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「野咲、どうした?」
千羽の問いかけで我にかえると、昼休みの喧騒が一気に耳に流れ込んできた。陽の手には千羽から渡された一枚のプリントが握られている。
「ぼーっとしてるみてえだけど、大丈夫か?」
「あ、うん、大丈夫」
適当に誤魔化して再度手元に視線を落とす。
「んで、図書室の当番だけど、俺は委員長だから最後の鍵締めの責任者ってことになる」
「つまり、十八時まで毎日居残りするってこと?」
再び当番表に目を落とす。委員長の欄には「千羽篤」と印刷されていた。
千羽は部活に入っているにも関わらず、委員長まで引き受けてしまう人の良いところがある。
「俺部活あるから鍵はそのあと締めに行くからいい。ただ、本の貸し出しは野咲に任せることが多くなるかもしれねえ」
「私は部活ないし全然大丈夫だよ」
陽は申し訳なさそうにする千羽にひらひらと手を振った。
「顔だせる時は行くよ」
「うん、ありがとう。でも野球部厳しいし、全然無理しなくていいからね」
陽がそう答えると、千羽は周りを気にする素振りを見せてから少し小声で言った。
「いきなりでなんだけど、お前、高校入ってから変わったよな」
「な、何よいきなりそんなこと……」
陽は痛いところを突かれた気がして言葉に詰まった。
千羽が気まずそうに目を逸らす。
「なんかお前、すげえおとなしくなったっつうか。別に幼馴染だからって訳じゃねえけど、何かあったんなら聞くからな」
そう言い残して千羽は足早に去っていった。
「陽、話は終わった?」
近くで待機していた紗英と食堂へ向かう。陽は食堂のおばちゃんにうどんを注文した。
「またうどん?」
「これ安くて美味しいの」
着席すると紗英は自分の弁当を広げながら言った。
「てかさ、千羽って陽のこと好きだよね」
「うっ……急に何!」
陽は啜ったばかりのうどんを思わず飲み込んだ。
「だってさ、いくら幼馴染とはいえ、あのぶっきらぼうがあんなこと言う?部活あるのにわざわざ同じ委員会入ってるし」
「聞いてたの?」
「聞こえたんだよ」
紗英は唐揚げにかぶりついた。
「そのうち告白でもされるんじゃないの?」
「やめてよ、もう」
陽は箸を置いてため息を漏らした。
「ただでさえ果穂ちゃんとお茶することになって気が重いのに」
「まあ、何言われるのかは大体想像つくけどね」
陽と紗英はうんざりした顔で食事を終えた。




