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1-3 我らが愛しのバルベイジア通信基地 6



 映写室に明かりが入った。


「なぜかニュースでは言っていなかったが、帝王国軍は次なる攻勢に出た」


 パイプ椅子に片足をかけた孫考がのんびりと言った。


「ニューなことを言わないニュースなんて、クソの役にもたたん」


 関拍寺が息を荒げながら吐き捨てる。


「でも、キャスターの杏ピーは小生のタイプだな」


 ぼろ雑巾のように倒れ伏す大程が、呻き声で言った。


「帝王国はどこを襲った?」


 川強が尋ねる。


「墓所都市パンレイトだ。そこのザーベオン部隊が次々と連絡を絶っている」


 関拍寺はそう言って、パイプ椅子を振りかぶると、スクリーンの垂れ幕をズタズタに破り裂いた。その裏から巨大なジュベロ大陸の地図が現れる。

 青で示されるアルデと、それを蝕む赤色の帝王国。


「ここが帝王国軍の上陸したグォース海岸。敵はここから来る」


 関拍寺は大陸東端を椅子で小突く。


「ここがアルデの首都ファラーデ。ここをとられたら、うちらの負けだ」


 関拍寺は椅子をグォース海岸からジュベロ大陸中ほどの首都マークへと滑らせた。





 ちなみに開戦時に関拍寺、孫考、大程は帝王国軍の進撃について、それぞれ異なった予測を立てていた。

 孫考はグォース海岸から岩塩村、バルベイジアを通って、一気にファラーデを陥とす電撃戦を想定した。これは見事に的中し、実際にファラーデは危機に晒されたが、岩塩村にて帝王国軍先鋒は反撃され、壊滅した。

 これで孫考は他の二人に差を付けたかのように見えた。


 いや、まだだ。関拍寺は思っていた。

 帝王国軍は強大だ。必ずや別ルートからファラーデを目指すはず。

 帝王国軍は首都ファラーデ目指してを愚直に直進するのではなく、じわじわと沿岸沿いに南下し、沿岸の都市パンレイトを攻略、それを足場に補給を整え、そして一気にファラーデに迫るという迂回戦略をとることだろう。

 そう思っていた矢先に、パンレイトが襲撃されたのだ。


 なお、大程は、帝王国軍は北上して、首都には興味を持たない、との戦略的に意味不明な予測を立てていた。




 帝王国軍を迎え撃つため、関拍寺はアルデ軍を配備していた。にもかかわらず、すでにパンレイトの守備部隊は、あらかた排除されてしまったようである。

 敵は相当の強者を投入してきているとみていいだろう。


「敵は帝王国軍サメ型ザーベオンのアクアダビンサーかな?」


 孫考が予想する。


「俺はパンレイト周辺に、対サメ経験の豊富なやつばかり配備したんだ!」


 関拍寺は怒鳴った。


「生き残っている奴はいないのかい?」


 関拍寺が通信機のジョグダイアルを回して、守備部隊に割り当てた周波数を探る。


「レーザーアイルン二機だけだ」

『ザザザ……こちらパンレイト守備部隊レーザーアイルン41号。こちらはすごい霧です。これがパンレイトの名物、死霊の霧という奴でしょう。どうぞ』


 ザーベオンの足音と呼吸音ごしに兵士の報告が入る。

 落ち着いた声だった。暢気な声でもあった。交戦中ではないらしい。


「いや、天気よりも、戦局を報告しやがれよ」

『ええと、今なお帝王国軍ザーベオンの姿は見えません。パンレイトは静まりかえっています。敵の姿は見えず。敵襲来の報告は確かなのでしょうか? 誤報なのではないのでしょうか。どうぞ』

「確かだ。パンレイト周辺のアルデ軍のザーベオンが、次々と連絡を絶っている。帝王国軍の攻勢である可能性が極めて高い。用心せよ」

『了解。警戒態勢を続けます。--おや、レーダーが--』


 バルベイジアの一同に緊張が走る。


「レーダーに敵影か?」

『いや、レーダーが不調なのですね。すごいノイズです。妙だな……定期メンテナンスでは問題なかったのですが……』


 関拍寺の眉間に深い皺が寄る。

 レーダーにノイズ? 霧のせいだろうか。気象条件がレーダー・パルスに影響を与えることはある。

 いや、それとも……?


 通信機の向こうでくぐもった爆音が響いた。

 それに続く、叫び声。ザーベオンの断末魔の声だった。


『敵襲! 僚機がやられました! 応戦します!』

「レーザーアイルン41号、敵は何者だ? 応答しろ!」

『くそ! 何だこいつは! バケモノだ! うわああ!』

「おい、レーザーアイルン41号!」


 騒々しい音。銃声。あるいは何かが壊れる音。

 通信機から流れる音はひび割れ、判別できる情報が少ない。


『うわーっ! ぎゃーっ! 助けてくれええ! バケモンだあああ!』


 唯一、レーザーアイルン41号パイロットの喉頭マイクから流れる悲鳴は明瞭に聞き取れた。


『ぎゃあああああ!』


 ものすごい悲鳴。

 通信機そのものがビリビリと振動した。

 バルベイジオ通信基地の面々が一切の物音を立てない中、悲鳴が響きわたる。

 やがて、何かが何かを咀嚼するようなグチャグチャという音が続いて、悲鳴は途切れた。


『レーザーアイルン41号は消滅しました』


 紛れもない末期の声が止むと、滑らかな合成音声が告げた。

 大程がため息をつきながら、軽く肩をすくめた。


「少なくとも、関やんは声の大きな兵士を配置してようだね」

「ぐぬぬぬ……」


 関拍寺は俯いたまま身を震わせた。


「関やん、この問題は任せたよ」


 孫考と大程は、くるりと踵を返すと、この場を関拍寺に任せて、部屋から退散していった。


 ぎりぎりと、低い音が聞こえた。関拍寺が歯ぎしりをしている。


「俺は……てめえらが嫌いだ」


 関拍寺は傭兵達に、ぼそりと言って、中指で眼鏡を押し上げる。眼鏡の下から放たれたのは、凄まじい眼光だった。見られた者がナイフで切られた感じのする視線だった。


「孫考と、てめえらがどういう契約を交わしたのか知らんし、興味もない」


 関拍寺は暗い声で続ける。アルデ軍人に睨まれながら、傭兵達は動じなかった。

 縁藤は無表情のまま、びくともしない。川強は笑いながら、酒をぐびぐびと喉に流し込んでいた。


「そんなてめえらよりも虫酸が走る奴らがいる」


 関拍寺が妙に丁寧で静かな手つきで、通信機の主電源を落とした。


「パンレイトから帝王国軍を排除しろ。手段は問わない。手段はな。パンレイトにいる敵が全て死ねば俺は満足だ。奴らを殺せ。細かい指令なんかいらんだろ? てめえらが得意なことをやり遂げろ。皆殺しにしろ。一人も生かすな」


 関拍寺は命じた。

 川強の笑みが大きくなる。


「行け」


 傭兵たちはゆらりと立ち上がる。

 片やマントをなびかせ、片や酒瓶をぶら下げ、部屋を後にした。



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