20話 宇宙をその身に宿す者 その1
もう良い加減、何度目か忘れたい嫌になるような混沌とした世界。
問題は……こちらに向けられた無数の銃口と降り頻る緋色の羽。重力方向がおかしいのか羽が上から下に右から左に。
こんな状態で羽に触れない方が無理がある。味方全員が防護服で全身を覆い、肌が隠され羽に直接触れないようになっているから大丈夫だが、もしそのような準備が不足していれば即終了。信者となり無力化されていたことだろう。
緋色の羽は一旦無視するとして、1番の問題は向けられている銃口。ただの弾丸なら防護服に弾かれる。だがそれが異常を持っていたら一巻の終わり。正直今すぐこの場から脱したい。
俺がどうすれば良いか悩んでいると、白銀が1つの小さな玉を取り出し足元に投げつけ……
『ダンッ!ダダダダッ!ダ…………』
け、煙玉?!しかもかなりの濃度と量。この煙が何処まで広がっているかは分からないが、煙に焦り撃ったであろう銃弾はここまでは届かず当たっていない。そして銃声が消えた。
「この煙は衝撃を吸収して銃弾や砲弾。果てにミサイルすら受け止める異常界製の特製煙玉。早くこの場から逃げよう!この煙はすぐに霧散する!」
「了解!」
「了解した」
「……煙の範囲を確認。こちら側に逃げましょう。煙が奥まで広がり、敵対存在が少ないことは確認済みです」
何とかあの場を離脱できた。しかしこの後どうすれば良いんだ?コアにこのエリアを検索して貰っているが、判明まではまだまだ掛かりそうだ。
取り敢えず移動しよう。この場で動かずにいれば必ず見つかる。
話が通じる連中では無さそうだし、いっそのこと緋色信仰を制圧するか?いやそれは流石に厳しいな。となると……せめてボス格を人質とかにしてこのエリアを離脱するか。
「いたぞっ!奴等を――」
さっきの男と鉢合ったが、すぐに常盤が腹に蹴りを入れられ気絶した。
「グズ人形風情に負けるとは……教皇様の地位にのし上がろうとした、野心だけの奴だったか」
新たな……何か強そうな筋骨隆々の男が現れ、気絶している男を吐き捨てるようにそう言った。今の発言的に、こいつは幹部格と言ったところか。
「今すぐに教皇様への生贄として……へぶしっ?!」
筋骨隆々な男は常盤にかなり強めの蹴りを入れられ、中のを吐きながらその場に倒れた。
恐らくこいつも幹部。だとすると教皇と呼んでいた者はボス格だろう。何処だ?
何と言うか……予想以上に想定以下な強さ。鉢合った敵は全て常盤が一撃でのされ、武器を構える暇無く地べたに這いつくばった。武器を構えられても、常盤の後ろから俺と白銀が援護射撃を放ち怯ませその隙に一撃。
武器が無ければ弱いんだな。それと不意打ち。
あまりの順調具合に何かあるのでは?と疑いたくなるが、今はそんな時間すら惜しい。立ち往生してこちらが不意打ちされ即死。なんてことになったら元も子もない。
何度か幹部格らしい人間が襲ってくるものの、何故か弱い。支配人ジョキュのような超常地味た…………いや待て。今まで背後から襲い来る敵はおらず、俺達は目の前から襲う奴等を薙ぎ倒し進んでいるが、まさか誘い込まれて――――
「ようこそ。エリア521贄求む狂会の最奥部へ」
意味不明なほど神々しさを感じるこの場と、精神が混濁しそうな甘い笑みを浮かべた仰々しい教祖のような服を着た人物。恐らくあれが緋色信仰のボス格だろう。
「私は君達を歓迎しよう」
「……?!」
その言葉……このエリアに強制的に転移させられた時に聞こえた声と同じ。
「何者?!」
白銀が銃の照準を合わせ目の前の誰かに聞いた。冷や汗……?妙に緊張しているな。当然か、前任者のあのノートを読めば警戒し緊張するのも頷ける。
目の前のボス格らしき人物は白銀に任せ、俺は右側を、常盤は左側を警戒。ここは緋色信仰の本拠地。目の前の人物が怪物に変容したり、また別のエリアに引き込まれるかも知れない。完全なる意識外からの不意打ちもあり得る。
「自己紹介をしよう。私は我らが神からの啓示を受けし、緋色信仰の教祖です。私自身に名付けられていた名前は既に忘却の彼方に置かれていますので、皆からは教祖様と呼ばれています」
この場の天井にはステンドグラスと光が差し込み、神の降臨とでも形容できそうな雰囲気が広がる。俺としては性に合わない。
「我々は様々な組織から疎まれているようなので、何人かをエリアごとに派遣し情報を集めています。当然、君達が保有するアビスシステムとヘヴンシステムのことも知っています」
今までの緋色信仰の情報から、かなり手広くその手を伸ばしているだろうと推測していたが、流石にこちらの最重要な装置を2つ知っているとは……流石に驚いた。
「ですので、その2つを我らに明け渡してはくれませんかね?タダとは言いません。君達が望む物全てをご用意しましょう。何が欲しいかは、我々は何年でも、何十年でも、何百年も待ちましょう。そして私は、返答が欲しいのです。アビスシステムとヘヴンシステムを我らにくださるのか、それとも断るのか」
耳を傾ければ、口しているのは完全にあちら側にしか利が無い。何故その2つを欲しているのかは知らないが、そんなことをすれば俺と常盤の故郷たる世界がどうなるかは想像に難くない。
『絶対に拒否しろっ!!』
そして絶対に奪われたく無い人が制御室に1人。
「分かってますよ」
荒起博士には取り敢えずそう返答して置く。教祖の方は……白銀が前に一歩踏み出したから白銀に任せよう。
「それは絶対に呑めない。だから諦めて。死んでも絶対に渡さない」
「残念です。皆の者、集まって下さい」
やはりと言うべきか。瞬く間に数百人もの人数がこの場に現れた。
仕方ないか。
『バンッ』
完全なる敵だと分かれば、もう手加減する必要も無い。教祖と名乗っていたボス格の人物の頭を撃ち抜けば、多少動揺が走りこの人数でも逃げる隙は生まれるはずだ。
……?
「返答は受け取りました。完全なる敵対を」
俺が警戒していた右側にいた緋色信仰の信者の1人が突然消失したのと同時に、数滴の血がその場に現れ、地面に落下し血痕となった。
この程度ならもう驚かない。だが、何だこの胸騒ぎは。
「ふふふははは……我らが神は仰った、全ては神たる緋色に回帰すると」
おかしい。
「我らが神は仰った、緋色の鳥を見た者には祝福が下ると」
こいつ等は人間だろ?このエリアに来てから今まで人間しか確認できないと思い込んでいた。だが違うのか……?
「我らが神は仰った、我らの信仰は死の概念すらも崩壊させると」
何故頭を撃ち抜かれて生きているんだ……?そう言う異常なのか?!
「我らが神は仰った、純然たる色に魅入られた者は、生命も、異常すらも覆い隠すほどの力を得ると!」
これは本格的にやばい。完全に危険信号だ!
『パリンッ』
……何だ?!今のガラスを割ったような音は……常盤が上を向いて、上?
「新條君!上!上から誰かが!」




