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1-1 グォース海岸上陸戦 5


 <アルデ首都ファラーデ>


 人口一千万の大都市、アルデの首都ファラーデ。


 ファラーデの一角にフェンスで厳重に防御された一角がある。その向こう、いかにも無理やり作りましたよ的三角形の敷地に高層ビルが建っていた。これこそがアルデ軍最高基地だ。


 広い会議室のテーブルに大勢の隊長たちが並ぶ。孫考はスーツで行ったが、関拍寺はいかにも慌てて来たことを強調するかのように、めちゃくちゃな服装。


「お宅の服装、なかなかいいね」


 大程が笑って褒めた。


「てめえは、なんでそんなに服装に無頓着なんだよ!」


 関拍寺が噛み付く。大程は無個性な白い寝間着のまま会議に出席していた。

 ふいに、会議室がしんとした。立派な口髭を生やし、軍帽をかぶった初老の男が入って来る。

 アルデ軍将軍、井甲いこう 仙仁せんじであった。


「まずは、戦況報告をどうぞ」


 井甲は席につくと、言った。

 孫考、関拍寺、大程は互いに非難がましい目付きを向け合って、報告の役を押し付けあっていたが、やがて大程がやらざるを得ないという気になったらしい。


「分かりやすく言えば、津波に押し流される家々のごとき負け方です」


 大程は一同を見回した。


「グォース海岸は、我が軍のザーベオンと兵の血で染まり、敵は破竹のごとき進撃。我が方の民は不安がって泣き叫び、無能なる将は顔面を蒼白とするばかり。世界の終わりがやってきました」

「具体的な数値を上げたまえ」


 隊長の一人が要求した。


「ええっと、具体的な被害は……」


 大程は口ごもり、脂汗を額に浮かべる。彼は二桁以上の数字を考えるだけで偏頭痛を起こす、数字に弱い男であった。


「それに関しては、この資料をご覧ください」


 孫考が自分で用意したプリントを配布し始める。ヒストグラムや有効桁数を十二とする数字の集まりに、居並ぶ隊長たちは満足したようだ。

 孫考は、一つ貸しだぞ、という顔を大程に向ける。危うく首のつながった大程は安堵し、今度はホワイトボードに戦場の様子を描き始めた。


「写真はないのかね?」

「ありません。でも、大丈夫です。兵からの報告を元に、小生は再現できます。アルデ兵一人一人が小生の目なのです」


 だが、まもなく大程は失敗を悟った。

 死んだザーベオンのコクピットから覗く、アルデ兵の眼は敗北者の眼であった。一方で、ボードの右半分から攻め寄せてくる帝王国軍はあまりに強大で、無慈悲であった。

 これは事実であるが、しかし、絵を見た諸隊長から絶望が広がるのがはっきりと分かった。


「もう結構だ、大程隊長」


 井甲が鋼の声で命じた。大程は小さくなって、席に逃げ戻る。


「なんということでしょう。小生は絶望を広めてしまいました」


 大程は泣きそうな声で言った。


「だったら、例の津波と家々とやらの絵でも描くべきだったんだ」


 関拍寺がアドバイスする。


「もっと強いザーベオンを集めてこい」


 井甲は隊長たちを指差しながら言う。へいへい、と孫考はうなずいた。


 会議はそれで終わりになった。重大な会議を突然、終了してしまうのは、この将軍の十八番であった。

 出された命令は、既成の方針であり、そこに改変可能な余地はないのだ。


「さしあたりの手として、岩塩村にでも行ってみるか」


 孫考は同期の二人を見やった。


「ほー。あそこの連中に頼るか」


 関拍寺が唸る。


 今現在、グォース海岸の帝王国軍と首都ファラーデの間に、防備はほとんど存在しない。そして、ファラーデが墜ちれば、それに続く運命は夜逃げか、自殺か。


 是が非でも、今すぐザーベオンをかき集める必要があった。


 首都にまとわり付く、ごたごたやしがらみをすべて関拍寺に押し付けると、孫考と大程はレーザーアイルンに飛び乗った。

 間に合えばいいのだが。


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