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31話 いざ、初めての討伐依頼

 冷や汗を流すヤヒトを見たダグ爺さんは、ヒラヒラと手を振りながら、


 「おおっと、少し怖がらせちまったか? ハッハッハ! すまんすまん! 別に脅しだとかそんなことがしたいわけじゃあねぇよ」


 「だ、だよな……。別にどっちの手で剣を持とうが関係ないよな! ダグ爺さんったら、若者をあまりイジメないでくれよ」


 ダグ爺さんを怒らせてしまったのかとヒヤヒヤしたがそいいうわけではないらしい。

 しかし、それならばどうしてダグ爺さんはあんなに真剣な目つきで剣と盾のも持つ手を指摘したのだろうか。

 答えは聞かずとも、親切なダグ爺さんが教えてくれる。


 「敵の攻撃を防ぎ、いなし、できた隙を逃さず反撃する。――それが片手剣と盾をセットで使う時の基本だ」


 「えっと、そりゃあそうだよな? じゃないと盾持ってる意味ないし」


 「うむ。では、利き手とそうじゃない方の手、どっちが力がある?」


 「もちろん利き手だろ?」


 「では、どっちが早く動かせる?」


 「それも利き手だろ? ていうか、これ何の質問? それが剣と盾に何か関係があるのか?」


 ダグ爺さんの言いたいことが全く理解できず、ヤヒトの頭にはハテナばかりが浮かぶ。

 そんなヤヒトにダグ爺さんはやれやれと呆れたように首を振った後、ビシッとヤヒトが持つ盾に指をさす。


 「いいか? 肝は盾だ。どんな攻撃でも防ぐか避けるかすればどうということはない。攻撃を受けないということは、それだけで生存確率が跳ね上がる。それくらいは理解できるな? だからこそ、利き手で盾を持てばより上手く、早く防御ができて、より生存確率が高い立ち回りができる」


 「なるほど! つまり、この剣と盾は防御主体の武器セットってことだな!」


 「そういうことだ。だから、右利きのヤー坊は右手に盾、左手に剣を持つ。そうすりゃあ、戦闘になった際の生き残る確率が上がるだろう」


 正直、右手に剣を持つ方がイメージしやすいが、ダグ爺さんがわざわざ逆が良いと言うのなら従った方がいいだろう。

 ヤヒトにはそう言った知識も経験もないのだから。

 それに、剣も盾も使ったことがないため、変な癖がついているということもない。

 これから覚えること、やっていくことがヤヒトの基礎になるのだ。


 さっそく、手に持っている剣と盾を左右の手で持ち替える。


 「右手が盾で……。左手が――ああ! なるほど!」


 逆に持っていた時とは違い、持ち手の違和感がない。

 ダグ爺さんは元々右利き用に握りを調節していたのかもしれない。


 「ふむ、良い感じだな。ちょっと二、三剣を振ってみてくれ。盾も素早く構えてみろ」


 「俺、新聞紙とか木の棒でチャンバラしたことはあるけどさ。こういうちゃんとしたのは初めてなんだよな。えっと、こんな感じ? よっ! ほっ!」


 ヤヒトはゲームやアニメで見たことあるような動きを適当に模して動いてみる。

 実際に振ってみてわかったことだが、剣も盾も片手で持てるように作られているものの、それなりの重さはあるため、自由自在に動かすのは難しい。

 それこそ、油断をしたら手からすっぽ抜けていってしまいそうだ。


 「――盾の方は良さそうだが、ヤー坊、ちょっと剣を貸してくれ」


 ヤヒトの動きを観察したダグ爺さんは剣を受けとると、金床とは別にある作業台でガンガン、ゴリゴリと加工を始める。


 ――五分もかからなかっただろう。

 再び剣を持ってきたダグ爺さんはそれをヤヒトに返し、


 「もう一度振ってみろ」


 「さっきみたいな感じでいい?」


 「おう」


 見た目では何が変わったのかはわからなかったが、剣を振ればすぐに変化に気付く。


 「すげえ! 手にくっついてるみたいだ! なんだこれ!」


 慣れていないのだから、思い通りに動かすことは当然できないが、さっきまでとは握りのフィット感が段違いである。

 見た目ではわからないほどの微調整を加えられた握りは、まるで手に吸い付いてくるようで、これが手からすっぽ抜けるだなんて想像できないくらいである。


 たかが素人の素振りを見ただけで、握りの良し悪しを評り、短時間で完璧に仕上げる――。

 プロであればそれくらいできて当然なのだろうか。


 ――いや、そんなはずがない。

 もしかして、このダグという鍛冶師は相当名のある職人なのではないか。

 この世界の知識に乏しいヤヒトにはわからないが、ダグ爺さんに武器を打ってもらったことはものすごい幸運だったのかもしれない。


 「ふむ。まあ、こんなもんだろ。後はまともに武器を扱えるように力をつけることだな。技術面に関しちゃあ俺はわからん。自己流で身に着けるもよし。誰かに教わるもよし」


 「そうだよなあ。せっかくカッコいい剣なのに使えないと宝の持ち腐れだもんな。筋トレとか初めてみようかな」


 「よし、今日はこんなところだな! また何か造ってほしい時は声かけろよ。あと、たまにでいいからその剣と盾を持ってうちに来い。使ってりゃあ刃こぼれもするしガタもくる」


 「わかった! ありがとうダグ爺さん! 絶対立派な冒険者なってダグ爺さんの工房を宣伝するよ!」


 「ハッハッハッハ! 期待してるぞヤー坊!」


 ダグ爺さんは、ヤヒトの背中をバシバシと叩きながら激励する。

 そして最後に、「こいつはサービスだ」と、剣と盾を背中に収納収納するためのホルダーをヤヒトに渡す。


 「すげー! 冒険者っぽい! かっけえ! じゃあ、さっそくギルドに行ってくる! ダグ爺さん、また!」


 挨拶もそこそこに工房を飛び出すヤヒトは、駆け足で冒険者ギルドに向かう。

 剣と盾のせいでいつもより体は重くなっているはずなのに、気分が良いせいか不思議と足取りは軽い。

 あっという間に冒険者ギルドにまで到着し、興奮冷めやらぬまま冒険者カウンターの前に立つ。


 「アリッサさん! 俺でも倒せそうな弱い魔獣か何かの討伐依頼ってありますか!?」


 「あら? 今日は採集系の依頼ではないんですね。討伐依頼ということは、もしかして?」


 アリッサもヤヒトが武器を手に入れたことに気付いたようで、背中を覗き込むような動きをする。

 上機嫌なヤヒトはクルリと背中を向けて、今さっき買った剣と盾を自慢げに見せつける。


 「ようやくお金が貯まったので、ついに買っちゃいました! 親切な職人さんが半額で造ってくれたんです!」


 「それはよかったですね! とってもカッコいいです! でも、浮かれて危険なことはしないように気を付けてくださいね。考えなしに突っ込むとか、無謀な作戦を結構するとか……。せっかくお金を貯めて買ったのに、すぐに使えなくなってはいけないですから」


 アリッサからの苦言に、過去の魔獣との戦闘を思い出して苦笑いをするヤヒト。


 「そ、そりゃあまだぺーぺーですから。身の程はわきまえますよ? ほんとに。魔獣の口に手を突っ込んだりとか、しがみ付いて一緒に空飛ぶとか。まじでやりませんからね? やる奴は、馬鹿です」


 「なんだか偏りのある具体例ですが、わかっているなら大丈夫です! ――そうだ、ええっと、討伐依頼でしたね。ヤヒトさんにおすすめできそうなものを探しますね」


 「は、はい、お願いします」


 ついその場しのぎで出た言葉だったが、本当に身の程をわきまえるべきだとは思う。

 治癒能力も実態がわからない以上、それに頼りきるわけにもいかないだろうし、危ない時にセツナやウィルフレッドのように駆けくれるような人がいつもいるわけではない。

 これからは自分の身の程を探りながら、地力を付けていかなくてはいけない。


 そんなことを考えていると、アリッサが一枚の依頼書を提示する。


 「――今紹介できる比較的簡単な討伐依頼ですが、丁度昨日依頼がきたこの『オオリスの討伐』ですね。オオリスならヤヒトさんでも勝てると思います」


 「リス? じゃあそれで。オオイノシシだったらちょっと身構えちゃうけど、リスならそんなに怖くなさそうだし」


 ()()リスというくらいだから、ウサギとかネコくらいの大きさだろうか。


 「え? 確かにオオイノシシほどではないですが、オオリスも危険なことに変わりはないです。油断したら死んでしまいますよ」


 「はい?」


 リスが危険とはどういうことだろうか。

 いくら魔獣と言えど、所詮はリス。

 危険と言われても、何がどう危ないのかがヤヒトの頭では想像できない。


 そんなヤヒトに、アリッサは淡々と説明を続ける。


 「――今回討伐対象のオオリスは、キノコ狩りに山へ入った男性を襲っています。男性は何とか逃げ延びることができたものの、片腕を噛み千切られてしまっています」


 「……なんて?」

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