5話 新しい生活
初めて書いた作品です。
拙い文章やわかりにくい表現が多々見受けられることもあると思いますが、これからの執筆を通して成長できればと思います。
さしあたって、ブックマークや感想等を残して頂けますと、やる気や励みになりますので、ぜひお願いします!
――『和平国家エレガトル』、通称エレガトル王国と呼ばれるこの国は、周囲の大国の緩衝材と交易の場のために設けられたに過ぎず、当初は国ですらなかった。
エレガトルは、その目的を十分に果たしていたと言っていいだろう。
その証拠に、情報や物流が盛んであり、それを求めた冒険者が集まりだした。
冒険者が集まると、魔獣や魔物の素材を安く手に入れたい加工屋や商人も増え初めた。
商人が増えると客が増え、近くに定住する者も多くなり、いつしかエレガトルは町になった。
しかし、統治者のいない町は無法も同然、国間の文化の違いによるいざこざや、貧富問題、それに伴い、窃盗や酷い時には人の命を奪う者まで現れた。
この事態を見過ごすことのできなかった冒険者達は、各国の力有る冒険者を中心に冒険者ギルドを興した。
ギルドは冒険者に仕事を斡旋し、市場の安定化のために労働組合を作り、貧困層には最低限の支援を送った。
やがて犯罪も減り、エレガトルが平和と言って差し支えなくなった頃には、ギルドマスターは王とほぼ同格の地位となっていた。
「――ってのがエレガトル王国の大まかな歴史なんだが、ここはそのエレガトル王国の中でも端っこの山奥にあるオニガ村って所だ」
食事が終わると、ゆっくりお茶を飲みながらアクラがそう説明してくれた。
さすがに嘘を言っているようにも見えないため、ここが異世界であるというヤヒトの仮説は正しいのかもしれない。
目だけを動かして、今いる部屋を観察してみれば、冷蔵庫や電子レンジのような家電は見当たらないし、メモ書きとカレンダーのような紙に使われている文字は見たことのないものだ。
もしかしたらヤヒトが知らない外国の文字かも知れないが、その可能性は低いだろう。
「じゃあ何で言葉は通じてるんだ?」
「ん? 言葉?」
食器などの洗い物を終えたセツナが話に加わる。
改めて見ると、このセツナという女の子はかなり可愛い。
明るいし、ハキハキと喋るし、家事もできて料理も絶品――。
正直ヤヒトの好みはお姉さん系であり、中学生くらいのセツナはちょっと幼過ぎる気もするが、それでも、ここまで整った顔が近くにあるとやはりドキドキしてしまう。
「年下もありか? いや、でも中学生は……。いやいや、中学生だって恋愛はするだろうし……」
「何ぶつぶつ言ってるの? あっ! そういえば、ヤヒトはどこから来たの? 冒険者には見えないし、着てた服はボロボロだったけど見たことない生地だったよ」
あまりに今着ている服が馴染んでいるせいで忘れていたが、元々着ていたジャージはどこにいったのだろう。
セツナが言った通り、ヤヒトの記憶の中でも腕や足ごと千切れていたので相当な有様であることは明白ではあるが、やはりお気に入りのジャージだったが故に名残惜しい。
まあ、ジャージのその後はまた後で聞くとして、まず質問に答えねばなるまい。
どこから来たか――実に言い得て妙である。
セツナに他意はなく、単純に「どこの国から来たのか」や「どこの地方、方向から来たのか」ということを聞いたのだろうが、ヤヒトにとってこの質問はかなりの難問になる。
「ちなみに、日本とかアメリカとかってわかる?」
「二本? あめり蚊? 聞いたことないけど、魔獣か何か?」
「ああいや、気にしないで。忘れて」
予想していたとはいえ、やはり元いた世界の国はこちらには存在しないのだ。
そういえば、二人とも髪色は黒なのに瞳は綺麗な赤い色をしている。
カラーコンタクトの類を入れているようにも見えないため、きっとそういう人種、少なくとも日本人ではないのだろう。
しかしそうなると、ヤヒトがどこから来たのかという質問にはどう答えるのがいいだろうか。
馬鹿正直に「こことは違う世界から迷い込んだ」と言っても信じてくれるものだろうか。
少し考えて、ヤヒトは一つ芝居を打つことにした。
「えっと、どこから来たのか覚えてないんだよ。多分あれかな。なんか角が生えたクマに襲われた衝撃で記憶が飛んじゃったのかも」
「ええっ!? 記憶喪失ってこと!? 大変だよ! どうしてそんなに落ち着いてるの!? 家族とか心配してるんじゃないの!?」
「うおっ」
ガタンと食卓に身を乗り出して捲し立てるセツナ。
少々大袈裟――いや、これが普通の反応なのだろうか。
質問の答えばかり考えていたせいで、相手の反応までは予期していなかった。
「い、いや、大丈夫だって! 俺一人暮らしだったし、一緒に遊んでた奴らだって半年もすれば俺のことなんて忘れるだろうし……」
「ん? 記憶喪失なのにそういうのは覚えてるの?」
「あっ! えっと! それはその、そんな気がするというか、何というか……」
故郷の名前だけを忘れているという、そんな都合のいい嘘は簡単にボロが出る。
セツナの指摘にヤヒトがまごまごしていると、
「――小僧、今ツノグマに襲われたって言ったか?」
さっきまで豪快に笑っていたとは思えない神妙な面持ちをしたアクラが低く圧のある声で問う。
和気あいあいとした空気はピシりと凍りつき、ただ事ではなさそうなアクラの雰囲気は、ヤヒトは勿論、セツナにまで緊張を与える。
「黒いデカいクマで、額に拳ほどの白い角がある奴だ」
「つ、ツノグマ……ですかね? えっと、俺を襲ったのは、赤みがかった黒い毛で、頭のとこに黒い光沢のある角を生やしたクマです。立った時の大きさは、俺の身長にもう半分足したくらいだと思います」
ヤヒトは、自分の頭から腰に手を当てて大体の大きさや特徴を説明する。
とは言っても、あの時は恐怖やら何やらでまともに相手の姿を観察する余裕などなかったため、本当にざっくりとした説明しかできなかった。
「いつでも俺を殺せたはずなのに、なかなか襲ってこなくて……。なんか教会にあるような大きい鐘みたいな変な声で鳴いてたのが印象的でした」
「赤黒い毛に、変な声? 額に角があったのならツノグマなんだろうが、俺が知ってるツノグマとは様子が違うな。図体はもっとデカいはずだし、それに奴らは獰猛で攻撃的な性格だ。獲物と見るや否やすぐに食いつきにくるはずだが……」
ヤヒトの説明に立派な眉をひそめて唸るアクラ。
確かに、アクラが言うツノグマとは色が異なる。
ヤヒトからすれば、色や大きさなど個体差や遺伝子異常によるものだろうとしか思わないが、アクラの曇った顔から察するに、それだけでは済ませられない何かがあるのだろうか。
アクラはしばらく考え込んだ後、ガバッと顔を上げる。
「まあ何にせよ、ツノグマに襲われてよく生き延びたな。あの服のズタボロさも、ただ川に落ちただけじゃなくてツノグマに襲われたってんなら納得だ。――それにしては傷の一つも出来ていないのが妙だけどな」
その声色にはもう先ほどまでの重圧は感じられなかった。
改めて、ヤヒトの体に外傷や痛むところがないかを確認したアクラは、木製のコップに残っていたお茶をグイッと一息に飲み干して立ち上がる。
「まあ、病み上がりでなにがあるかわからないからな。遠慮せずゆっくり休め。じゃあ俺はやることがあるから、セツナ、後は任せたぞ」
「うん! いってらっしゃい!」
▲▽▲▽▲▽
アクラが出て行ってから十分ほど経つだろうか。
ヤヒトはセツナによる事情聴取が続いていた。
「へえ、じゃあ何で山の中にいたのかも覚えてないんだね」
「あ、ああ、うん。何か記憶が所々抜けてる感じなんだよ。名前とか好き嫌いとかどんな友達がいたとかは覚えてるけど、ここに来た経緯とかツノグマとかの魔獣? のこととかは全然わかんないんだよなあ」
「そっかあ。故郷も分からないって言ってたし、それじゃあ、おうちの帰り方もわからないんだ」
なんだか段々自分が迷子の子供かのように感じてきた。
しかし、こうして無理やりにでも話を作らないと辻妻が合わなくなる。
まさか今更「実は記憶喪失は嘘で、本当は異世界から来ました」なんて言えないし、言ったところで信じてもらえるかもわからない。
最悪、おかしい奴だと思われて村の外にほっぽり出される可能性だってある。
「それなら記憶が戻るまでうちにいなよ! きっとお父さんも反対はしないだろうし、むしろ息子ができたように喜ぶかも!」
「む、息子? でも、ここに置いてくれたら本当に助かる! 正直、この後どうしようか全然考えられてなくて。むしろこちらからお願いしたい! 勿論タダでとは言わない! 家事とか俺にできることがあったら何でも手伝うから! それに、救ってくれたお礼もまだできてないし」
「手伝いなんて、そんなこと気にしなくていいよ! まあでも、今日はゆっくりしてなよ。まだ意識が戻ったばかりで本調子じゃないだろうし。明日は村を案内するよ!」
この日から、天守夜人――――もとい、アマモリヤヒトの異世界生活が始まった。
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次の更新は19時予定です