヒナタへの助力を可能な範囲で遂行せよ」
「スノウ・メロウル…は、拝命…しまし…たぁ…」
使命に燃え上がるリントとは対比的に可憐な顔の少女がしてはいけないような顔で今にも崩れそうなスノウ。
「これで二人と士団長の正式な了承を頂けました。それではこれからハーモラルの真の歴史をお話しいたしますが…構いませんか?」
「構わないとも!私も父より断片的にしか聞いていないハーモラルの歴史…心が躍るッ!」
「私も聞きたいワ。この少年にそれほどの期待をするのかヲ」
「承知いたしました…それではまず付近の護衛をできる限り距離を離してください。この話はハーモラルの教養に大きく影響してしまう」
「合点承知の助!みんなしばらく離れてくれッ!」
ちょっとズレてるなこの人
こういう人にしか王族は務まらないのかなぁ
すごいなぁ
「ではまず何から話しましょうか。地球とハーモラルが分岐したきっかけから話しますか」
「既に疑問だ。その口振はまるで地球とハーモラルは元は一つだったと言っているようだ」
「質問は後でまとめてお答えします。今はしばしのご清聴を」
「…すまない」
「続けます。前提として【地球】という名の一つの世界があったと考えてください。そして分岐のきっかけはおよそ500年前ほどの魔女狩りと呼ばれた事象がその地球ではありました」
「それは知ってるワ。でもその魔女狩りに反発した結果がここ数百年に渡る魔法社会の構築ヨ」
「ハーモラルではそう言った歴史になっています。ですが地球では魔女狩りによって数多の魔法を使う者の命が人によって奪われていきました。その結果が現在の地球における科学社会の構築です。スノウさんもご覧になったでしょう」
「え、えぇ。光を放ちながら移動する鉄の箱とか識別水晶みたいに光ったり映像が流れる板、凹凸に触れると何故か付く明かりとか凄かったわ」
「車にスマホ、電灯?」
「なので現在、地球には魔法を使える者は日向家、東雲家のこの二つの血を継ぐ者しか存在しません。一般的に魔法は普及していないのです」
「ふーん、考えられないわネ」
「ですが魔法という文化が失われる事を惜しんだ管理者と呼ばれる人知の及ばない存在が地球を元に類似した世界をつくりました」
「それがハーモラル。というわけか」
「その通りです。このハーモラルは言わば魔女狩りに失敗した地球です。その証拠に数年前にとある冒険者が書き上げたハーモラルの世界地図は地球の物と多少の誤差はあれどほぼその通りなのです。特にハーモラルで使用されている文字のA、B、Cなどは地球でも一般的に使用されているなど多少の違いはあれど根本的には変わらないのです」
「あー、そうだったかも」
「なんであんたが分かってないのよ」
「ただ困ったことにその管理者はかなり投げやりな人物らしく自分で作り上げた世界の均衡を地球のとある人間達に任せました。そして地球とハーモラルを行き来できるよう特殊な技術とその地方では縁が薄かった魔法の技術を授け、その技術を与えられた人がコミュニケーションを取りやすいようにハーモラルの言語を改変しながら」
「で、俺が来てるってわけ」
「静かにしてなさい!」
「正確には先ほど言った地球の日本という国にある日向家、東雲家に加えて霧雨家の御三家です。東雲家は数代前にハーモラルから完全に撤退、霧雨家は既に途絶えておりこうやって日向家も10年前の雷獄の雨の一件以来、凛斗くんが再び来るまではハーモラルと地球は完全に分たれていました」
「そうなると、もしかしたら他にも来訪者がいる可能性も?」
「0と言うわけではないでしょう」
「面白い…会ってみたいものだ!」
「でも、それでこの子に色々期待する理由にはならないわよネ?」
「フィナンシェくんの言う通り。今の凛斗くんでは心許ないどころか下手をすれば1年後には死んでいるかもしれない」
「ゔぇ!?」
「ですが私にはいずれ凛斗くんにしか突破できない壁が現れるという確信があります。王子やフィナンシェくん、スノウさんの誰にでも突破できない、地球とハーモラルの二つを知る凛斗くんにしか打ち破れない壁がそう遠くないうちに現れるという確信が」
「その壁は一体何なのかしラ」
「それが分かれば苦労はしません。ただ今の凛斗くんではやや厚く硬い壁です。それを確実に打ち破るためにも力を、経験を積む必要がある」
「その修行のためにうちのスノウを貰うっていうノ?」
「貰っ…!?」
「その価値は十分に」
「そもそもその歴史が本物である証拠はあル?」
「証拠はありませんが、本物です」
「…話になってないワ。ただ、異界管理局には借りがあるからこの命は撤回しなイ。言葉通りスノウはしばらくその子に貸すワ。少しでもうちの子に変なことしたら問答無用で連れ戻すかラ」
「構いませんよ。ね、凛斗くん」
「はい!」
なんか分かんないけどスノウと一緒に旅できるー!
やっほー!いぇーい!
「ふふふ…これだから歴史は面白いッ!」
「ご納得頂けましたか?」
「理解も理解、信じ難くもあるしあまり理解出来ていない事もある。だがッ!」
興奮が高まるミラバルは勢い余って机に右足を乗せて高らかに叫んだ。
「この胸に高鳴る興奮は止まらんッ!未知を既知に変えるこの喜びこそが冒険者の醍醐味よッ!」
「足を下ろしてください王子机が汚れます」
「…すまん」
「そういえばケンゾーさん。俺とスノウが地球にいる時に魔獣が2回出たんだ。んで、そのうちの一体は大顎の喰竜でもう一体は腐死人だったんだけど…」
萎むミラバルを横目に地球で起こったあの事件をケンゾーに話す。
「アヴェダレオっていう国の人が地球にもいたんだ」
その国の名を聞くとケンゾー、フィナンシェ、ミラバルの3人は明らかに感情を動かされる。
「アヴェダレオ…!」
「…そういう事ネ」
「奴らが…!」
冷静なケンゾー、フィナンシェは一瞬殺気を放ち、あの明るく愉快なミラバルですら攻撃的な魔力が漏れた。
「確かに、アヴェダレオが動いているならハーモラルのどの国にも属してないこの子とセンタレア以外で顔が割れてないスノウが最適…ネ」
「ケンゾーさん。これは急いだほうがいいな」
「そうですね…地球に魔獣が現れる原因もアヴェダレオが関係しているのなら腑に落ちる…だがどうやって地球に来たんだ…」
自分の言葉が想像以上に場を壊した事に驚き、あの時の事を詳しく話そうにも大人同士の会話に雰囲気的に入れない。
「とりあえず凛斗くんのこれからの方針を聞きたい。なにか考えていることはあるかい?」
「やる事は分かってるけどどうやるかは分かってないんですよ。とりあえずスノウを冒険者登録して異界管理局以外にも頼れる所を増やしたいです。どうせ夏休みまでのこの一ヶ月間は48時間しかハーモラルにいられないんでしばらくは下準備になりそうです」
「なるほど。それがであればまずはセンタレアの南にある臨海国のシンヘルキに向かうのはどうですか」
「シンヘルキ?」
「えぇ。シンヘルキはセンタレアから旅をする冒険者にとっては初めに向かうと言っても過言ではありません」
「シンヘルキかぁ…あそこならベリダバ山を超えず道中で小さな村もあって初めての冒険をする者なら登竜門とも言えるべき場所だな。私もEランク冒険者の頃目指して冒険したものだッ!」
「それにシンヘルキは荷物引きの魔獣を多く取り扱っています。旅をするなら欠かせないでしょう」
「それなら決まり。シンヘルキに行きます!そこまではどれくらいかかるんですか?」
「ざっと6日程ですね」
「なるほど。6日ね…って6日ぁっ!?」
6日って事は6日って事だよな!?
いや何言ってんだ!
144時間…ハーモラルにいれる時間は48時間…単純計算で3週間かかるってこと!?
ぐぬぬ…しょうがない、かくなる上は…
「スノウ…ごめんけどそこらの道中で5日待ってくれないか」
「待てるかぁ!?何考えてんのあんたはぁ!?」
杖で思いっきり頭を打つ。
石とか鉄製だったら多分死んでた。
「だったら地球に戻ったほうが100倍いいわ!」
「あ、そっかそれがあったわ。じゃあ一緒に住もう!」
「確かニ。地球にもアヴェダレオの手が伸びているのならその方がいいかモ」
「団長!?」
「楽しそうだな。私もできればついていきたいものだッ!」
思ったより自分の味方がいない事にスノウの
「な、な、なんでぇぇぇぇぇぇ!!!」
と言う心の底からの嘆きが異界管理局の敷地に響き渡った。
ハーモラルの早朝、夜明けがちょうど始まった。
ここから日向凛斗の二度目の冒険が始まるのだ。
背負っている鞄には異界管理局よりもらった傷に効く薬草の練り物、速攻性魔力回復薬、日持ちする食料などなど旅をする冒険者にとってはなくてはならない物が入っている。
「それじゃあシンヘルキに向けて…出発!おー!」
「……おー」
意気揚々とこれからの冒険に期待を膨らませるリントと、意気消沈とこれからの冒険に不安しかないスノウ。
「スノウ元気ないぞー?」
「あったりまえでしょ!!私は旅に出る気なんて無かったの!はぁ…もっと魔法士団で鍛えたかったのに…なんで団長もあんなお願い聞いちゃったの…」
「いーじゃん。Bランク冒険者からスタートなんだから。俺なんて自分から言ったとはいえDだぞ」
「欲しいのは冒険者の肩書きじゃないのにぃ…」
大きなため息を吐いて肩を落とす。
「ま、過ぎた事に文句言ってもしょうがないもんね。上手い事やってみよう」
「そーだぞ」
イラっとしたので何となく杖で頭を打った。
「痛い」
「ほら、とっとと行くわよ。こんな旅終わらせて早くセンタレアに戻るんだから」
「へいへい…痛ったぁ…」
再度、言わせて頂こう。
これは二つの世界を救う為に奔走するバス停から旅に出た勇者とその一行の物語である。
そしてその物語は今より始まったのだ。




