1-2 岩塩村の傭兵 5
「いやぁ、いい戦いだった」
バンズ・バーマキー産の極上の葉巻を二人は口にくわえた。
川強は、我が口の正体は煙突なり、とでもいうかのように、すぱすぱタバコを吸うが、几帳面な縁藤の方は勝利後の一服のみを自分に許していた。
トラとライオンは、メントクアの死骸をまずそうに食べ始めた。
と、燃え上がるメントザーバーのキャノピーが開き、ボロボロの男が飛び出してくる。
「ファントード様~!」
男は絶叫しながら、手足を振り回し、グォース海岸へと逃げていく。
どうする? 川強は目顔で尋ねるが、縁藤は興味なさげに肩をすくめるだけだった。勝利後の儀式を中断する価値は無い。
「それより、アルデ軍に金をもらいに、ファラーデへ行こうぜ」
そのとき、路地から金属の足がにゅっと現れ、逃げる帝王国兵を踏み潰してしまった。
「ファラーデまで行くには及びませんよ」
アルデ軍主力戦闘ザーベオンがのっしのっし歩いてきた。
「レーザーアイルンや」
二頭の猛獣は身構えた。だが、レーザーアイルンは戦意を示さず、立ち止まって身をかがめると、キャノピーから二人の人間を吐き出した。
スーツ姿の、まったりとした雰囲気の男と、無個性目指してのことか、上下を白色でまとめた私服の男が降り立つ。
「ハロー、アルデ軍通信隊長の孫考です」
ゆっくりと敬礼しながら孫考は言った。さっさと本題に入る。
「知っての通り、我らアルデは帝王国の攻撃を受けております」
「おい、小生にも自己紹介させてくださいよ」
後ろで大程が文句を言った。
「単刀直入に言いましょう。あんた方に、アルデ軍に一時的に加わっていただきたい」
孫考の眉が持ち上がり、目蓋の下で目が鋭い光を発した。
「僕たちの母国はいま、未曾有の危機にさらされているのです」
「単刀直入じゃない言い方を使うと、どうだい、お宅、アルデの潤沢な兵器とザーベオンをバックに、帝王国のクズどもの尻を蹴っ飛ばしたくはありませんかな?」
後ろで大程が言って、自分の言いように微笑んだ。
傭兵たちは、スカウトマンたちを評価する目付きで眺めていたが、やがて縁藤の方が口を開いた。
「で、契約金としては、いかほどの額を頂けるので?」
孫考は懐から電卓を取り出した。
「手始めに、二億ゴールドということでは?」
すでに、井甲将軍からいくら金を使ってもいいという白紙委任状を入手してある。
だが、この傭兵どもに金をやりすぎるのも駄目だ。そんなことすれば、なめられる。
「いいねぇ」
川強がにやりと笑う。ザーベオンを所有するのには、いろいろとコストがかかるわけで、縁藤は笑顔を見せた。
「それは契約金だよな? たったいま、潰した帝王国軍の報償を頂けたら嬉しいのだがな。俺のガンベータスは酷く怪我したんだ」
「はいはい。いくら?」
「五千万ゴールドを心に描いて戦っていた」
「ほいほい」
孫考は渋面を意識的に作って、電卓を叩いた。
縁藤は廃墟と化した岩塩村を振り返り、まだメントザーバーが煙を上げながら転がっていることに気付いた。
「あの死体、わてらから買わんかい? なんやか、珍しゅうザーベオンに見えんのやが。どや、一億で」
「高っい、焼け焦げた死体だなぁ」
大程が力なく笑った。
「おい、ガンベータス、メントザーバーの死体も食っちまえ」
川強がけしかける。
関拍寺がここにいたら、外道が、足下を見やがって! と騒いだことだろう。
だが、孫考は大きく息を吐くと、
「分かりました……言い値で買いましょ」
貴重な帝王国軍主力戦闘ザーベオンの進化体だ。
戦闘中に突如進化したのは、偶然なのか。それとも、まさか……。
孫考は電卓を懐にしまった。
使った金などは、取り返せば済むこと。
塩の味がする風が吹く中、ザーベオンたちとそれに乗る人間は去っていった。