1-2 岩塩村の傭兵 3
帝王国軍はまるで気付いていないが、岩塩村のザーベオン駐機場は全て地下に埋設されていた。傭兵なんて奴らは獰猛で、常識はずれなザーベオンばかりに乗るので、こうでもしないと、住民が落ち着かないのだ。
二人はパブの裏手に出て、地面から生えたパーキングメーターに貨幣を入れた。
「わてがこの前の収入で、何のザーベオンを買うたか分かるか?」
「分からねえ」
縁藤の問いに、川強は答えた。想像もつかない。
「五億ゴールドの首の報酬で、ザンファーレンを買うたんや」
二人の前のアスファルトの地面がゆっくりと割れていく。そして巨大な籠が二つ、地中から現れた。中におさまるのは、二人の傭兵のザーベオンたちだ。
縁藤のザーベオンはライオン型のザンファーレン。
レアものだ。川強も、初めて見る。値段の高さ、整備の難しさ、実戦データの少なさという三拍子揃ったこいつは、いままであらゆるザーベオン使いの職種から敬遠されてきたのだ。
だが、縁藤はこの手の常識をくつがえす。
機体は赤く塗装されていて、用途のよく分からない装備が体の各所から生えていた。
「ほぉー、いつの間にか五億も稼いだのか。俺のザーベオンは、今も昔もしがないガンベータスだ」
川強が言う。彼のザーベオンが出て来る。トラ型のガンベータス。流線型を極めた体に、口から生えたサーベルタイガー風の牙が目立つ。
戦闘用にしては妙なことに、火器を搭載している気配がなかった。これは川強の美学に由来した。
二人はそれぞれのコクピットに収まると、ゆっくりとザーベオンを進めた。
「じゃ、帝王国のメントクアでも何でも潰して、アルデから賞金頂こうかの」
「なるほど、五千万ゴールドくらい頂くとしよう」
川強は自らもらう賞金の上額を定め、人生を秩序で律した。
「いくぜ!」
川強はペダルを踏み込んだ。ガンベータスが走り出す。通常のザーベオンでは考えられないほどの加速だった。
「レーザーソード・オン!」
トラの背中の装備が起動した。光の剣が生み出される。それはトラの体の両側へと伸びた。
これを使ってすれ違いざまに、敵を斬るわけだ。
ガンベータスは足の速いトラ型ザーベオン。それに、どこかの軍隊のオオカミ型ザーベオンのように背中に大砲を乗っけたりもしていないために身軽極めた。
さながら一閃の稲妻だ。メントクアの傍らを駆け抜けると、束の間を置いて、メントクアが真っ二つになった。
「敵だ!」
黒い服にヘルメットとエアマスクという出で立ちの帝王国軍パイロットは、メントクアの足元で、凝ってしまった肩をどうにかしようとしていたが、ようやく襲撃に気づいて、自機に駆け戻る。
「川強、援護するやで。ロング・グラン・ライフル、オン」
ライオンの背中から肉腫が膨れ上がった。これは砲台だった。
ロックオン成功。
「ファイアー!」
砲弾が、いまだパイロットが起動準備に手間取るメントクアを強打した。腕と尾が吹き飛び、メントクアは大量出血を始める。
「続いてマシンガン攻撃!」
今度は腹の方から肋骨をこじ開けて機関銃が生えてきた。ザンファーレンは全身に武器を潜めているのだ。
二列の曳光弾が、動きの鈍いメントクアの一機に叩き込まれる。これでもか、という銃撃に、装甲が火花を散らしまくった。
頭部のキャノピーに無数の白いヒビが走り、その向こうで帝王国軍パイロットが破裂する。メントクアの方も体中から煙と血を流して崩れた。
縁藤はたちまち二匹葬った。だが、撃ち過ぎるということもしない。砲身の劣化は防がねばならないし、弾丸もこのごろ高価だ。この辺が軍人と傭兵の意識の違いだった。
一方で、ガンベータスは遠慮など知らない。ものすごいスピードで岩塩村の中を飛び回る。
長い牙とレーザーソードは画具。メントクアの血は塗料。
メントクアどもは同士討ちを恐れて反撃もままならない。そこで村の中心に固まり、ガンベータスに対して弾幕を張ろうとするが、その前にザンファーレンの砲弾が襲ってくる。
帝王国軍中佐は喉の奥でうなった。
川強はだいぶ調子が出てきたので、先日開発した技を試すことにする。
「秘技、かざぐるま!」
トラの背中のレーザーソードが回転を始めた。みるみる回転スピードは増して、それは金色の円盤にしか見えなくなった。
怪異、トラ型ヘリコプター。
ガンベータスの脇腹から青いイオンの炎が噴き出し、ガンベータスは急加速する。川強は強烈なGで座席に押し付けられる。
トラは同時に二匹の半魚人に飛び掛ると、前足で一匹ずつ地面に押さえつけた。頭の上で高速回転するレーザーソードがメントクアを千切りにしてしまった。
「さて、残るは一匹。潰すか」
返り血で真っ赤のガンベータスが残ったメントクアを睨んだ。