Part58 おきつねさま
洞窟の崩壊前…都市部での戦闘…楓は土砂崩れから人々を守りながら動き続けていた
「本当…どういうことなんでしょうかねぇ…!」
土砂を防ぎ、遠くにはけさせる度に、すり減っていく魔力…それは魔術では補い切れるものではないうえ、そもそものフレアという師の教えにより過剰な魔術による環境の魔力を摂る行為を禁止されているため、徐々に押されていっているのは言うまでないだろうが…
「崩れが止まらない理由は一体…フレア様や皆は無事だろうか…春馬は絶対に無事だとしても……ッ!?」
突如、土砂の勢いが強まる。何か大きな存在が起き上がり、地面を押し上げられたように土砂が襲ってくる…
あぁ…そういえば…さっき…この国の雨がやまない理由を聞き込みしてたとき…
………
「呪われた地…ですか…?」
「そうそう…国によっては恵の雨なんて言われてるけど、私らはさー…この雨を恵なんて思わないわけ…どちらかと言えば、雨に縛られ、雨がなければ生きることもままならなくなったこの国においては…もはや呪いって言われてるんよねー…」
気だるげに言う様には諦めだけではなかった。どこかしらで、いつか…いつの日か晴れ模様を見たいという願望が垣間見えるそんな…期待の目をしていた
「その…それは…」
「気を遣わないでいいよ…私のおばあちゃんが、私が小さい時からずっと言ってたんだよ…なんだったら、おばあちゃんが小さい時からさ…私らは呪いを解くかないと…呪いに許してもらわないとってね…」
その文言にはとても嫌気だけで語っているのようには思えなかった。まるで…何かを伝えたい…そんな文言な気がする。そのことには気づいていない様子の目の前の女性。しかし、話せてスッキリしたという顔つきになっており、同じところ出身同士では愚痴の出し合いになるのと違い、聞くだけの私の存在が救いになったのだろうか…?
「お話、ありがとうございました」
「いやいや…こちらこそ愚痴みたくなってさ…聞いてくれてありがとうね?」
別れの挨拶をしたと同時に、背を向ける女性…そそくさと去る姿は早く帰りたがっていた…そんなふうに見えるが、おそらくそうではないんのだろう。他の人達もいち早く動こうとする者が多い…そういう国民性なのだろう
「次に聞き込みをするなら…老人か…」
歩を進める。私自身もせっかちであるため、この国はすごく歩きやすい。だから…すぐに出会えた。目的の人物に
「あの…」
「はい…?」
掠れた声だが、湿度の高い国でもあるため、それでも普通の老人に比べれば、潤いのある声に感じる。訪ねた老婆はレインコートに身を包んで体格がわかりにくいが、なんとなく腰が曲がり、レインコートのフードの内から香水の香りを感じた。雨なのに…?
「お聞きしたいのですが…この国のこの…雨についてでして…」
「あぁ…あんた…この国に来るのは初めてかい?」
怪訝そうに…少し嫌気が刺してるように感じる冷たい声色に感じる。でも、しっかりと話してくれた
「…とまぁ…この地は呪われてるんだよ…」
「呪われてる…一体…何故ですか?」
そう聞くとさらに顔が曇る…しかし、あまり嫌そうではないのか、話を続ける
「昔…私が産まれるよりも遥かに昔…ここは戦地だったんだよ…」
「戦地だった…?つまり…過去、戦死した者の恨みが…的な奴ですか?」
「まぁ…そうだねぇ…愚かにも人族が他種族を襲った結果…多くの他種族がこの地で亡くなられた…もちろん、人族も…山には人の恨み…森深くの地には様々な生き物の恨みが…悲しみが…この地を覆っているんだよ…」
先ほどとは違い、何故か穏やかそうで…辛そうな表情になっていた…その顔が………今、重なった…瞼の裏側に…
………
「…ぅ…ぐっ…ぁ…」
半身が土砂に押しつぶされ、右の脇腹が潰れているのがわかる。間違いなく致命傷だ。でも…我々魔術を操る者にはそうでもない…間違いなくダメージではあるし、痛みで集中も切れる…でも…倒れている場合ではないのだ
「煌癒法…フレーリング…」
魔術。煌癒法…止血ではなく、組織の復元を主とした術法。私が初めて覚えた魔術…魔術には基本的に名称は無いが、わかりやすくするためにそう呼んでる。ネーミングセンスでわかるかもしれないが、煌癒法は私が…フレーリングはフレア様が名付けたんだ。燃える炎…壊す炎ではなく、癒すための炎…それをよく表していると思う
「フレア様…少し勇気を貸してください…!」
傷が治れど、痛みが引かない。神経は繋がってはいる。しかし、繋がっているだけで神経系が完全に治ったわけじゃない治った部分は刺された後のようにズキズキと強く傷んでいるのだ。神経だけを傷つけられたみたいな痛みなのだ。動きたくない…そう思うほどに痛い。だからこそ、勇気を貸してくださいと主人に願ったのだ
「あぐっ…!」
足も折れている…治すしかない………違和感はあった。しかし、そこに来るまで気付かなかった…先程の土砂崩れも…目の前のソイツも…
「ォォォォ…!!!」
「…ッ!」
土砂を纏った、上半身だけの鯨のような獣…強い呪性魔力が喉を潰した…いや…潰れてはいない…ただただ…その圧でそう感じただけだった…怯えている…痛みで怯んでもいる…動け…動け…動け!私!
「火削ぎ!」
努めて冷静に攻撃し、後退する。本当は怖い…ありとあらゆる戦いが怖い…というより、痛いのが嫌なのだ。誰と戦っても…痛みを恐れている…少しではあれど、耐性があり、痛みも傷もそんなに無いはずなのに…私は怯えてしまう…義務感で春馬と稽古をしていたが、ずっとずっと嫌だった…
「火裁」
全て…火なんて効いていない…恐らく、土砂が不燃性なのだろう。足がすくむ…覆い被さるように土砂の肉が鯨のヒレ飛んでくる。避けられない…怖い…!
「紅蓮撃ち!」
肉を潰す…潰し合った。痛い…痛い痛い痛い…!!!
「フレーリング!フレーリング!フレーリング!…炎練轍!」
火の斬撃…二つとも効かない…火の突き…二つとも効かない…!!!私は…ッ!痛いのにッ!
「ふぅぅ…!」
落ち着いて…助けて…フレア様…あのときみたく…いや…違う…私は…自分より歳下の子に頼り切りで…恥ずかしくないの!?もっと…勇気を出せ!
「…」
無理だ…私は…耐えなきゃ…
「砕炎唸…」
打撃は通っている…炎は意味がない…私の技はほとんど無意味…恐らく、効いてるのは私の拳だけ…痛い痛い痛い…!!!
「…打焦」
本来、殴ったところが焼き焦げるもの…もちろん…打撃意外は効いていない…この調子では私に勝ち目は殆どない…どんどん、私は攻撃を受けている…土砂が…私の中を抉っているのが!………よくわかる…
「あ…」
死ぬ…振られる…土砂が…そのとき…空に晴れ間が見えた…遠くで、ガルさんの魔力が霧散した…でも…弱く弱く消えかけている…そこでは呪性魔力の霧散も感じた…あぁ…森の奥の呪いってのは…じゃあ…山の呪いは…こっち…
「雨に縛られた…地…ね…他種族に縛られた人か…私と似たもの同士なのかもね…」
日が私の目に掛かる…魔力が滾ってきた…光の魔術…あまり好きではなかった…でも…私の最適性は光の魔術なんだ。だから…神聖なる九尾なんだ…
「痛い…けど…今は…そんなでもないかなぁ…ごめんなさい。私には皆様を救い切るのは不可能ですが…でも、私も皆様も…できれば…もう、苦しまないように…今日だけは…本気で消すから」
光の魔術を発動する…概要は…ただひたすらに呪いを消し去るために、本気で練り上げた魔力の結晶…
「天狐の零れ雫…」
俗に言う…加護…だったのかもしれない。私には癒しを…呪いを解いて優しく包む…癒し…治癒を…浄化するたびに恨み言が聞こえる…でも、徐々に数も減ってきた…そして…最後に聞こえた…
"『ありがとう』"
「…気にしないで…こちらこそごめんね…助けてって言っててくれてたんだよね…」
潰しに来ていた土砂…あれは…亡者達の助けてと手を伸ばしていたのだろう…
「あぅ…」
倒れた…?私…あっ…凄く眠い…眠気が思考を止める。眠気が動きを止める…いつまで経っても完結しない思考…それもいつしか…止まる。完結したからではない…強制停止…穏やかに…私は眠り落ちた
「おかぁさまぁ…ふれあしゃまぁ…」
ただ、寝ていたときに一つだけ思考してた…すごく幸せな夢を見るために




