幼女団長とアホ王子
お話は少し遡って3日前の地球。
金曜日の夜、午後7時。
凜斗とスノウはハーモラルに向かうべく日向家を出発。
それほど離れていない近くのバス亭に移動した。
「忘れ物はない?」
「そもそもそんなに持ってきてないわよ。そんなことよりまだ人通りたくさんあるけど大丈夫なの?」
「大丈夫、ばあちゃんが人払いの結界を張ってくれてるから。このバス停も今は使われてないし」
「ばすてい…?ん…?」
先週と同じようにチケットを天に掲げると空に一筋の光が遙か下のここに向かってくる。
「なになになに・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!」
例のごとく空からバスが落ちてくるが初見のスノウは屈んで頭を守った。
「いつまで目ぇ閉じてんの。行くよ」
「わ、分かってるわ!」
平然とした顔で錆びた鉄の箱の中に入り込むリントの後を追い乗り込む。
一番奥の椅子に腰を掛けていたのでその横に同じように座ると微弱な振動を感じるがそれはすぐに無くなり、外の窓から見える景色はどんどんと建物が下に見えていく。
異世界ハーモラルのセンタレアにあるギルド紹介場に併設されている訓練場は自らの力を試したい冒険者や、力を高め合う試合場としても利用されている。
それは今とて例外でない。
「イッス!ウッス!あのカカシにサイクロンスクリームアタックを仕掛けるぞ!」
「了解っす!」
「行くっすよぉ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
アッスを中心にイッスとウッスが後ろに立つフォーメーションを取り魔力を最大限まで高める。
イッスとウッスは自らの魔力をアッスに送り、風魔法を纏った大剣をアッスがカカシに向けて振るう。
そして巨大な風の刃がカカシを襲うべくゆっくりとだが進んでいる。
「おお!成功したっす!」
「いっけぇぇぇ!」
もう数秒でカカシに風の刃が触れる。
このままいけばこの作戦は実戦でも使っていけるかもしれない。
あと2メートル…1メートル…50センチ…いける!
そう思ったのもつかの間。
カカシの背後の壁から何処かで見覚えのある車輪のついた鉄の箱が破壊音を轟かせながら訓練場の壁をぶち抜いたのを見てアッス達終わりなき死者は目玉が飛び出た。
「うっぷ。ほんとに安全運転しねーなこのクソバスは…」
「もうだめぇ…吐きそう…」
おぼつかない足取りで鉄の箱から出てきたのは2名の男女。
いずれもかなり顔色が悪そうだ。
「ここ…紹介場か。おえっ」
なるほど
どうやら地球からハーモラルに移動する時の着地点は最後に48時間を迎えた場所か
これは大事だ、覚えておこう
「リリリリ、リントさん!?」
名前を呼ぶ声に気が付き顔上げるとそこには見覚えのある男性三人組が驚愕の表情で見ていた。
「おぉ、アッス達じゃん。久しぶり~」
「なにぃリント…知り合いぃ?」
「ス、【スノウドロップ】!なんでこんなところに!?」
「そういえばこの前、訓練場で謎の鉄の箱にスノウドロップと冒険者が連れていかれたって噂で聞いたぞ…」
「リントさんの事だったのかぁ。そういえば初めてあった時もこんな感じだった!」
「アッス、イッス、ウッス!俺達行くとこあるから!邪魔してごめん!」
「ちょっと!リント!」
スノウの手を引いて訓練場を足早に出て異界管理局に走る。
街に出て走るも地球の環境に慣れかけていたので身体の軽さに驚いた。
「いやまず他に謝ること色々あるでしょあんた!?壁三回も壊して!」
「後で謝る!」
「てゆーか!私帰りたいんだけど!!」
「あともーちょっとだけ付き合って!」
十数分、街を走ると目的の異界管理局に着く。
何のアポも取ってないけど多分なんとかなるでしょ!
「異界管理局…?」
「そ。アベサダオの事説明すんの俺だけじゃ多分無理!」
「アヴェダレオ!分かったわ。ここまでは付き合ってあげる」
正面口から敷地内に入る。
たしか前回はあの大きな扉から入ったよな。
庭を眺めながら前方に見える扉に歩く。
「そこのもの。止まれ」
淡々と落ち着いた声で制止をかけられた。
この声は確かハクトという名の獣人の執事だったはず。
「リント・ヒナタ様でございましたか。失礼しました」
「ハクトさん。こっちこそ急に来てすみません」
「いいタイミングで訪問されましたね。ちょうどセンタレアの第一王子とその直属の魔法士団の団長がいらっしゃっております」
「いいタイミング?」
「えぇ!団長来てるんですか!?」
「おや…あなたはスノウ・メロウル様ですか」
「怒られるかなぁ…何も言わず5日もいなくなってたもん…怒られるか…リントのせいにしよ」
「でもそんなお偉いさんがなんで異界管理局に?」
「部屋に向かいながら話しましょう。中へ」
ハクトが扉を開けると中へ案内される。
どうやら最上階でいろいろな話をしている様子。
「士団長や王子が異界管理局に来た理由は一つ。あなたに関してです、リント様」
「俺?」
「10年振りのチキューからの来訪者、そしてそのチキューにハーモラルの魔獣が現れたとなれば解決に動くのが当然。これを機に再度、チキューとハーモラルの技術文化交流を再び行いたいのです」
「そんな偉い人たちがわざわざ来てくれるなんてちょっと照れるなぁ。だけどそんな難しいことを説明されてもわかんないよ」
「リント様は架け橋になって頂ければいいのです。難しいことは大人に任せてください。こちらです」
扉の前に案内される。
けれどその扉からは強烈なナニカを感じた。
たしかに他の扉とは明らかに材質というか重みが異なる。
気圧されていると見かねたハクトが戸を叩く。
「失礼します。御客人をお連れいたしました」
「し、失礼しまーす…」
「失礼しますっ!」
廊下と部屋の境界線を跨ぐと明らかに身体が重く感じる。
その正体は健三さん、の前に腰を掛けている澄み渡る空色の髪の女だ。
女というよりは幼女と見間違うほど背丈は小さく顔つきも幼い、チャーミングな見た目だ。
そんな幼女の放つ圧倒的な存在感に気圧されている。
扉じゃなくてその奥のこの女に気圧されていたのか
この女が俺達を見て何を感じて何を思って何を話すのか、視線が離れない。
その口が動く、何を話すんだ。
「スノウ。戻ったのね、無事で良かったワ」
「は!はい!スノウ・メロウル!ただいま戻りました!説明もなく突然失踪してしまい申し訳ございません!」
深々と頭を下げるスノウを本気で心配していたのか顔には安堵の表情を浮かべている。
それよりこのスノウの上司…
じいちゃん達に似た魔力や雰囲気を感じる…かなり強い…!
「無事ならそれでいいノ。紹介場でスノウらしき女の子が新参の冒険者とともに鉄の箱に捕らえられて行方不明って聞いて焦ったけど異界管理局から連絡が来てネ。ケンゾーさんの話と噂を照合すれば真相は簡単に見えル」
液体が入っているティーカップを口元に動かし茶を飲んだ。
「そしてその男の子が噂の…」
「リント・ヒナタ君です。現状、地球とハーモラルを行き来できる唯一の人間です」
「そうかぁ!キミがあのキョーヘイ氏の一人息子!」
スノウの上司らしき女の人の横に座っていた金髪の男性が立ち上がり前に来た。
年はおそらく5個くらい上。
かなり身なりが整っており身にしている鎧は軽装ながらもしっかりと主の身を守ってくれそうだ。
というかこれかなりいい魔獣の鱗とか鉱石使ってない…?
「リント・ヒナタです。よ、よろしくお願いします?」
握手に応える。
手の硬さや荒れ具合、薄っすらと感じる魔力の流れからこの王子も相当な実力を持っていることがわかる。
「私はセンタレア国王の第一王子、ミラバル・センタレアだ。身分は王族だが肩書は一応冒険者、キミと同じというわけだ」
「王子様が冒険者やってていいんですか!?」
「内政とか経済はからっきしでね!跡取りは妹に譲っているんだ!あっはっはっは!」
いや笑い事じゃないでしょ!?
ここにいる俺以外の人全員センタレアに住んでますが!?
「それでそこに座っているキュートな女の子は_」
「自分で喋りまス。黙ってくださいアホ王子」
アホ王子!?
王族だよねこの人?
「べつにアホでいーもん。俺めっちゃタフだし」
嘘じゃんそんなに傷付く?
傷つきすぎて素の一人称に変わってんじゃん!
「私はセンタレア国直属魔法士団の団長。フィナンシェ・モンブラン。ヨ」
すげえかわいい名前だな
とても甘くて美味しそう
「フィーちゃんって呼んでもいいわヨ」
「団長!」
なんかとても愉快なお方たちで…
スノウもこんな楽しそうな人達と過ごしてるんだなぁ
なんて考えておると消沈していた王子が立ち上がってリントの肩をガッチリと掴む。
「そうだ!リントくん!キミのコトをもっと知りたい!識別水晶を出してくれないか?」
「識別水晶を?えーっと…」
腰に掛けている小袋から先週もらった識別水晶を取り出すとミラバルもネックレスのように首に掲げている識別水晶をリントの水晶に向けると、お互いの水晶から触れられない画像が映される。
「Aランク冒険者!?めっちゃすげぇ!」
「ありがとう!えーと、キミの冒険者ランクは…D!?」
「そうですよ。最初はCだったんですけどブランクあったから下がりました。しょうがないですよね」
到底信じられないと言わんばかりにリントの身体をそこかしこに触りまくる。
一度離れて何かを考えるも納得がいかなかったのかまた触る。
「仮にCだとしたら…今のCランクはこんなに強いのか…」
「えーっとぉ…もしかして俺達いると本題の話進まないですか?だったら一旦席を外しますけど…」
「いえ、大丈夫です。凜斗くんとスノウさんもご一緒ください」
「わ、私も?」
「では本題に入りましょう。フィナンシェくん」
「ええ、そうネ。コホン」
一度、咳払いをして場の空気を改めさせる。
「リント・ヒナタ殿。異界管理局よりあなたに協力するよう正式な依頼を受けており、我らセンタレア国直属魔法士団はこれを了承。この世界に詳しく、かねてより親交のあったスノウ・メロウルをあなたの協力者としてお貸しいたします」
リントとスノウは首を横に向け目線を合わせた。
「「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」




