1-1 グォース海岸上陸戦 4
<ジュベロ大陸上空>
八機のアルデ軍、飛竜型ザーベオン『フレーズン』が奥地からすっ飛んできている最中だった。
フレーズンのコクピットに座るのは、やはり迷彩服をまとい、緑色のヘルメットをかぶったアルデ兵。
小隊長はレーダー・ディスプレイ上の細かい目盛りを読んだ。二百四十キロだ。間違いない。
「こちらフレーズン12号小隊長機。レーダーによれば、二百四十キロ先に敵はいる」
「こちらフレーズン21号。隊長、嫌な予感がします。なんだかすぐ近くに敵がいるような気がしてならないのです」
古参のベテランパイロットである副長が言う。
「そんな馬鹿な。レーダーによると、一番近い敵でも二百キロ以上遠くにいるはずだぞ」
レーダーは雄弁に語る。この小隊長は、もはやレーダーを通してしか現実を認めることができなかった。
「ぬあああ!」
突然の悲鳴が響く。
「14号!」
殿のフレーズンが一撃をくらい、火達磨になって落ちていった。
雲の海の中から、どこまでも黒い色の翼を広げて敵が現れる。しかし、レーダーは依然無言のまま。
「あれはダークエアサディオン! 帝王国空軍の待ち伏せか!」
ヤタガラス型ザーベオン『ダークエアサディオン』。
「奴は凄まじい素早さを持っている上に、レーダーに映らないという特殊なボディでできています」
副長が叫んだ。
フレーズンはプラズマ・ジェット屁をこきながら推進するので、赤外線波長で見ると尻がまばゆく燃えているのだが、ダークエアサディオンは違う。それは広大で暗黒の翼を広げ、音も無く死を撒き散らす。
「全機、敵をロックオンせよ!」
小隊長が悲鳴と化した命令を飛ばす。
ロックオンに成功した機はなかった。
フレーズンたちは胴体下の三連機銃を撃ちまくるが、黒いカラスはいかなる奇術を用いてか、熱的痕跡も残さずに全てをかわしてしまう。互いに高速で飛びあうドッグファイトでは、肉眼で敵を追い続けるのは無理だった。フレーズンは翻弄された。
電子面の敗北は、そのまま敗北に直結した。
ダークエアサディオンの三本の脚の中で、緑色のエネルギーが溜まって、膨らんでいく。さっと鉤爪が開き、エネルギー弾が解き放たれた。大きく弧を描ながら、暗雲を切り裂くと、かわす術も無いフレーズンを襲った。
その体の装甲が瞬時に蒸発し、中の金属血管や臓器、プラズマ・ガス嚢胞がむき出しになる。三機のフレーズンが爆炎に包まれた。
歯が立たない! レーダー信者の小隊長はショックのあまり、指揮能力を喪失していた。
「フレーズン部隊、撤退します!」
代わりに副長が生き残りを束ねる。飛竜どもはプラズマ・ジェット屁をひりながら、とんずらした。
ダークエアサディオンはそれを見送り、ゆっくりと雲の中に溶け込んでいった。
「第二波のフレーズンどもも、全て呼び戻せ」
さすがの孫考の顔からも、眠たげな雰囲気はかき消えた。いまや気だるげな雰囲気が残るのみで、これは孫考の本気モードを意味する。
敵が十分に空襲に備えていることは予想できていた。が、それはそれで、フレーズンを送って確かめておく必要があった。それにしても、ダークエアサディオンとは……。
「早期警戒装備のフレーズンはどうしたんだ? それがいればこんな惨敗はしないぞ」
「最初に撃墜されたフレーズン三号がそれだよ」
大程が答える。
なるほど。アルデ軍史に残る惨敗を喫してしまった。帝王国はこちらの手全てを読み、完璧に裏をかいてきた。
思わず、内応者の存在などを疑いたくなる。
さて、これからどうしよう。こちらは虎の子ザーベオン部隊が壊滅。帝王国軍は、思うに無傷だ。
すぐにでも進撃してくるだろう。首都ファラーデを守る方法なんてあるのだろうか。
孫考と大程が頭を振り絞る中、関拍寺は通信機の呼びかけに気づいた。
「将軍が、お呼びだ」
「ファントードさんが? クリーニング代請求されるのかな?」
大程が弱気な声を出す。
「いや、うちの将軍だ。首都へ行くぞ」