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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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2話 意味不明な世界 その4

特に何も無くアビスシステムが起動した。俺と常盤は1丁ずつそれぞれに渡された銃口の大きい銃を持ち、必要装置等を背負いアビスシステムを通過する。


前回同様、雪が降る真っ暗な雪原だった。


懐中電灯の灯りで周囲を照らしていると、亀裂から少し先にぐちゃぐちゃに破壊された金属製の何かがあった。


取りあえず、俺は無線機中継機を設置し、常盤は光源を設置した。


「あー……あー。こちら、新條蓮。常盤含め、無事に通過完了。前回同様雪が降る真っ暗な雪原です。亀裂発生地点より少し先に金属製の残骸ざんがいを発見。恐らく、前回設置した無線中継機と思われます」


『成程。無線中継機を新たに持って行って正解だったな。亀裂発生地点より少し先……やはり、亀裂発生地点に多少のズレがあるか……』


荒起博士がぶつぶつと呟き始めた。


『まぁ、まずは儂が言った通りに動いてくれ』

「了解」


俺は周囲を照らしながら進み、常盤が波熱弾を装填そうてんした銃で周囲を警戒しながら俺に続く。


波熱弾は俺に2発、常盤に3発分渡されている。


1発分多く常盤に渡されているのは、純粋な身体能力と反応速度は常盤の方が上だからだ。


この前腕相撲をした時に、技術で戦う俺に対し常盤は筋力のみで俺と拮抗きっこうしていた。ちなみに腕相撲の結果は俺と常盤の両者体力切れの引き分けに終わった。






特に何事も無く亀裂から10m移動した。


周囲を警戒しながらその場に地形測定器を置こうとすると、俺と常盤以外の足音が聞こえた。即座に地形測定器を片手で抱え、懐中電灯で周囲を警戒していると、俺から2m程離れて警戒していた常盤に白い怪物(スノー・モンスター)が迫っていた。


その怪物は頭が無く、そして片手が無かった。


あの時、俺等を追いかけていたヤツだった。


俺は白い怪物(スノー・モンスター)から全力で逃げる。巻き込まれない為に。常盤がバックステップで白い怪物(スノー・モンスター)と距離を取りながら銃を構え、撃った。そして命中した。


「やっっば……」


波熱弾が白い怪物に命中した瞬間、白い怪物(スノー・モンスター)、舞い落ちる雪、地面の雪全てが一瞬にして蒸気に変わった。


白い怪物(スノー・モンスター)は当然跡形も無く消し飛び、命中地点を中心に地面の雪もm単位でえぐれていた。


俺は2度見して抉れ跡を確認した。人間も消し飛びそうな威力に常盤が言葉を失った。俺や常盤を化物化物と言っているが、こんな兵器を短期間で作り上げる荒起博士が末恐ろしく思えた。


そして、何故か無線の向こう側で荒起博士がガッツポーズをしている姿が見えた。気のせいだろうか。


「こちら、新條蓮。亀裂から10m地点にて白い怪物(スノー・モンスター)と遭遇。常盤が波熱弾を撃ち、白い怪物(スノー・モンスター)は跡形も無く消滅しました」


『よし!儂の予想は正しかった。正しかったぞ!!』


どんどん、と何かがぶつかる音と共に声が少し遠くなった。荒起博士が成功の歓喜かんきで飛び跳ねているのだろう。


『ふう。さて、白い怪物(スノー・モンスター)の別個体がいる可能性を考慮し警戒を解かないように』

「了解」


俺は片手に抱えていた地形測定器をその場に設置し、起動する。側面にある緑色の板を取り起動しているか確認する。数秒の後、周囲の地形観測データが緑色の板に表示された。


『あー……あー。聞こえているか?』

「聞こえています」


『今、こちら側にデータが送られてきたが………………前回Bチームが発見した黒い壁があったじゃろ?』

「はい」


暗闇と同化していた黒い壁か。


『送られて来たデータを見ると、その黒い壁が丸く円を描き一周し、その上雪原全体を包み込むように半球状の何かが被せられている。説明しがたいが、一言で表すならスノードームじゃ。広さは大体直径100m。お主等は広く大きなスノードームの内側にいる感じじゃろう。儂ですら何を言っているのか意味がわからんが』


聞いているこっちも荒起博士が何を言っているのかが分からない。


『分からないことしか無いが、お主等から30m程離れた地点に何か大きな物体があることが分かった』


緑色の板を見ると、確かに少し離れた場所に何かがあった。


『取り敢えずそこに行ってくれ』

「……了解」






俺は地形測定器を背負い、緑色の板で方向を確認し進む。


その場から数歩歩いた瞬間、死角しかくから何かが飛び出してきた。


それは、白い毛をたずさえた大きな腕だった。その腕の先にある手が俺の首を掴み締め上げてた。


常盤がその腕に気づき、波熱弾を俺に向かって撃つわけにはいかない為、俺から離そうと白く大きな腕を引っ張った。


飛びそうな意識を押しとどめ、その場で踏ん張る。一瞬だけ腕の力がゆるみ、好機とみた常盤が腕を俺から引っこ抜いた。


「かは……ぜぇぜぇ……ぜぇ……」


酸素不足による窒息以前に首の骨が折れそうだった。

流石の特別性多耐防護服も、あの怪力の前には歯が立たないようだ。


「大丈夫?」

「なんとか……」


俺は懐中電灯で大きな腕を照らし、常盤が銃を構え捕捉ほそくする。常盤が引き金を引こうとした時、白い怪物(スノー・モンスター)が俺等の背後から現れた。


俺と常盤はそれぞれ分かれて白い怪物(スノー・モンスター)から離れる。白い怪物(スノー・モンスター)……その2体目が現れたが、さっき消滅した個体と違い頭があった。


しかし、変わりに右腕と右肩が無く、頭は真っ白な毛玉と化していた。


見覚えがあった。その姿形が、Aチームの1人、右肩が抉れた死体と酷似していた。銃を構える。常盤が白い怪物(スノー・モンスター)から5m以上離れていることを確認し、引き金を引いた。


「グルガァァァァァァァァ!!!」


白い怪物(スノー・モンスター)の胸にある大きな口から爆音の咆哮ほうこうが放たれた。


その瞬間、その爆音で波熱弾が割れて俺と白い怪物(スノー・モンスター)の間で熱波が暴発した。


俺と白い怪物(スノー・モンスター)の間にはまあまあ距離があったので、熱波は心配いらない。爆音は凄まじい威力だったのだろうが、防護服のお陰で爆音から体を守った。


初めて防護服が役に立った。


「チッ……荒起博士!現在白い怪物(スノー・モンスター)と、白い怪物(スノー・モンスター)の腕らしき物体ぶったいと接敵!先程とは別個体。しかし、その姿形が前回の調査で死亡したAチームの1人と酷似!」


焦りつつも冷静に荒起博士に無線を送る。

『なんじゃと?!…………どういことだ……?まさか……そうか!……思い込んでしまっていた。"生きている生物"にのみ感染すると思い込んでいた。まさか、死体に感染したのか……!死体は生きていた頃の熱を失い、雪の中で冷えていった。低温でしか生きることの出来ない白の細菌(スノー・バクテリア)の格好の餌となった。そして、死体を増やし増殖する雪原のゾンビとなった……!新條しんじょうれん!!常盤ときわ凪沙なずな!!最低でも他2体!白い怪物(スノー・モンスター)がまだいるぞ!』


その無線を聞いている内に、数mはある雪の抉れ後を飛び越えこちらに迫ってきていた。白い怪物(スノー・モンスター)から離れ波熱弾を装填する。


「グルゥゥゥゥゥゥ……」


背後からうなり声が聞こえた。背後を懐中電灯で照らすと、腕を振り上げたもう1体の白い怪物(スノー・モンスター)がいた。


振り上げた腕が俺に向かって振り下ろされ、俺は即座に体をよじりる。体をよじることでギリギリ紙一重で当たらず、振り下ろされた腕は足元の雪を叩き付け雪が舞い上がった。


新たに現れた白い怪物(スノー・モンスター)は頭が無かった。常盤の方は五体満足の白い怪物(スノー・モンスター)が出現していた。


常盤に1体、俺に2体。


俺はすでに波熱弾を1発外している為、残弾数は残り1発。1発で2体同時に倒すか常盤に1発撃って貰うしか無い。


どう対処するか考えていると、右肩が無い白い怪物(スノー・モンスター)が動き出した。頭が無い方は遠巻きに暗闇に消えた。


正直ありがたい。白い怪物(スノー・モンスター)筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体でも片腕ならば対処がしやすい。しかし、一番注意すべきは暗闇に消えた方、頭が無い白い怪物(スノー・モンスター)


俺は懐中電灯を持ちながら波熱弾を装填した銃を持ち直す。そして近づく怪物に視線を向ける。


左腕を振りかぶり、俺に向かって拳を放つが、軌道が分かりやすく難無く避けれた。白い怪物(スノー・モンスター)の攻撃を避けながら常盤に視線を移すと、既に白い怪物(スノー・モンスター)を倒し、波熱弾を装填していた。


暗闇に消えた頭の無い白い怪物(スノー・モンスター)が来るのを待っていると、右横から拳が迫ってきていた。左に視線を移すと、右肩が無い白い怪物(スノー・モンスター)が放った拳を戻さず放った状態で止めていた。


「グガァァァァァァァァ!!!」


…………!


至近距離での爆音咆哮。防護服無しでは鼓膜が破れていただろうが、俺に効くことは無かった。


俺自身も終わったと思ったが、この防護服が高性能で助かった。

背後に倒れながら地面を蹴り、距離を稼ぎ2体重なった白い怪物(スノー・モンスター)に向かって波熱弾を撃つ。


その時、手に持っていた懐中電灯が倒れる時の衝撃でれて、2体の白い怪物(スノー・モンスター)が暗闇に消えてしまった。


よく見えなかったが、倒せたと信じたい。


「大丈夫ー!?」

「……なんとか」

「よかったぁー……」


常盤の気の抜ける声が聞こえた。疲れた。俺はゆっくりと立ち上がり懐中電灯で周囲を照らす。


周囲を照らしていると、白い大きな腕がいた。普通に忘れていた。俺の波熱弾は弾切れの為、まだ残っているはずの常盤の波熱弾で倒してもらおうと常盤に視線を向けると、常盤の背後から白い怪物(スノー・モンスター)が迫って来ていた。


「常盤!後ろ!」


俺の声で常盤が自身の背後に迫っていた白い怪物(スノー・モンスター)に気づき離れる。


その白い怪物(スノー・モンスター)は右肩が無く、そして左腕が無かった。しかも全体的に溶けていた。


恐らく、右肩が無い白い怪物(スノー・モンスター)がギリギリで波熱弾の直撃をまぬがれたのだろう。


しかし、熱波を避け切ることが出来ず左腕が気化した。大体そんな感じだろう。ただ、この状況は少々不味い。俺は弾切れ、常盤は残り1発。


大きな腕諸共熱波弾を直撃させないと脅威が残っている為調査は強制終了。


どうすればいいのか考えていると、いいことを思いついた。大きな腕に近づき、両腕が無くなった白い怪物(スノー・モンスター)に向けて蹴った。


蹴った大きな腕は白い怪物(スノー・モンスター)一直線に命中した。サッカーの経験が活きて良かった。


「ナイスシュート!」


白い怪物(スノー・モンスター)はぶつかった大きな腕でひるんでいた。常盤が波熱弾を撃った。白い怪物(スノー・モンスター)に命中し、大きな腕諸共消滅した。


「荒起博士。接敵した白い怪物(スノー・モンスター)。計4体と1つの消滅を確認しました。そして、渡された波熱弾5発、使い切りました」


『おお!無事か!良かった。疲れているだろうが、調査を進めてくれ。あと、波熱弾はもう無いからな。1発作るだけで研究費用をごっそり持って行った。

もし、新たな白い怪物(スノー・モンスター)に遭遇した場合は最終手段のアビスシステム稼働停止がある。安心しておいてくれ。さて、改めて例の物体の調査に向かってくれ』


白い怪物(スノー・モンスター)に手一杯で忘れていたとは言えなかった。

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