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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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2話 意味不明な世界 その3

「やっと来たか!」


第4研究室に到着し、中に入るといつも以上にハイテンションな荒起博士が待っていた。


「始めに、白い怪物(スノー・モンスター)と同じく例の細菌の名称が決まった!白の細菌(スノー・バクテリア)。以後この名で呼ぶように!」


細菌の名称が決まったのはいいが、荒起博士の目元にくっきりと隈が出来ていた。恐らく今の荒起博士の状態は、重度の寝不足と深夜テンションで、いつものハイテンションを超えたスーパーハイテンションになってしまっているのだろう。


それと、さっきから研究室の中心にあるテーブルに被さった布。


テーブルに何かが置いてあり、布の上から見える形としては銃に見えたが、布が被さっていて詳しいことは分からなかった。


白い怪物(スノー・モンスター)の手が跡形あとかたもなく消滅してしまったが!その代わりに白い怪物(スノー・モンスター)の弱点が分かった!"熱"じゃ!

白い怪物(スノー・モンスター)は付着していた白の細菌(スノー・バクテリア)と同じよう熱に弱く!一定以上の熱を浴びせればその体は熱に耐えられなくなり、体が跡形もなく気化してしまう!」


荒起博士が怒涛の勢いであの怪物の弱点を喋り、興奮が冷め止まぬ様子でテーブルに被さっていた布を思い切り引っ張り、布の下が露わになった。


「そこで儂は新たなる兵器を開発した!見よ!儂の新兵器を!」


銃だった。銃口が大きく作られた長さ40cm程の銃が2丁と……

「この銃が兵器……?」

「銃はおまけ!兵器はこの弾じゃ!」


常盤の疑問を荒起博士が即座に否定し、銃の隣にある銃弾を指した。鈍器として使えそうなほどに、その銃弾は大きかった。


「これは波熱弾!着弾と同時に衝撃で弾内部の化学物質が化学反応を起こし!周囲約4mに熱波を放つ!数回の実験で熱量は白い怪物(スノー・モンスター)の気化ラインを突破し!儂の予想が正しければ喰らった瞬間に消し飛ぶはずじゃ!そして、その波熱弾を5発分用意した!」


荒起博士のテンションに俺の眠気が吹き飛んだ。常盤も同様のようで、荒起博士を呆れの目で見ていた。


「波熱弾が全て外れたとしても!最終手段として、アビスシステム稼働停止による空間断絶もあるからな!」


「また行けと……?2人しかいない状態で……?」

「そうじゃ。この前も言ったが、お主等2人は色々と化物じゃ。そう簡単には死なんじゃろう」


近々またアビスシステムを通って別世界に行くことになるのでは?と思っていたが、特殊部隊が2人しかいない状態で行くことになるとは思ってもみなかった。


「あぁ、あと特別性多耐防護服を改良した。あの時全員に苦情を言われたからな」


はぁ、と荒起博士が溜息をついた。


「改良点は2つ。1つ目は大きな音が発生した時、その音が防護服内で反響してしまう点。これは防護服内部をある程度音を吸音する素材に変更した。

2つ目は、防護服に取り付けられた無線に音量セーフティをつけた。これで、一定以上の音量を一定以下に減らすことができる。これで文句は無いじゃろう?」


俺は防護服の改良点を聞いていると、1つ重要な点が改良されていないことに気づいた。


「重量は?」

荒起博士が急に黙り、静かに目を逸らした。


「…………忘れとった。まぁ大丈夫じゃろ!」

全然大丈夫では無いが。


荒起博士からの信頼が厚すぎて、いつまで命を持ってられるか心配になって来た。


「2回目の実験開始日は明日!時間は前回と同じ14時30分からの開始。前回よりも人数は少ないが頑張――――」


いきなり荒起博士が倒れた。


「いきなり倒れるなー!」

常盤は倒れた荒起博士の肩を持ち、俺は研究室から出て他職員の応援を仰いだ。


荒起博士は連日徹夜で白い怪物(スノー・モンスター)の手の研究と兵器作成に当たっていたそうで、俺と常盤に兵器等の解説をしているうちに限界が来たそうだ。


荒起博士が倒れた為、実験は3日後に変更された。






前回と同じ待機室、前回より少ないメンバー、前回から新たに増えた武器、モニターに写された、前回と変わらず鉄の扉のように佇むアビスシステム。


そして、前回同様に重くて体が動かしにくい防護服。


「なんで同じなんだー!重量軽減くらいしてくれー!」


重量が変わっていないことに対する文句を大声で叫ぶ常盤。この状況に疲れてきた俺。これからまた別世界に行くのに、俺の中で緊張が沈んでいく気がした。


『あー……あー!聞こえるかー!』


防護服に内蔵された無線から荒起博士の声が聞こえてきた。前回のように大声が防護服内で反響することは無く、無線から聞こえる声も普通に聞ける程の音量になっていた。


「こちら、新條しんじょうれん。聞こえました。防護服内での反響、音量については問題無し」


『そうか、よかった』


荒起博士にとっては防護服の重量よりも、いつもの声量で喋れなかったことの方が重要だったのだろう。


白い怪物(スノー・モンスター)から逃げる時に、防護服の重量が足を物理的に引っ張っていたと報告書に書いたはずなんだが。


『さて、今回の実験及び調査の目的は白い怪物(スノー・モンスター)排除はいじょと亀裂付近の地形調査。先程新條蓮に渡した装置があるじゃろ?』


「はい、ここに」

荒起博士が防護服と一緒に渡してきた1つの装置に目を移す。

常盤が俺を通り過ぎ、装置に近寄る。


『それは地形測定器。超音波を発生させ、周囲の地形情報を知ることができる。前回の調査で黒い壁があることが分かったからな。その壁がどこまで続いているのか知る為でもある。地形測定器のデータは順次こちら側に送られる。

あと、装置の外側にコードが繋がった緑色の板を使用すれば直接周囲の地形情報を確認出来る』


確認すると、地形測定器の側面に1本のコードが繋がっている緑色の板があった。


『亀裂通過後は、白い怪物(スノー・モンスター)に破壊されている可能性を考慮し予備の無線中継機を設置。次に、同様の理由で予備の光源を設置。その次に、亀裂が地形測定器の超音波に影響を及ぼす可能性を考慮し、亀裂から10m程移動し地形測定器を設置するように。

地形測定器から送られた地形情報を確認し、何かあればその地点に移動し調査。別世界移動後、白い怪物(スノー・モンスター)と接敵した場合は即座に波熱弾を撃つように。ただし、流石の特別性多耐防護服でも波熱弾の熱で破損する。

その為、波熱弾を撃つ場合は最低5mの距離を取るように。今回の別世界移動後の説明は以上!2人しかいないがまぁ、頑張れ!』


「はーい……」

「……了解」


緊張感の無い荒起博士の声に俺の中で不安が積もっていくのを感じた。

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