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8話 最後の作戦



 ▲▽▲▽▲▽



 「結構木々が生い茂ってきたな。うわっ! 蜘蛛の巣顔にかかった!」


 「人の手が加わってない山奥なんだから当然だろ!」


 右手に盾、腰には剣を携えたパーティリーダーのデュアンがぼやくと、軽装で短剣を二本振り回し、自分に当たりそうな草やツルを切り伏せる男勝りのリーナが呆れた声を出す。


 「あの、リーナそれ怖いからやめてほしいんですけど」


 リーナの後ろを歩く、大きなリュックを背負った小柄な少年――ペッカは短剣が自分の近くを通過するたびにビクッと身を震わせる。


 「だって先頭のくせにデュアンがちゃんと道作ってくれないんだから仕方ないだろ! それにあたしのおかげであんた達も歩きやすいでしょうが!」


 「まあまあ、ペッカはもうちょっと離れて歩けばいだろ。リーナも道中でそんなに暴れてたらいざって時に疲れてヘロヘロになっても知らないぞ」


 二人の言い合いを宥めるのは、筋肉で盛り上がった肩に戦斧を担ぐ最年長のギルベルトの役目。


 いい加減だがやる時はやるデュアン、粗暴だが思い切りが良く仲間想いのリーナ、臆病だが人一倍優しいペッカ、年長者として経験や知識を生かしてパーティを支えるギルベルト。

 場所や状況は違えど、そんなやりとりは概ねいつもの光景だ。

 いつも通り喧嘩して、いつも通り笑いあって、いつも通り依頼を完遂する。

 今回だってこの四人なら無事依頼をこなして、明後日にはギルドに併設された酒場で打ち上げをしているに違いない。


 そう、今回だってそのはずだったのに――――。


 「さて、日が落ちる前に今日はこの辺で野営でも――っ!! 伏せろ!!!」


 叫んだのは先頭を進むデュアンだった。

 三人はデュアンの声に素早く反応し、身を低く屈める。

 瞬間――


 「――――ッ!?」

 

 メキメキ、バキバキという音と共に、何かが通り過ぎる。

 音が収まるのを待って顔を上げれば、周りの木々がデュアンの腰くらいの高さでへし折れているではないか。

 たまたま木が朽ちていたって、こんな広範囲の木々が一度に同じ高さから倒れるなんてことはありえない。

 これは明確な殺意を持った攻撃――つまりは敵だ。

 四人はそれぞれ、いつものテンプレートをなぞった戦闘配置に着く。


 「デュアン! 今のは!?」


 魔獣か魔物か、大きさは、特徴は――相手によっては戦い方を考えなければならない。

 リーナは状況を把握するために、いち早く敵の攻撃に気付いたデュアンに声をかける。

 が、デュアンが答えるよりも先に、相手が正体を現す。


 「ゴフゥルルル……」


 額に生えた黒光りする剛角、夕日を受けた赤黒の毛並みはまるで鮮血を思わせる。

 太く堅牢な四肢で地を掴む威風堂々たるその姿は、正に強者の立ち振る舞い。


 「こいつが?」


 「ああ――赤黒のツノグマで間違いない」


 「聞いてたよりも大きいですね。発見者の目測が誤っていたのでしょうか」


 確か、発見者はヤヒトと言ったか。

 オニガ村で世話になっているという彼は、このツノグマと対峙して生き延びたものの、記憶を欠損してしまっているらしい。


 「もしかしたら記憶違いなのかもしれないな。さあ、そんなこと今は気にしていられないぞ! デュアン! いつも通りでいいな?」


 「ああ! サクッとやっつけてギルドで飲もう!」


 ギルベルトとデュアンの話を合図に、パーティはツノグマを囲むように展開する。

 数々の依頼をこなしてきたデュアン達には、ほとんどの相手に対して、誰がどう動いて、どのように倒すという大筋がある。


 色が違っても所詮はツノグマ。

 呪いを付与する咆哮は気になるところだが、それをされる前に倒してしまえば問題ないだろう。


 「いくぞぉぉお!!」


 ツノグマの毛は太く硬いため、並の攻撃では有効打にならない。

 しかし、腹だけは別だ。

 ツノグマの腹側の毛は柔らかく、背や腕に比べれば筋肉も幾分か少ない。

 そのため、ツノグマとの戦闘では、如何にして腹を狙うかがカギとなる。


 「ハアア! デヤァ!」


 デュアンが剣を振り、盾で爪をいなす。

 目的はダメージを与えるためではなく、あくまでツノグマを自分に引き付けることだ。


 「ふっ! オラッ! ったく、硬すぎだろ!」


 鋼鉄でできた針金の塊でも叩いているような感触が剣を通して感じられる。

 ツノグマの攻撃手段は、手足を振り回すか、噛みつくか、後は突進するかの、大振りで単純なものばかりだ。

 しかし、そのどれもが当たれば必殺、良くても致命傷を負うほどの威力だ。

 できるだけ目や口内を狙うことで、相手の警戒心を煽り、防戦一方になることを避ける。


 「はっ! くっ! あ、やべ!!」


 「ガアアアア!!」


 幾重ものやり取りの中、ツノグマの爪に弾かれた剣がデュアンの手から離れる。

 それを好機と見たツノグマは、すかさずもう一方の腕で追撃を加えようとするが、


 ――ドパン!!


 「ガゥグウウ!」


 その剛腕は、デュアンに届く前に小規模の爆発によって遮られる。

 もちろん、たまたま何もない空間が爆発するということがあるはずもない。

 爆発を起こしたのは、ペッカが大きなリュックから取り出した爆火魔石だ。


 「油断しないでください! 死んじゃいますよ!」


 「ああ、助かった!!」


 ペッカが次々と爆火魔石を投げつけてツノグマを牽制している間に、デュアンが剣を拾う。

 ここからは、デュアンとペッカの二人がかりでツノグマの足止めを行う。

 デュアンが盾で攻撃をいなし、隙をついて剣で切りつけ、反撃がきそうになったらペッカが爆火魔石を投げつける。


 「ペッカ! 顔面に爆破! デュアンは下がれ! ぬぅおおおおおおああああ!!」


 二人が足止めしている間に魔力を練り上げ、全身の筋力を強化したギルベルトが斧を後方に構えて走る。

 ギルベルトの指示に合わせて投げられた爆火魔石は、一時的にツノグマの視覚と聴覚、そして嗅覚を奪う。


 「歯ぁ食いしばりやがれぇ!! ――ヅァアア!!!!」


 助走と遠心力を乗せた、ギルベルトによる渾身のアッパースイングは、ツノグマの下顎へと吸い込まれていく。

 さすがのツノグマも五感のうち三つも失った状態では、避けることも耐えることもできずに、ギルベルトの斧をもろに受ける。


 「グヴゥ――!!


 ズドンッという重い音が周囲を揺らし、ツノグマの巨体は腹を見せるようにして大きく仰け反る。


 「リーナ!!」


 「分かってる!!」


 透かさずリーナがツノグマの懐に潜り込み、手に持った短剣にありったけの力を込めて切りつける。

 目にも留まらぬ速さで飛んでくる剣撃に、ツノグマはなす術もなく、弱点である腹を差し出すしかない。


 「おーりゃあああああ!!」


 バキン――。


 「――――」


 辺りに響く金属が砕ける音。

 音の正体は、そこにいたみんながすぐに気づく。

 何のことはない。リーナが振るった短剣が折れたのだ。


 ――弱点であるはずのツノグマの腹を切ることが叶わずに。


 「な……んで? あれ?」


 「リーナ!!」


 呆然と折れた短剣を見つめていたリーナの耳に、デュアンが叫ぶのが聞こえた。

 ハッとして目線をツノグマに向けると、すでにその剛腕が振り上げられていた。


 「――――っ!? ぁぐっ!」


 咄嗟に避けようとするも、ツノグマの大きく鋭い爪が背中をかすめる。

 幸い即死は免れたもののどう考えても致命傷だ。

 今すぐ戦闘に復帰するのは難しいだろう。


 「リーナ!」


 「だい、じょうぶ。かすった、だけだから」


 「馬鹿言うな! クソ! いったいこのツノグマは何だって言うんだ!」


 弱点に攻撃が通らないし、仲間の一人も重傷を負っている。

 このままこのツノグマと戦ってもパーティが全滅することは明白だ。

 撤退するにもそう簡単に逃がしてはくれないだろう。

 デュアンは頭の中で作戦を練ってはダメだと考え直して、そうやって思いつく限りのパターンを試行して、決断する。


 「リーナ、走れるか?」


 「ああ! 痛いけど、まだ動ける!」


 ペッカに投げ渡された包帯を巻いたリーナが短剣を構える。

 それを確認したデュアンが指示を出す。


 「ギルベルト! 俺と一緒に前線を張ってくれ! ペッカは爆火魔石で援護! リーナは――――逃げろ!!」


 「は!? 何言ってんだデュアン! あたしはまだ戦え――」


 「リーナ! あなたがこの中で一番足が速いんです! 残りの包帯と、一時的ですが痛み止めも渡します!」


 リーナの反論をペッカが包帯と痛み止めの薬が入った瓶を渡しながら遮る。


 「ペッカまで! だってこのままじゃみんな死んじゃ――」


 「リーナ! 戻ったらまず村長に報告だ! その後はギルドに応援の要請を頼む!」


 今度はギルベルトによってリーナの言葉は掻き消される。

 正直、三人の意見が正しいことはリーナにもわかっている。

 このまま戦って全滅するよりも、一人が生き残って状況の報告をしたほうが良いのも、足止めするのに適したメンバーも、逃げ延びる確率が一番高いのが自分だということも、全部全部わかっている。

 わかってはいるが、


 「できない! みんなを置いて自分だけ逃げるのは嫌だ!!」


 仲間想いのリーナにとってその選択はとても苦しいものだ。

 自分が逃げたら、否逃げなくても、奇跡かツノグマが気まぐれでも起こさない限りこにいる皆は死ぬ。

 喧嘩することも、酒を飲み交わすことも、笑いあうことも、一緒に冒険に出ることも、もうなくなってしまうのだから。

 色んな思いがリーナ頭の中を駆け巡り、どうしたらいいのかパニックを起こしそうになった時、デュアンが口を開く。


 「――どうにかなる! っていつもみたいに言いたいところだけど、今回はなかなか難しそうだ。リーナ、こんな頼りないリーダーでごめんな。お前が俺達の世話を焼いてくれて助かったぜ。たまにうるせえとは思ったりもしたけど、楽しかった!」


 「ど、どうしたんだよ急に……」


 デュアンがそう言うと、ペッカとギルベルトの二人も目だけをリーナに向ける。

 いずれも、顔は笑っているのに、目には涙を浮かべている。

 

 「作戦を開始する!! ギルベルト! ペッカ! いくぞ!! 走れリーナ!! お前が生きてりゃあどうにかなる!!」


 ツノグマも再び戦闘態勢を整えている。

 もうこれ以上話している暇も、迷っている時間もない。


 「みんな……ごめん!!」


 リーナと三人は、互いに背を向けて走る。

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