6話 日課と冒険者
初めて書いた作品です。
拙い文章やわかりにくい表現が多々見受けられることもあると思いますが、これからの執筆を通して成長できればと思います。
さしあたって、ブックマークや感想等を残して頂けますと、やる気や励みになりますので、ぜひお願いします!
「ヤヒト! 水汲みに行くよ!!」
「――――んん。もう朝か」
さすがはアクラの娘だ。
早朝でもハキハキとした元気で大きなセツナの声。
最近は、このセツナの声がヤヒトの目覚まし代わりになっている。
「早く起きて来ないと置いてっちゃうよ!」
「わかったから。今起きるって。玄関で待っててくれ」
「はーい!」というこれまた元気な返事を残して、足音が部屋の前から遠ざかっていく。
ヤヒトは大きなあくびを一つすると、まだ名残惜しい布団の温もりに別れを告げる。
アクラが小さい頃に着ていたという少し大きめの服に袖を通すころには、眠気も幾分かマシになる。
ググっと伸びをしてから廊下に出れば、まだアクラがいびきをかいて寝ているのがわかる。
今日もいつも通り、アクラの起床はセツナの朝ご飯の支度が済んでからだろう。
「おはよ。待たせてごめん」
「おはようヤヒト! ううん! じゃあ、行こっか!」
そういうと、セツナは家のすぐ隣にある小屋から、水瓶を六口積んだ荷車を引っ張り出す。
水瓶は水が入っていなくても十キロ以上あるだろうという巨大なものである。
本来、馬か牛にでも引かせるであろう荷車を、自分より小さい少女が軽々と引っ張るという光景は、一か月経ってもまだ慣れない。
まるで、アルミ製のリヤカーでも引っ張るように、荷車の重さを感じさせないセツナと、二人で川へ向かう。
アクラの家から川まではオニガ村の中心を通る一本道で繋がっており、距離はそれほど遠くない。
早朝は、畑仕事がある者がチラホラ出ているが、まだまだ静かだ。
ヤヒト達と同じく早朝に水汲みに行く人もいるにはいるが、数は少ない。
村中で一気に汲みに行けば川が混雑するため、各家々で水汲みに行く時間が何となく決まっているらしい。
行き会う人にあいさつをしながら十分も歩けば川が見える。
「よし、じゃあ今日もいいか?」
「うん、どうぞ。無理しちゃダメだよ」
気合を入れたヤヒトはセツナと荷車を引く役を交代する。
川までの道はもう直線で五十メートルもなく、加えて、小石などが少ない比較的平らな地面になっている。
数日前から、この五十メートルはトレーニングを兼ねて、ヤヒトが荷車を引くことにしたのだ。
トレーニングと言っても、筋力や体力を鍛えるためではない。
否、確かに体づくりにもなるだろうが、それはついでに鍛えられたら一石二鳥というだけで、本来の目的は別にある。
――『魂力』
それを最低限扱えるようになるのが今のヤヒトには必要なのだという。
魂力とは何なのかをアクラに聞いたところ、
「――――あ? 何言ってんだ? 魂力は魂力だろう。ああいや、すまん。魂力って言葉を使ってんのは一部のやつらだけだった。一般的には魔力って言い方の方が通じるな。ガッハッハ! こんな常識的な話しは普段することがねえからよう! そうか、そもそもお前は記憶喪失だったな! こんな当たり前のことも覚えてないとは大変だな! ガッハハハ!」
という答えが返ってきた。
魔力というものが、この世界では当たり前のように存在し、日常的に使われている。
量や質に差はあれど、生まれつき誰しもがその身に宿している魔力――その基本的な扱いは、赤子が親が発する声や周りから聞こえる音で言葉を覚えていくのと同じように、誰に教えられるでもなく成長と共に自然と身に付いていくものらしい。
つまり、日常的に魔力を使う人が周囲にいなかったヤヒトは、
「ふんんぎぎぎ、ぎ、ぎぎ、ぐ、ぎぎぎ……!」
「頑張れー!」
力いっぱい荷車を引いてようやく荷車が動き出す。
もしも荷車が軽いアルミ製であれば、ここまでの力は必要ないのかもしれないが、生憎これは木製だ。
それも、水を入れた水瓶を積んでも簡単に壊れないよう頑丈に作ってあるせいか、かなり厚く作られている。
正直、初めて魔力という概念を聞いた時は半信半疑だったが、実際、セツナのような華奢な女の子でもこの重量の荷車を引けるのは、魔力あってのことだろう。
「う、ぐお、お、お……!」
「もうちょっともうちょっと! 頑張れー!」
横をついて歩くセツナからの声援を受けながら、全身を使って荷車を引いていく。
十メートルも進めば、走り出しと比べて勢いもついて、スムーズに動く。
それでも気を抜けば、道のちょっとした窪みや小石を踏んだ時に減速してしまったり跳ねてバランスを崩してしまったりするため、注意する必要がある。
「ふんぬぐぐぅ……!」
「頑張れ頑張れ! あと一歩! ――――とうちゃーく! すごいよヤヒト! 昨日よりも早くなってる!」
「はぁ、はぁ。本当か? でも、確かに初日よりは早くなってる気がする……ような、しない、ような……」
筋肉の疲労により、川辺にゴロンと転がりながら胸を大きく上下させるヤヒト。
毎度、疲労と共に若干の酸欠も相まって、セツナと交代してからここにたどり着くまでにどれくらいの時間を要しているのかを把握できていないため、ヤヒトには自分の成長度合いがよくわからない。
「ヤヒトは休んでてね。お水は私がちゃっちゃと汲んじゃうから」
そう言いうと、セツナは積んできた水瓶をヒョイヒョイと下ろし、まるでじょうろかバケツにでも水を汲むように川の水を豪快に掬い上げる。
「それも魂力? 魔力? を使ってんの?」
「んー? そうだね。あんまり意識はしてないけど、何て言うか、体の中心から肩を通って腕に力を送り込む感じ?」
「あー、なるほどね」
セツナは小首をかしげながら答える。
ヤヒトもセツナが言わんとしていることは何となくわかる。
ただ、その送るべき力――魔力を未だ認識できてすらいないヤヒトは、その説明も本当の意味では理解できていないのかもしれない。
「よーし! じゃあ、帰ろっか!」
「ああ、おう。もう汲み終わったのか? 相変わらず早いな」
ヤヒトが休んでいる間に、慣れた手つきで六口の水瓶全てに水を汲み終えて、積み込みまで済ませたセツナが、荷車に手をかける。
さすがに、満水水瓶を積んだ荷車はヤヒトでは動かせないため、帰りはセツナに任せるしかない。
ガロロロ……という聞くからに重い音を車輪からさせながら、セツナは来た時と同じように何でもない顔をして荷車を引く。
ヤヒトが村にお世話になってからまだ一か月しか経っていないが、この小さな村だ。
もう村人の皆とは顔を合わせたし、名前も覚えた。
この時間この人は畑にいるなとか、あの人はこの時間に顔を見ることがないからまだ起きる時間じゃないんだろうなとか、ヤヒトの中で雰囲気というか日常というか、日々ある程度の違いはあれど、ふんわりとオニガ村のサイクルを把握し始めてきていた。
しかし、今日はいつもとは違った。
「――なあ、嬢ちゃん達。村長の家ってどこか教えてくれない?」
声をかけてきたのは、金属や革を組み合わせて作られた鎧を着た、赤いメッシュの入った若い男だった。
背中には盾と剣を背負っているが、偽物には見えない。
男の後ろにも、大きな斧を背負ったガタイの良いスキンヘッドの男と大きなリュックを背負った小柄でフードを被った男、腰に二本の短剣を携えた赤い髪をポニーテールにした女が待機している。
この四人姿にヤヒトはもちろん、セツナも見覚えはなさそうだが村長の家を知らないということは、村の人間ではないのだろう。
「かっけえ! 本物の鎧とか剣とか、漫画かゲームでしかみたことねえ!」
「おっ? お前さん、冒険者見たことないなんて珍しいな」
「ああ、ヤヒトは遠くから来たんだよ。それに記憶喪失なんだって」
「ありゃ! そうりゃあ大変だな! まあなんだ、記憶の一つや二つ消えたところで今生きてるんならどうにかなるって!」
男はヤヒトの肩をポンポンと叩きながら笑いかける。
記憶喪失という設定を忘れかけていたヤヒトはハッとして、「そうですねぇ」などと、取り繕った笑みを顔に張り付けながらその場をしのぐ。
「ん? 冒険者ってお兄さん達、あの冒険者ですか? いろんな所を旅したり、敵と戦ったする?」
「ん? ああそうそう。これでも俺達はランク五の冒険者でそこそこ有名なんだぜ!」
「ランク五!? ――ってのがどれくらいスゲーのかわかんねえけどスゲー!! かっけえ! うわぁいいなあ! 俺も冒険者なりてえなあ!」
「そうだろうそうだろう!! なんだかお前さんとは気が合いそうだ! 今度町に来ることがあったら冒険者ギルドに寄りな! いろいろ教えてやるよ!」
そうして二人が話していると、後ろで待機していた女が呆れたように「おい」と声をあげる。
「デュアン、まだか?」
「おう悪い! えっと、さっきも聞いたけど、村長の家ってどこか教えてくれないかな?」
「家ならこっちだよ! ついてきて!」
仲間に急かされ、改めて問う男に対して、セツナはそう言うと、荷車を引きながら歩いて行く。
男は「助かる」と一言感謝を述べると、待機していた仲間と共に荷車の後をついて歩く。
そういえば、オニガ村の村長とはどんな人なのだろう。
村人全員とは顔を合わせたはずだが、それらしい人は見ていないし、紹介された覚えもない。
「――村長か」
今思えば、素性の知れない自分を長い間村に置いてくれていることにお礼の一つも言えていなかったヤヒト。
遅いかもしれないが、だからといって感謝を伝えないほどヤヒトも薄情ではないつもりだ。
冒険者達を背に、セツナと並んで歩くヤヒトは、いったい誰の家に着くのかと考えていた。
ここの家ならゴラスさんだなとか、ここの道を曲がったのならメイズばあさんの所だとか、そうやって村長かもしれない人物の家を予測しているのだが、なかなかそれっぽい者の家にセツナの足は向かない。
道沿いの家にも脇の道にも止まらず曲がらず、ただただ川から真っすぐに続く道を荷車を引きながら辿っていく。
やがて、目的地である村長の家に到着したのかセツナは荷車を引くのをやめて振り返る。
とても見覚えのある家だった。
「ここだよ! ちょっと起こしてくるから待っててね!」
「いや! 村長ってアクラさんだったのかよ!!」
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