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1-1 グォース海岸上陸戦 1

 <アルデ防衛都市バルベイジア 通信基地>


 ここは近代的なドームやタワーの並ぶ整頓とした見た目ながら、基地の中の人間やザーベオンは落ち着いた気性という、居心地のいい基地だった。


 三人のアルデ軍人が、過去の思い出について語り明かす夜を過ごしていた。

 孫考そんこう 小三郎こさぶろう。アルデ軍通信隊長。目は開けているが、起きているのかどうかはよく分からない雰囲気の若い男で、起伏に乏しい顔の上、髪の毛を完全に頭になで付けている。


 関拍寺かんぱくじ 宋西そうせい。アルデ軍作戦隊長。こちらは打って変わって、コーヒーか、さもなければ覚醒剤を摂りすぎた人間の目を、厚い眼鏡の向こうで光らす男だった。口調もガミガミとしているので、話しかけられると話し相手は必要以上に謝らなくてはならない気分になる。


 大程おおほど 保家男ぼけお。アルデ軍補給隊長。常人には判別不能な問題に苦しむ芸術家のように、胃の重そうな顔をしているかと思えば、次の瞬間には鼻歌を歌っていると言う男で、彼を扱える人間はアルデには極めて少なかった。


 こういう晩は、手の中にバンズ・ウイスキーのカップなどあるべきだったが、バンズ公国が帝王国に攻め込まれて以来、アルデにはバンズ・ウイスキーが届かなくなっていた。貨物船が帝王国のザーベオンに沈められているらしい。

 万事バンズ休すだ。ウイスキーは無い。


 おかげで三人は手ぶら、気分も盛り上がらない。しかし、素面であることが効を奏したのだろうか、大程の卒業試験での失策が明るみに出て、三人の共通の思い出はより正確なものへと修正された。大きな収穫で、三人の間に満足感がもたらされた。


 通信機が音をたてる。ここは通信基地なので、通信機が腐るほど置いてあるのだ。三人はじゃんけんをして、負けた関拍寺が体を伸ばして、受話器を耳に当てた。


「なに! 帝王国が!? そいつは一大事だ!」


 関拍寺の顔が青ざめる。

 孫考と大程は顔を見合わせた。関拍寺が巻き込まれていた例の離婚調停が、ついに恐るべき破局へと至ったのだろうか。


「野郎ども! めちゃくちゃピンチなのだ!」


 受話器を置いた関拍寺が血相を変えて怒鳴った。


「ピンチピンチと言うから、ピンチになるんよ」


 慌てなさんな、みっともない、という顔で孫考が言った。……たかが離婚調停で。


「その通り。世の中は、全てけん玉のようなものです」


 大程は木製の玩具を手にとって、遊ぶ。彼は関拍寺に対する助言として言った。

 だが、関拍寺の説明を聞き、アルデそのものが、関拍寺の人生と同様にめちゃくちゃピンチになったことを知った。

 それでも大程の表情は変わらず、けん玉の動きも止まらない。世の中とは、けん玉のようなものなのだから。


「ということで、軍を送ろう」


 孫考が言うと、二人ともうなずく。珍しく意見はまとまった。

 しかし、これはむしろ、アルデ軍のとれる行動がそれだけ狭められているということだった。なにせ、帝王国軍がアルデの玄関に土足で上がりこんできたのだ。

 大程が関拍寺の自宅に土足で上がりこむと、関拍寺は烈火のごとく怒るが、アルデ軍も同様の行動をとることが求められている。


 緑色のヘルメットに、迷彩服という姿の、いかにも軍人っぽい男が部屋に入って来る。のり 発人はつと兵長といった。三人組子飼いの、戦場指揮官である。

 今回の迎撃はこの紀にやらせよう、という話になった。


「レーザーアイルン三十機に、ヤードーンバスターを二十機、それからフレーズンを二十機出撃させる」

「イェッサー」


 紀は敬礼した。これは三人が動かすことの出来る全ての戦力であり、それはつまり、アルデの動かすことの出来る全ての戦力だった。




『レーザーアイルン発進!』


 アルデの誇る主力ザーベオンであるティラノサウルス型のレーザーアイルンが目覚めて、天に向かって吼えた。


『ヤードーンバスターも発進!』


 こちらはオオカミ型。重砲ヤードンキャノンで砲撃支援を得意とする。

 もっとも、彼らは目覚めた端から、大型輸送ザーベオン、グレイラーに詰め込まれていった。戦場に着く前に、移動で疲れてしまってはうまく戦えないからだ。




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