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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
三章 欲望と渇望の塊

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18話 同族食 その2

◆◇◆◇



「新條君!白銀ちゃん!」


異常事態に気付いた常盤が突然その場で倒れた2人に近付く。確認すると、2人はただ寝ているだけだった。しかし常盤は状況が圧倒的に不利であることを理解し、コアに助けを求めようとコアを探す。だが中々見つからず、嫌な予感が背筋を走り床に視線を移すと、そこにはスリープモードに入ったコアの姿があった。


「素晴らしい!やはり貴女は同志だ!」

「どう言うこと?みんなに何をしたの?!」


常盤は声を荒げる。


「我らが神、生皮神と人間の皮を交換して手に入れたこれの力さ!」

ボスが右腕にはめていた腕輪を見せつける。


「これを使えば、人生の中で同族を喰らった者以外を眠らせる力を持っている。そしてこの腕輪で眠らなかった貴女は、人間ながら人間を喰らう我らカニバリカルトの同志である!」


ボスは高らかにそう言い、この場のカニバリカルトの構成員達が興奮した様子で拍手を始めた。


「もし……仮に私がカニバリカルトに入るとして、新條君と白銀ちゃんはどうするの?」


常盤のその質問に、拍手が凪いだ。


「貴女が処遇を決めて下さい。我らの同志にするもよし、生きたまま切り分け食べるもよし。この日1時間程度しか会っていない者がどうこう言う資格はありませんから」


「……そうなんだ。ねぇ、1つ聞くけどさ、2人は大体どれくらい寝ているの?」

「短くとも4時間は起きませんよ」

「そう…………博士。ここからは何も聞か無かったことにして下さい」

『……』


目を伏せ、次元間通信機器の向こう側にいる荒起博士に対し、常盤は小さく呟く。


その言葉に反応するかのように、ブッという切断音と共に、荒起博士との次元間通信機器の接続が切れた。


「ちょっと君、こっちに来てもらって良い?」


少しばかり目を伏せたまま近くにいた少年を呼び寄せ、その様子に訝しんだ少年がゆっくりと常盤に近付く。


少年が常盤のすぐ側に来ると、常盤が少年の首にそっと手で触れる。


「がっ……」

ボギっと何かが折れる音と共に、首があり得ない方向に向いた少年が倒れた。無論その少年は死んでいた。


「な、何を?!」

流石の行動にボスが狼狽えた。


「へぇー、赤の他人が死ぬことにはあまり関心は無いけど、仲間が死ぬとそれなりに心に来るんだね」


躊躇無く少年を殺した常盤に、特に表情を変えない常盤に、ボスはただ恐怖を感じた。


「あ、あの者を捕らえよ!殺しても構わん!」

引きつった表情を浮かべたボスの声と共に、100人程度の人間が武器を持ち常盤に襲い掛かった。


常盤はそれに応戦し、次々と容赦無く迫る者達の首をへし折り内臓を破裂させ頭蓋を握り潰す。


「止まれ!」

大声に常盤の視線が大声の発生源に向く。そこには眠った新條蓮と荒起白銀を、カニバリカルトの構成員が常盤に見せるように、2人の首筋に長剣を軽く当てていた。


その光景に一瞬だけだが常盤の動きが止まり、敵の攻撃を許す隙を作った。


「しまっ――――」


背後から斧やハンマーや包丁の3つそれぞれの武器を持った人間が襲い掛かり、急所である頭を叩かれ、眼球が弾き出され……その場にはもう無い潰された頭と頭を無くした体が残った。


「あ"あ"ぁ……ケホ、ゲホ」

頭を無くした常盤の体が立ち上がる。


「なっ!こいつまさか、人に化けた異常生命体?!」


襲い掛かった人間の1人が驚きと共に声を上げ、その瞬間に頭を再生しつつある常盤が拳を振りかぶりその人間の背骨を粉砕。


常盤が普通の人間では無いことに気付いたカニバリカルトの者達が各々の武器を構え、そして攻撃を加えようと動いたその時、容赦無く複数人同時に頭を潰した。


常盤凪沙はまだ知らない。彼女が産まれながらにして持つ痛みへの耐性と脅威の細胞分裂による再生能力。そしてハズレ黒果実の過剰摂取。特性と異常が絡み合い、異常が誕生した。


「……あれ?頭が潰されたのに何で生きてるの?」


常盤凪沙が得た異常。それは主に2つ。1つ目はハズレ黒果実の摂取時の再生速度を摂取せずとも発揮される。


「……まぁいっか。今はそれよりも」


2つ目は頭を潰されようとも、全身をほぼ消滅させられようとも、どんな状態からでもノーリスクで体を再生可能に。デメリットや代償による記憶の欠落や精神の異常は、彼女の中にはただの1つも存在しない。


常盤は何故頭が再生しているのか分からぬまま襲い来るカニバリカルトの構成員を虐殺し惨殺し、遂に残るカニバリカルトの構成員及び人間は、ボスと呼ばれた人間ただ1人。


「私、これでも元ギャングのナンバー3だよ?あんまり舐めないで欲しいなー」


『ボギッ』

「……?!」


「変なことされたら困るから、顎を砕かせてもらったよ。これで君は喋れない」


「……あぅあ"ぁ……!」


「さて、君達にその武器を与えた元凶。生皮神は何処にいるか知ってる?知ってるよね?」


痛みで地に伏したボスに対し、常盤が両手でボスの頭を掴み、少しだけ力を込めてそう聞いた。


痛みと恐怖で体が震え、まだ動く腕を上げ、恐る恐る壁の一点に指を刺した。


「あそこだね。じゃあ、ありがと」

『グシャ……!』






「これが、生皮神……」


カニバリカルトのボスが言った異常を持つ物体を与える存在、生皮神。


常盤はその言葉を不審に思い、新條と白銀とコアをあの場に残し、カニバリカルトのボスが指し示した壁に隠された隠し扉を見つけ進み、奥に辿り着くとそこには異様な物体が存在していた。


人間と思われる皮が乱暴に縫い合わされ、中心にはヨダレを常に垂らす大きな口があり、異様で大きな皮の塊が神仏のように置かれていた。


常盤はボスが言った言葉を思い出し、意を固める。それから常盤は生皮神に向かって歩き出し、生皮神の目の前に到達すると、常盤は深呼吸をして全力の蹴りを目の前の怪物に打ち込んだ。


その超威力には流石に耐え切れず、生皮神が破裂し中から赤い血のような物が周囲一面に飛び散った。


「……いつもの、嫌な血の匂い……」



◆◇◆◇



常盤の願いから次元間通信機器の通信を切った荒起博士は、静かに次元間通信機器を見つめ、制御室にいる職員研究員が知る情報を、静かに呟き始めた。


「常盤凪沙……幼少期にアメリカで両親に捨てられ、その後アメリカのギャング組織に拾われる。約10年の歳月の中、鉄砲玉として数々の敵対組織を壊滅させギャング組織のNo.3に上り詰めた。しかしある日、対抗する犯罪組織によって組織は壊滅。所属メンバーは常盤凪沙を残し全滅。その後戸籍を偽造して日本に帰国し、実の両親の住居を突き止め殺害。警察の追ってをのらりくらりと交わしつつ、指定暴力団を点々とし、暴力団の構成メンバーの末端のみを残して殺害。6つ目の暴力団を壊滅させた時に、儂等が所在を突き止めスカウトをした」


「経歴がもうフィクションのレベルですよ……」


制御室に佇む荒起博士の呟きに、新人故に未だ知らされていなかった本郷伊波が驚きを隠せず唖然とした。


「そうじゃな。常盤凪沙の総殺害人数は推定で千人を超える。対人戦闘に置いて新條蓮と並ぶ強者で、そして話が通じる。拾われる場所が違えば、まだ違う道があったろうに……」

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