19話 決壊する想像 その1
『ザァ……ザザァ……』
波の……音?眩しい、ここは.…
「あ、おはよう新條君」
「常盤……ここは、何処なんだ?」
周囲には俺と常盤と白銀とコア。白銀は寝ていて、コアはスリープモードに入ったかのように動かない。
それで、信じたく無いが、俺達がいるのは日差しが燦々と差し込む小さな小さな砂浜しか無い孤島。
カニバリカルトに何かされて意識を失ってから、何も覚えてない。ここは本当に何処なんだ?海面が全て鏡のようにこちらを写しているから、異常界であることには間違い無さそうだが……
「カニバリカルトはどうしたんだ?あの様子からまともに取り合ってくれるようには見えなかったが……」
「うん。偶然あのボスと呼ばれてた人の睡眠攻撃を回避できたから、なんとか2人とコアを抱えてがむしゃらに逃げたけど、結構危なかったし死にかけたからね。偶然開けた扉がこのエリアに繋がってなかったら全滅だったよ」
「追っ手は?」
「今のところ無し」
「それなら良いが……絶対に来ないとは限らないだろう。最低もう1つエリアを挟んで振り切りたいな」
「…………そうだね」
「白銀とコアは起きた。防護服は全員装着を完了した。だが……こんな大海原の絶海の孤島でどうすれば良いんだ!」
「……ヒット。エリア83鏡海島。島と銘打っているものの、実際は約2m四方の砂が海面より上に露出しているだけであり、ただの砂の為このエリアでの生存は困難。この砂浜を包むこのエリアの水は、鏡と同等の反射性質を持ち、そして――――」
『ザバンッ!』
何かを水から打ち上げるような音……音がした方向を見ると、鯨のように巨大な魚が小さな小魚に貪られていた。
そして一瞬で骨ごと魚が消え去った。
「……今のように海中には物理突破の異常を持つ小型の肉食魚類が跋扈しており、多耐性防護服であろうと海中を泳ぐのは困難です」
尚更どうすればいいのか分からなくなった。
「……せめて水は回収するか」
「あ、そっか。そう言えばこれ調査だった」
『流石にそれは忘れんでくれ。まぁ、異常界のエリアの情報や地理等だけでも値千金ではあるがな』
コアから蓋付きのビンを受け取り、波が来たタイミングでビン一杯の水をさらう。
ビン越しに見ても、このエリアの海水は完全に鏡だった。だがそれだけ。単に光を反射しやすいだけで、以下でも以上でも無い。
「別エリアへはどうやって行けば良い?」
「…………」
コアが無言に……まさか!
「……別エリアへは、分かりませんカラット情報道社及びその他組織が発信している情報では、このエリアについての情報がかなり少ないです」
「コアを責めるつもりは無いけどさ、ほぼ毎回情報少な過ぎない?」
常盤が前置きをしてそうコアに聞いた。俺もそれに関しては気になってたし、白銀も軽く頷いている。
異常界は少しのミスが命取りだから、コアが探し提供する情報はかなり重要だ。だからその分、情報が少なければ死ぬ確率も爆増する。
「すいません。他組織より優位に立つ為、故意にエリア情報を秘匿する組織が多かったり、そもそも危険過ぎて調査が進まなかったりと、エリアに関する情報は局所的にしかありません」
……そうか。確かに有用な異常は誰もが欲しがるし独占したいか。
だが、結局ここからどうすれば良い……?
「……このエリアに逃げたこと、間違いだったかな。今は嵐の…………雨?」
上からぽつりぽつりと、雨粒が降って来た。
……この絶海のエリアで雨……嫌な予感が――――
『ザーー!!』
「な?!」
絶海のこのエリアでの嵐は予想していたが、余りにも天候の変化が早い。
そしてやはり、今さっきまで穏やかだった波が荒ぶっている。風も急速に早く。
もしこの砂浜が津波に飲まれた瞬間、その上にいるこの場の全員があの魚に喰われて死ぬ。恐らく、いや絶対に。
「そうだ!白銀!3分時計を起動してくれ!」
「わ、分かった!」
白銀が3分時計を操作し周囲の無機物の速度が約1/5に。これで時間を稼げる。
「コア!まだ掛かるか?!もしくは何か打開策はあるか?!」
「……少々お待ちください」
別エリアに行く方法が少々危険だとしても、流石に今よりは安全だろう。俺としてもあの魚に群がられたら勝てる自信が無い。
3分時計の影響で15分は大丈夫……ん?いきなり常盤が荒ぶる海に向けて右腕を振り上げて、それを振り落と――――
「せい!」
「なっ……?!」
「あ……っ……?!」
「……検索……一時中断。今現在起こった事象の理解を開始」
……常盤が右腕を振り下ろした瞬間、常盤の前方の海が真っ二つに割れた。文字通り、モーセの海割りの如く海の果てまで続く海の谷ができた。
「やっぱり」
常盤は納得したような様子だが俺からしたら全く理解が追い付かない。一体何をしたんだ……?
「このエリアってさ、多分言ったことや行動がエリアの環境に変化を与えるんだよ。まぁつまり、そうなるって言う想像かな。例えば、もしもここから離れた場所で海底火山が噴火――――」
『ゴーゴーゴー…………ドカーン!!』
急にゆっくりと地面が揺れて、急にゆっくりとここから遠く離れた場所で水蒸気爆発のような大爆発が起きた。
「今みたいに!想像すればこのエリアから抜け出せるはずだよ!」
「ああ!そうみたいだな!」
爆音の響く中、やっと行く先が見えて来た。
念の為少しこの現象……異常について検証をしてみた。
まず、この異常は頭の中で情景を思い描くと、このエリアではその形を模る。
例えばこのエリアが晴れると思えば晴れるし、雨が降ると思えば雨が降る。
そしてこの異常が介入できるのはこのエリアのみ。つまりこのエリアと別エリアとの道を繋げたり、想像で別エリアの怪物がこのエリアに入ったりはしない。逆に言えば、充分な思考と想像を持つ知的生命体は、このエリアに限り神になれる。
試しにあの魚はトビウオのように空を飛ぶと想像したら、トビウオの羽を持った魚が俺達目掛けて突撃を決行した。
すぐ想像で魚の羽を消したが、かなり危なかった。
危なかったけれどこれくらいなら充分対応可能。だが、問題が1つ。
それは、思い描き想像した判定がかなり緩い。
例えるなら、会話をしたがら足を進める下校中の学生達の1人が、途中にあるブロックの壁を見て崩れたら危なそうと考え想像するだけでエリアに瞬時に反映され、新品だとしてもガチガチに補強されていても必ず崩れてしまう。
そんなレベルの、たった一瞬の想像でさえ現実になってしまう。
もし最悪の結果を想像すれば……いや、考えない方が良いか。
コアが言っていたエリアの情報が少ない理由の1つ。エリアそのものが危険に該当するだろう。エリア83鏡海島は、海の鏡によって全ての想像が反映されるエリア……今までのエリアとは、別ベクトルで危険だ。
だがこれで、カニバリカルトの連中がこのエリアに来ない理由が分かった。連中は人員が不足している。故に、こんな危険なエリアに自ら入るだけで損失を被る。
己自身の想像がこの身を滅ぼすなんて、どんな皮肉か。




