4話 知らない天井
初めて書いた作品です。
拙い文章やわかりにくい表現が多々見受けられることもあると思いますが、これからの執筆を通して成長できればと思います。
さしあたって、ブックマークや感想等を残して頂けますと、やる気や励みになりますので、ぜひお願いします!
何もない暗闇を漂っていた。
水中なのか、空中なのか、沈んでいる感覚も浮かんでいる感覚もない。
何も見えない、何も聞こえない、手を振り回しても何かに触れるということもない。
そもそも、目を開けているのか閉じているのかも分からないし、体を動かせているのかも分からない。
それなのに、心だけは妙に落ち着いていて、不安どころか不思議と安心感さえ覚える。
「――さん……飯」
「おう、今……」
どこか遠くの方で、誰かの話し声が聞こえた。
耳を傾けていると、だんだんと声は近づき、鮮明に聞こえるようになってくる。
「今日は今朝採れたキノコのスープだよ」
「ほう、こりゃあ美味そうだ」
いつの間にか、食欲をそそるとてもいい香りが鼻をくすぐっている。
そういえば、買い物に出てから何も食べていなかったことを思い出す。
「腹……減った……」
何の気なしにそう声を出した途端、何も無かった空間に光が差す。
強烈な光は瞼越しにもわかるほど強く、温かい。
眩しいが嫌な気はしない光――その発生源を探ろうと薄目を開ける。
「――――」
見慣れない木製の天井だった。
耳には鳥の鳴き声や風の音、そして、相変わらず誰かが楽しく談笑する声が入ってくる。
何度か瞬きしているうちに徐々に光にも慣れ始め、周りの様子を窺えるまでに視界を得ることができた。
「どこだ……?」
首だけを動かして部屋を見渡すが、覚えのある物は一つもない。
全く知らない部屋だ。
いったい何がどうしてこの部屋に寝ていたのか、夜人は霞がかった記憶を辿る。
「確か、知らない脇道に入って、神社を見つけて、遭難して……それで、角の生えたクマに――――!!」
そこまで思い出したところで、夜人は掛けてある布団を乱暴に剥ぎ取り、慌てて自分の体を確認する。
「は!? あれ!? これは……は!?」
記憶通りであれば、崖でクマに襲われて、体がバラバラに千切れ飛んだはず。
あの時の景色も、匂いも、音も、痛みも、恐怖もしっかりと覚えている。
しかし、今はどうだ。
首は勿論、四肢も千切れた痕跡など微塵もなく、しっかりと体と繋がっているし、痛みもない。
呼吸も問題なくできているし、痛むところだって一つもない。
見紛うことなく、天守夜人本人の体で間違いないのだが、一点だけ違うところを上げるとすれば、着ていたはずジャージが、アニメやゲームに出てくる村人が着ているような質素な服に変わっていること。
「生きてる――。もしかして、夢? いや、じゃあここはどこだ? それに、この服は?」
一人で考えていても答えが出るわけでもなく、良い匂いにつられてか、それよりも空腹が気になってしょうがない。
目が覚めてから腹の音が鳴り止まない。
先ほど聞こえてきた声からすると、ちょうど食事中のようだが分けてもらえたりしないだろうか。
それに、いち早く現状を把握するためには、このままここで寝ているわけにはいかない。
夜人は寝具から立ち上がり、フラフラとおぼつかない足取りで話し声のする方へと向かう。
「――あいつの様子はどうだ? まだ起きないか?」
「うーん……。外傷は特になかったし、体温ももう心配ないんだけど、まだ起きないんだよね。重い病気だったらどうしよう。病院は町まで行かないとないし……」
声の出所である部屋には、食卓を仲良さそうに囲む二人の姿があった。
一人は、背丈が高く筋骨隆々の大男。
もう一人は、見た目中学生くらいでショートカットの華奢な女の子。
今しがた会話に出てきた「あいつ」というのは、考えるまでもなく夜人のことであろう。
であれば、この二人が夜人をあの寝室に運び、看病してくれたということで間違いなさそうだ。
「――――」
二人は、廊下から隠れて覗く夜人には気づいていないようだが、夜人も夜人で、どう声をかけていいのか、第一声を考えあぐねていた。
しかし、そんな一方通行な膠着状態は、簡単に破られる。
――グウゥゥウウゥウ……。
「あ……」
夜人の腹の虫が目の前にある食べ物欲しさに声を上げたのだ。
当然、その音は食卓にまで届き、同時に、夜人が隠れている廊下の方へと顔が向けられる。
夜人は急いで寝室に引き返そうとしたが、話す理由はあれど逃げる理由がこれっぽちもないと瞬時に思い至り、気を取り直して、少々緊張した面持ちのまま二人の前に出る。
「あ、えっと、おはようございます……は変か。ええっと何話したら――」
「目が覚めたんだね!! 痛いところは? 眩暈とかする? 何か違和感とか!」
「うお!? 痛でっ! え!? いや! その、元気です!?」
もごもごと口ごもる夜人に、噛みつくのではないかという勢いで突っ込む女の子。
その勢いと言葉から、夜人に対してかなりの心配をしてくれていたことが窺えるが、病み上がりの人を壁に押し付けるほどの突進をするのはいかがなものかと思う。
女の子は、夜人の返答を待たず、矢継ぎ早に質問を投げかける。
対して夜人はというと、頑張って質問に答えようとしてはいるが、「あ……」とか「えっと……」という言葉を漏らすことしかできていない。
女の子の勢いが凄いというのも理由の一つだが、大部分は別の理由だ。
それは、夜人が女性との接し方に慣れていないことである。
恋人という関係に発展したことは一度もなかったが、好きな人や気になる人はいたし、魅力的な女性や見た目が好みの子がいたら自然に目で追ってしまう。
大多数の男子高校生がそうであり、夜人だって例外ではない。
まあ、言ってしまえば思春期というやつである。
そんな、思春期真っ只中の男子が女の子にここまで接近されてしまっては、少なからず動揺してしまうのも仕方がない。
「おい、セツナ。そんなにがっついても困らせるだけだろう。お前も起きたんなら飯でもどうだ? 腹減ってるだろ?」
「あ、いただきます!」
夜人は、「ごめんごめん」と何度も謝る女の子を宥めながら、大男の指す席に着く。
食卓には、たくさんの野菜とキノコ、肉が入ったシチューのようなスープが入った鍋が中央に用意されている。
匂いだけでも食欲をそそられるのに、それに加えてこの見た目とホカホカと立ち上る湯気の破壊力ときたら相当のもので、空腹の夜人は思わず流れ出てしまいそうになる唾液をじゅるりと啜る。
「はいどうぞ! パンつけて食べると美味しいよ!」
女の子が空いているお椀にスープを盛り付け、皿に黒パンを二つ持ってきてくれた。
がっつきたいのを我慢して、スープをスプーンで掬い口に運ぶ。
「うまっ!」
もうそこからは我慢ができなかった。
キノコを口に運ぶ――美味い。
千切った黒パンをスープに付けて食べる――美味い。
野菜、肉、水、全てがあり得ないほど美味しい。
二人が夜人の食べっぷりに目を丸くしているがそんなことは気にしていられない。
今はただ腹を満たしたい――というよりも、栄養を取らないといけないと本能が告げている。
「おいおい、よっぽど腹減ってたんだろうけど、そんな勢いで掻き込んでたら喉に――」
「美味い! これも! このキノコってなんだ!? これ何の肉だろう!? うまっ! うまっ! ――ぅンぐッ!!」
「まずい! セツナ! 水! ったく、言わんこっちゃない。まだまだあるからゆっくり食え。せっかく三日ぶりに起きたのにまた倒れられちゃ敵わん」
大男に促され、急いでコップの水をつぎ足す女の子。
夜人は、喉に詰まったものをその水で無理やり流し込む。
窒息しそうになって冷や汗をかいたおかげで、ようやく冷静さを取り戻すことができた。
「んぐ、んぐ、んぐ、ゲホッ……。す、すみません。本当に腹が減ってて。――っていうか、三日ぶりってどういうことですか?」
「ん、ああ。、セツナがお前のことを川から拾って来たのが三日前の朝。ずっと川を流れてきたせいで体は冷え切ってたが怪我は無いし、呼吸も安定してたのは驚きだったな。その割になかなか意識だけは戻らなくてな。まあ、いつどこで気を失って川を流れてきたのかはわからんから、もしかしたら気を失ってたのは三日じゃあきかないかもな。」
「そんなに眠って……。あっ! 今更ですが、助けていただいて本当にありがとうございます! あと、ご迷惑をおかけして申し訳ありません!」
「ガハハハハ! なあに、気にするな! 迷惑っつってもずっと寝っぱなしだったんだから、俺はほとんどほったらかしで、セツナに任せてたからな!」
食事をしたおかげか、ようやく頭がまともに動き始めた夜人。
自分を救ってくれたことに対して、お礼も謝罪もしていないことに気付き、深々と頭を下げる。
そんな夜人を大男は、その体に見合うだけの大きな声で豪快に笑い飛ばし、隣の女の子の背中をバシバシと叩く。
女の子は、その叩く手が鬱陶しそうにいなすと、
「もう! いちいち叩かないでよ! ――そんなことより、あなたは何て呼べばいいかな? 自己紹介まだだよね? 私はセツナ! こっちはお父さんのアクラ! 顔は怖いけど、悪い人じゃあないよ!」
「おいおいセツナ、顔が怖いとは失礼な。それだったらこの坊主だって相当目つきが悪いだろう」
「お父さん、それは失礼だよ。身内ならまだしも、お客さんに向かってそれは……。思ってても言っちゃいけないことがあるって隣のお婆ちゃんが言ってたよ」
「――――」
正直、セツナのその言葉が夜人には一番効いた。
まあ、目つきの悪さは自覚しているところでもあり、過去にもクラスの女子と目が合っただけで泣かれてしまったという経験がある。
否定もできないし、二人との関係性が構築できていない現状ではツッコミを入れることもできない。
二人の言い合いが一通り終わったのを見計らって、今度は夜人が口を開く。
「ええっと、俺は夜人――天守夜人っていいます」
「アマモリヤヒト? この辺じゃあ聞き馴染みのない響きの名前だな」
「あ、えっと一応『アマモリ』が名字、家名で、『ヤヒト』が名前です」
「家名があるってことは、それなりの家柄か? まあ、どちらにしろこの辺の名前じゃねえな」
「ん? いや、一般家庭ですけど。生活に余裕があるというわけでもなかったですし――」
アクラとの話が微妙にかみ合わない。
まるで、他国の住民と異文化交流しているような――、
「あ、ここってまじで異世界……?」
夜人自身、そのことをしっかりと受け入れたと思っていたのだが頭のどこかでは、「そんなことはありえない」、「夢に決まっている」と、否定的な考えも捨てきれていなかったようだ。
そんな疑念を打ち消すために、夜人は質問を投げかける。
「あの、おかしなことを聞くようですけど、ここってどこですか?」
「どこって、ここは俺の家だが……。そんなことを聞きたいわけじゃあなさそうだな。どのくらいの規模の質問をしているのかわからないが――『和平国家エレガトル』。それがこの国の名だ」
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