表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/59

54話 応援依頼

 「呪いが昇華? 祝福? すいません、まじでわかんないです」


 「あたしもだ。祝福ってのは神から与えられるものだろ? なんで呪いがそうなるんだ?」


 二人の頭の中をたくさんの疑問符が占領する。


 「まあ、俺もこう言っておいてなんだが、そっちの方面には疎いからね。うまく説明できないんだけど、ヤヒト君にかけられた呪いは何らかの要因で大きく変質してしまっていてね――いや、違うな。呪いの形を残しながらも、より大きな神聖な力で包まれて取り込まれかけているような感じかな。だから呪い自体は死んだわけではない、かといって、呪いという原型として残っているわけではないってわけ。呪いを取り込んで尚その神聖さを保つ()()を祝福という言葉で表すのが最適だと俺は思った」


 「呪いを取り込む……」


 二人にわかりやすいように言葉を選びながら説明をするブレンダンだが、何分、自身も見たことがない状態であるため、かなり主観が入ったものになる。

 それでも、呪いだの祝福だのの知識を微塵も持っていないヤヒトにとっては想像しやすかったようで、ブレンダンの言葉を反芻しながら解釈していく。


 「――あっそうだ。とりあえず、呪いはもう心配ないってことで置いておくとして、ちょっと話を戻したいんですけど、えっと、呪いのかけかた、儀式? 手順? みたいなやつです」


 「何か思い当たる節でもあるって顔だね? 聞こうか」


 「今ブレンダ、ギルマ、ギルドマスター――」


 「あ。ブレンダンでいいよ」


 「ブレンダンさんに手を当てられた時、何をされたのかわからないんですけど、それと似たような感覚を赤黒のツノグマに初めて襲われた時に感じたのを思い出して……」


 そこまで聞いたブレンダンは、机から新しい紙とペンを持ってきて興味深そうに耳を傾ける。


 「ああ、続けてくれ。資料に書き加えるスペースが無くなってね。それに、多分、今から君がする話はとても重要度が高いものだ」


 「はい、続けます。――似た感覚と言っても、なんとなくブレンダンさんのはあったかい感じで、ツノグマの方はすごく冷たくて気持ちの悪い感じっていう……。俺の頭じゃあ言語化が難しいので具体的には表現できないんですけど」


 「ふむ。じゃあ、恐らくそれが呪いを受けた瞬間だね。さっき俺がやったのは原理としては呪いとすごく近いものだから、似た感覚ってのはそのせいだ」


 ヤヒトのふんわりとした説明でもブレンダンには伝わっているようだ。

 ブレンダンの読み取る力が強いおかげだろうか。


 「で、次が感じだね。呪いをかけたのは赤黒のツノグマで間違いない。じゃあ、その手段、手順だ。――覚えているかい?」


 「はい」


 「話してくれ」


 「正直、手順と言えるほど何かをしていたというわけじゃありませんでした。単純に俺自身の知識や経験不足でわからなかっただけかもですけど……。あいつは、ただ鳴いただけでした。別段、大きい咆哮でもなければ怖がらせるような仕草をしたわけでもない。音だけを聞けばとても荘厳な大鐘のような音でしたが、それを聞いた途端、体の内側の奥深くを触られているような不快で、恐ろしい感覚に襲われました。――――鐘の音の鳴き声それが呪いをかけた手段だったんだと思います」


 「鐘の音!?」


 ヤヒトの話を聞いたブレンダンは血相を変えて席を立ち上がり、執務机に足早に向かう。


 「ん、どうしたおっさん?」


 「――本当はもっと詳しく聞きたいことがあったんだけど」


 リーナの質問には答えず、ブレンダンは机の資料をガサガサと漁る。

 やがて一枚の紙を見つけ出すと、何かをサラサラと書きながら、


 「最後に一つだけ聞きたい。赤黒のツノグマを打倒したのは間違いなく君達だね?」


 「はい」

 「ああそうだ」


 正確にはセツナも一緒だが二人はあえて口にしない。

 冒険者でもないただの村人である少女を巻き込まないためだ。


 迷いなく答えた二人に、「よし」と一言発したブレンダンは、今書いた紙を持ってきてテーブルに置く。

 どうやら依頼書のようだが、文字を読めないヤヒトは紙をスッとリーナの見やすい位置に移動させる。


 「なっ!? クソが……!」


 内容を読んだリーナは無意識に依頼書を持つ手に力が入る。


 「な、何て書いてあんだ?」


 ヤヒトはリーナに聞いたつもりだったが、返答は向かいに座り直したブレンダンから返ってくる。


 「『鐘の音の調査及び脅威の排除』。隣国から応援を頼まれている依頼だ。最初はランク三の冒険者向けの依頼だったんだけど、今はランク五以上の冒険者が求められている」


 「鐘の音って、まさか!」


 「うん、正直それが赤黒のツノグマのものである確証はない。ただ、その依頼を受けた冒険者が悉く命を落としている。もしもその鐘の音がヤヒト君の言う赤黒のツノグマのものであるとするなら、この結果も不思議じゃない。何せ赤黒のツノグマはデュアン達でも敵わなかった相手だからね」


 リーナを見ながらそう言い放つブレンダン。

 リーナが握る依頼書にはさらにしわが増える。


 「いずれにせよ、応援の依頼を放っておくわけにもいかないし、赤黒のツノグマではなかったとしてもそれが脅威であることに変わりはない。――行ってくれるよね? まあ、もしリーナが無理なら他のランク五を呼び出してヤヒト君と向かわせることにしよう」


 「あっえっ!? 俺だけ? いやいや! 俺はランク一ですけど!?」


 「だってしょうがないじゃん? 赤黒のツノグマの鐘の鳴き声を知ってるのはヤヒト君だけだし、()()()()()()()生き残ったのも君だけだ。それだけでも出向く理由には十分すぎるとは思わないかい?」


 まるでヤヒトを戦力に数えているような口振りだった。

 しかし、ブレンダンは赤黒のツノグマとの戦闘やヤヒトの治癒能力については知らないはずだ。

 そう言えば、どういうわけかブレンダンとの話の節々にヤヒトの評価の高さが窺えた。

 それが何を意味しているのか、今のヤヒトにはわからないし、知らなくてもいいことだろう。


 今考えるべきは依頼のこと。

 正直なところ、二度と赤黒のツノグマと対峙したくないというのがヤヒトの本音だが、ブレンダンが言っていたように、応援の依頼――というより、もしも本当に赤黒のツノグマが現れたのだとしたら放っておくわけにはいかない。

 断ってしまえば、ヤヒトが冒険者になるにあたって掲げた、「デュアン達の分までたくさんの人を救う」という志を自ら放棄するのに等しい。


 「俺、やります。赤黒のツノグマ(あんな奴)がまだいるって聞いて、知らん振りしてたんじゃあ、さすがに……。俺が協力することで少しでも救われる人がいるならやったほうがいいだろうし。怖いし、痛いのも嫌ですけど、それ以上にムカつくんで」


 「『ムカつく』か。とても単純明快な理由だね。恐怖や苦痛よりも怒りを優先するとは。――ああいや、良いと思うよ。まるで自分の命は天秤に乗っていないような口振りだ。さすがは劣等戦闘狂と言われるだけはある。おっと、君の戦いぶりを知らないのに劣等は失礼だね。ごめんごめん」


 どこまでも含みのあるような言い回しのブレンダン。

 ヤヒトにはその真意を読み取ることなどできないが、期待をされているということだけはわかった。


 「それじゃあ、誰か手の空きそうなランク五を探そう。そうだ、カイなら二、三日もすれば帰って来る予定だったはずだけど――」


 「待ておっさん」


 「どうしたリーナ?」


 前面に出された怒りはもはや隠す気すらないのだろう。

 クシャクシャになった依頼書をブレンダンに押し付けると、ヤヒトの腕を掴みながら立ち上がる。


 「誰も行かないなんて言ってねえだろ! やってやんよ! ヤヒト(こいつ)のパーティリーダーはあたしだ! こいつが行ってあたしが行かないわけねえ! てかムカついてんのはこっちのが上だっつの!」


 荒々しくそう言い放つリーナに、ブレンダンは小さく「だよね」と呟いて小さく笑うと、


 「ようし、リーナ、ヤヒト君たちを『鐘の音の調査及び脅威の排除』の依頼に推薦する! ギルドマスター()からの直々の推薦依頼だ。ぬかるなよ。そして、生きて帰れ。良い結果を待ってる」


 「は、はい!」


 「チッ、舐めんな!」



 ブレンダンの激励を受け、二人はギルドマスターの部屋を後にする。

 窓口で依頼のことをアリッサに伝えると、隣国までの馬車や食料などは冒険者ギルドから至急してくれるらしい。


 「馬車の手配がつくのは明日の朝になります。準備が出来次第出発していただきますが大丈夫でしょうか?」


 「ああ、問題ない」


 「俺も大丈夫です」


 「では、各々しっかり依頼に備えましたら、今夜は早めに休息を取ってくださいね。特にヤヒトさんは初めての遠方依頼ですからね。遅れてしまえば、多方面に迷惑をかけてしまうでしょうし、何より体調を崩してしまうと良いことなんてありませんから。万全の状態で挑めますよう、早めに準備をして、栄養のあるものを食べて、ゆっくり休んでください」


 「了解です! 何かそこまで念を押されるとかえって緊張して眠れなくなりそう……。まあ、言う通りに早めに準備をするとしますか。まずはダグ爺さんとこに武器のメンテを頼みに行って、次はサラさんとシリルにも依頼でしばらく部屋を空けることを説明して――」


 「ヤヒト、じゃあ今日は解散だ。明日の朝は八時にエレガトルの西門に集合だからな。馬車もそこに来る」


 「あ、おけ。特別準備してった方がいい物とかってある?」


 「食料はギルドで準備してくれるらしいから、武器とかは当たり前に持って行くとして、他に絶対に必要ってものはないな。強いて言えば着替えだな。嗜好品の類は持ちすぎると邪魔になる」


 「わかった。じゃあ明日。――絶対にこの依頼は成功させるぞ」


 「ハッ、新人が言うじゃねえか」


 そう言葉を交わし、リーナは冒険者ギルドの外へ、ヤヒトは遠征についてアリッサに少し教わった後、各所を巡って準備を整える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ