1-3 我らが愛しのバルベイジア通信基地 5
<バルベイジア通信基地 映写室>
映写室にパイプ椅子が並べられ、アルデ軍人たちがずらりと並んで座っていた。
技師が映写機にテープをセットしている。
電送されてきた映像をダビングしたのか、さもなければ快速のザーベオンが首都ファラーデまでひとっ走りして取ってきたものだろう。
映写機はカタカタと音をたてて回り始めた。ニュースが始まる。
『ザーンの皆さん、いい日君に、ニュース8の時間です。渦島杏奈がお送りします』
ウェーブのかかった黒い髪に、少し切れ長の目つきというアルデ美人のキャスターが一礼した。
『まずは、ブレイキングニュースです。帝王国の政治形態に変化が見られました』
灰髪に鋭い目つきの男の顔写真が現れた。
憎き帝王国軍の将軍、ファントードである。その下にファントードの名のキャプションがつく。
『帝王国軍のジュベロ大陸侵攻軍総司令官であるゲルツ・ファントード大将がこのたび、帝王国皇帝に就任しました。帝王国はヒエラルキーの設定にカオス理論を導入しているため、詳しい理由は明らかになっていませんが、今回の就任には快調なアルデ侵攻の実績が関与しているとの見方が強まっています』
ファントードと帝王国のお偉方が儀式を行っている映像が流れる。
それを見ながら、最前列に座る三人組が、ぼそぼそと言葉を交える。
「将軍から皇帝に出世か。出世が速いね」
「戦争好きな国で軍人やっているんだ。俺たちとは訳が違う」
「出世祝いには、いつも通りバンズ・ウイスキーを包んでおけばいいかな?」
『続いて、気になる戦況です。帝王国軍は怒号の進撃によって戦果の拡張を続けていましたが、三日前に突如としてその進軍スピードを落としました。これは、アルデ軍による反撃のためというより、ファントード皇帝が即位のために本土に戻り不在のために、指揮系統に再編成が起こった結果だと思われます』
ぶーっ、とアルデ軍人たちの口から不満の呻きが広まった。
アルデ軍人たちは、みんな自分たちの奮闘で帝王国軍を食い止めているのだと思いたいのだ。
『敗色濃いアルデ軍は、今なおグォース海岸での主力部隊壊滅の衝撃から立ち直っていない模様です。しかしながら、前線のアルデ軍の士気はいまだに衰えず、母国の防衛に死力を尽くす姿勢を崩していません』
ニュースキャスターの右に、孫考の眠そうな顔の写真が現れる。その下に名前のキャプション。
『バルベイジオ通信基地の孫考通信隊長は、記者会見において、バルベイジオには百機のザーベオンと一万人の将兵が集結している。上陸部隊を撃滅するのは時間の問題だ、と強気の発言を行いました』
「欺瞞情報は戦略の基本だよ」
孫考がうそぶく。
ニュースでは孫考の顔がフェイドして、代わりに大程の顔写真が現れた。いつも通り、謎めいていて、しかも自信に満ちた顔つきである。
『それに対し、大程補給隊長はインタビューに対し、バルベイジオにいるのは傭兵のザーベオンが二匹いるくらいで、全然大したことがない、と発言しました』
「ぬう~!」
関拍寺がいらだつ。
隣でふんぞり返ってスクリーンを見ている大程に膝蹴りを叩き込んだ。
「うわあ! 何するね」
大程は床を転がりながら、非難の声を発した。
「バカ正直に戦力をばらす奴がいるか!」
「嘘付きは泥棒の始まりだって親に言われてね。……いいや、この際、そんなことは重要じゃない……」
大程は尻を手ではらって、ゆらりと立ち上がる。
そしてスクリーンを顎で示した。
「そんなことより、小生の写真写り、マジ、かっちょよくないか? アルデ軍のイケメン隊長は小生で決まりだと思うんですけど」
大程はそう言って、キザなポーズを作った。
ぶちん、と関拍寺の堪忍袋が破断する。彼はパイプ椅子を振り上げると、大程をめちゃめちゃに乱打する。
「うわ! 何をする! やめろ! 小生はアルデ軍のイケメン隊長だぞ!」
『ニュース8を終わります。渦島杏奈がお送りしました』
ニュースキャスターが一礼して、ニュース映画が終わる。
アルデ兵たちは三々五々という感じでその場を後にした。