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開戦

 衛星ザーン。


 この星では、ザーベオンと呼ばれるメカモンスターが生息していた。


 そして人間はザーベオンを操縦して戦争をしていた。


 この星にはジュベロ大陸とワンスーク大陸があり、ジュベロ大陸はアルデ、ワンスーク大陸北部は帝王国、南部はバンズ公国が領土としていた。


 第一次三国間戦争は1721年に行われた。


 そして、その四十二年後の1763年。ついに第二次三国間戦争が始まったのである。





 <開戦から一ヵ月後>




 <ジュベロ大陸東端 グォース海岸>




 戦争が始まってから、アルデ軍は砂浜にやぐらを立てて、そこに二人、または三人、ときに一人の兵士を置いていた。

 やぐらのような高みに立てば、普段と違った目線で遠くも見えようというもの。来るべき帝王国軍の侵攻には、このような地道な努力こそが大切だった。転ばぬためには先の杖。

 このやぐらにいるのは、呉山ごやま疑島ぎしまという、二人のアルデ兵だ。


 疑島は双眼鏡片手に水平線を睨んでいたが、呉山の方にはもはや任務への熱意も無かった。

 やぐらの上に据えられたリクライニングシートに崩れるように座り、雑誌の上に目をさまよわせるのみ。もう何万回とこの雑誌を読んだことだろう。呉山は思った。

 ここに配置されたときは、上官に感謝感激したものだ。これで、基地にて匍匐前進や、ザーベオンという巨大な化け物の飼育に腐心しないで済む。

 しかし、現実は甘くは無かった。このやぐらの周囲五十キロメートルには人一人住んでいない。そりゃ、足の速いザーベオンに乗れば一時間とかからず首都ファラーデまですっ飛んでいけるが、無許可離隊はよくないことだった。


 無人の海岸を見張るという単調の日々の中、呉山は退屈のあまり、発狂しかけている。

 いまだに奇声を発して、やぐらの床をどんどん叩き始めていない理由は、ひとえに疑島がこの一ヶ月の間、まじめに海を監視していて、それを邪魔することはいかな呉山といえども、できがたかったのだ。

 疑島の邪魔にならないよう、呉山はページを音をたてぬようにめくったり、居眠りをするとかして一ヶ月を乗り切ってきた。

 疑島のやる気を見習ってはどうなのだ。呉山は己に問いかけてた。


 だが、無理だ。自分が、どうにもならない状況に陥ってしまった事実を知る。

 もはや、双眼鏡を海に向ける覇気は無く、リクライニングさせた椅子を起こすことすらできない。

 もう限界だ。自分はおかしくなりつつある。かつては滑らかだった呉山の顔も、いまや髭にまみれて野蛮人と見紛うばかり。


 一体、帝王国軍は何をやっているのか。宣戦布告から一ヶ月もたつのに、何の音沙汰も無い。やる気あるのか。


「敵は見えるか?」


 呉山は尋ねてみた。これまた、何万回と発した台詞。


「いんや」


 いつも通り、疑島は首を振った。


「本当に帝王国は宣戦布告してきたのか? 本当はバンズとだけ戦争するつもりなのを、番号を間違えてうちに電話してしまっただけなのかもしれない」


 甘美な幻想を語ってみるが、疑島は低い声で否定する。


「いんや」

「じゃあ、もう一つの大国、バンズ公国は我々の敵か?」

「いんや」


 もう尋ねるべきことも無かった。呉山はやむなく、雑誌に目を落とす。

 限界だ。この地獄のような状況を脱したい。

 帝王国軍、早く来てくれ……。呉山は、正気を確実に失いつつあることを自覚しながら、雑誌を読み終える。


「敵は見えるか?」


 再びこのカンバセーションを口にする。同じ返答を聞き、もう一度絶望するために。


「ああ」


 疑島が首を縦に振る。

 そうか、願望が満たされ、地獄から開放されるには、疑島がこうやって答えてくれるしかないのか。


「数はどのくらいだ?」

「海上戦力で八十匹ぐらい」


 なるほど、八十匹。


「で、敵というのは帝王国なんだな」

「当然だろう」


 疑島がゆっくりと横に動いた。いままで疑島の身体に隠されていた水平線が目に飛び込んでくる。


 水平線は帝王国軍上陸兵団で埋まっていた。空には防空のための飛行ザーベオン。

 呉山は口をあんぐりと開け、目をこぼれんばかりに見開いた。声を出すこともできず、体は硬直し、顔は死人のように真っ青だ。

 帝王国軍。本当に来やがった。戦争をするために、この地を征服するために、わざわざ大軍で海を渡ってきやがった。


 これが自分を救うためにやってきた連中なのか。しかし、その姿はあまりに邪悪だ。

 呉山は理解した。いままでの一ヶ月は地獄などではなかった。


 地獄は始まったばかりなのだ。


 海上の帝王国軍が艦砲射撃を開始した。やぐらの周りにいくつも火柱が立つ。呉山はわーっと叫び、ようやく思考停止状態から解放される。


「急げ、警報を鳴らすんだ!」


 鬼気迫る形相で疑島に命じた。


「あいよ」


 疑島は落ち着いた顔で、やぐらに備え付けられたボタンを押す。

 さすがは疑島だ。

 次は何をするべきなのだ。やぐらには通信機も備え付けられていて、アルデ軍通信基地に通じている。これを使えということなのだろうか。だが、現状をうまく言葉にできない。

 現状は、あまりに苛烈なのだ。

 さらに帝王国軍の砲撃が繰り返される。無数の砲弾が自分目がけて飛んでくる。敵はここに自分たちがいることを知っているのだ。


 呉山は爆風によろめき、やぐらの床に伏せると泣き始めた。自分の安楽を祈ったあまり、帝王国軍の大軍がやってきた。


「ああ、原始の神様、お願いです、今日からあんたを毎日拝みますから、この地獄からお救いください、おお、お願いします――」


 爆発で舞い上がった土が雨のように呉山を叩く。


 そうだ、疑島は? こんなとき、彼ならどうしている? 彼は完璧にやぐらを保持してきたではないか。

 呉山は疑島の方を向いた。


 疑島が内地に向かって走っている姿が小さく見えた。もうやぐらから五百メートルは離れている。


「って、逃げんの、早ぇ!」


 呉山は罵声と哀願と悲鳴の混じったわけの分からない言語をわめきながら、やぐらから飛び降りた。その際に片足の骨がへし折れる。もはや走ることなどできなくなった。大声の発生源目掛けて、砲弾が降り注ぐ中、呉山は一段と声を大にしつつ、足を引きずりつつ逃げた。


 逃げて逃げて逃げ続けた。






小学六年生の時に描いた漫画のノベライズです。


なるべく、原作に準拠して進めていきたいと思います。

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