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15話 狂い続ける臨界点

「バイタル正常。脳波正常。鎮静剤の投与で一時的に眠らしたが、まさかあの有名人が新條蓮と知り合いとは……」


荒起博士が感嘆とも言える声を溢した。


俺達が今いるのは、荒起博士が運営する私立病院。その中にある個人病室。


今俺と常盤と白銀とコアと荒起博士が、そこに寝かせられたあいつをガラス越しに視認できる個人病室に隣接する廊下にいる。


商人と名乗った怪物が何処かに消えた後、異常界関連の緊急事態として荒起博士と連絡を取り、現状を伝えるとすぐさま救急車を手配し、荒起博士が運営するという私立病院にあいつが運ばれ、俺と常盤と白銀も状況を知る物として連れて来られた。


母と父には、緊急の仕事が入ったから少しの間家を開けると伝えてある。


周囲には他に人はいない。異常界関連の為、あいつには秘匿性の高い個人病室が当てられたのだろう。だが何故かこの場にコアがいる。荒起博士と共にいるとは予想していたが、ここが荒起博士が運営する私立病院だとしてもここは大丈夫なのか……?


頭を軽く搔きむしった荒起博士が溜息を吐き、背もたれの無い丸椅子に腰を掛け口を開く。


「公にできぬ情報しか無いからな。お主等がその家にいる時のことを、強盗殺人事件が起こりあやつの母が殺され、そしてたまたま実家に帰省していたあの有名人に見つかり返り討ちにしたが、母を殺されたことによる心の傷を治す為に、現在療養中。というカバーストーリーを流しておいた。あやつが表から姿を消す理由にもなる」


流石、用意周到で本当に助かる。あいつがあの商人に関わっていたとなると、俺も無関係とは言えない。


横に視線を移すと、常盤があいつを複雑な表情で見つめていた。確か、常盤はあいつを光を与えてくれた人と言っていた。


あいつは仮初の才に溺れ、果てに廃人と成ってしまった。その事実を知ってしまえば、そんな顔をせずにはいられないだろう。


「新條蓮。あの有名人をあのような姿にした元凶を見たのだろう?写真はあるか?」


…………


「そんな暇があったと思います?俺の診断結果が体内裂傷の重症ってのを知っているでしょう?」


あのナイフに掠っただけ。そのお陰で体を動かす度に悲鳴を上げた為荒起博士に診てもらった所、全身の血管が傷付き所々で出血していたという。今は抽出黒錠剤を呑みある程度マシになったが、過度な運動は禁止と厳命された。


「そうか…………なら絵は描けるか?」

「そりゃあ、まぁ……描けますけど」

「今用意する。少し待ってくれ」






荒起博士にA5の紙とシャーペンを渡され、ざっくりと商人と名乗ったあの怪物を描く。


大体描き終えてから一度全体を確認し、この場の全員に見せる。


「…………!」

俺が描いたスケッチを見た瞬間、荒起博士の目が少し見開いた。


「荒起博士?どうしました?」

「……いや、なんでも無い。ただ、凄まじく奇怪な姿だな」


恐怖は感じなかったが、改めて見ると荒起博士の言う通り奇怪だった。顔の中心から少し上にある渦巻く黒が、その奇怪さを生み出しているのだろう。


「そういえば、なんでコアがこの病院にいるの?」

常盤が今更そんな疑問を溢す。


「儂が連れて来た。コアなら、儂が知らない難病患者に最適な治療方法を教えてくれると思ってな」


その目的でここにコアを連れて来たのか。文句は言わないが、デルメントルトの技術を下手に扱うとこの世界を根底から覆しかねない。


荒起博士の塩梅が絶妙なことを願うばかりだ。






その後この世界に現れた商人と名乗る怪物について荒起博士に共有していると、会話の区切り目で徐に錠剤が詰まった瓶を取り出した。商人が見せつけ、あの場に残した全能薬だった。


「例の全能薬とやらは一種の麻薬じゃ」

荒起博士がそう切り出す。


「快楽と才能。依存と渇望。精神崩壊と自己崩壊。違くとも似ている。あらゆる才能に目を輝かせ、崩壊する自己に目を反らし、その結果が1人の死者と1人の精神病患者を生み出した。この全能薬は然るべき措置を取り、秘密裏の金庫に厳重に保管する。間違っても全能薬を使おうなどと考えるな。あの人生終了した男になるぞ」


…………全能薬の力は俺が良く知っている。そしてその果てを今日知った。間違っても使うつもりは無い。絶対に。


あの時はあいつの才能にしか目を向けていなかった。あいつのあの才能が眩しすぎた。もしあの眩しさを掻き分け、側にいることができたなら、違う結果に成ったのだろうか…………いや、ただ俺が意識し過ぎたか?あいつの眼中に俺がいなかったら…………いや、考えても今の結果は変わらない。どうやっても時間は止まらない。この世界では。


「商人と名乗った者については情報が少な過ぎる。だからこそこの世界に現れたことを念頭に置き、極秘異界研究所の工事完了の報告が来るまで警戒を怠らず各自休暇を楽しめ。次いつ休暇が与えられるかは未定じゃ。お主等がいる職場はそう言う場所だと留意せよ」



◆◇◆◇



エリア666ヴェルデント商会本部店にて、薄暗くほとんど誰もおらず嘘のように静まり返ったその場所で、ただ一角が眩しくない程度の光に包まれていた。


「ぷはぁ。先輩、このお茶美味しいですね」

「そうやろそうやろ?わいがやっとこさ購入できた一品や。褒めて貰えて嬉しいなぁ。そういや、ンガルルちゃんの隣、その隊服……あんた異常抑制支部の所属やろ?どうして本部に?しかも何で粘液塗れに?」


「私が連れて来ました!」

「……チッ」

「えらい不満そうやけど。まあ良いわ、ほらあんたも飲め飲め。わいが絶品の茶入れてや……ってもう入れてる?!」


「先輩が気付く前に入れたそうです。面倒なことになりそうとかで」

「ンガルルちゃん。あんたこの無口の心読めるんか?」


「いえ。私にそんな力はありません。ただ何となくです」

「へー、そんならあんたにこの無口の通訳を頼むわ。わいには全く分からんからな」

「分かりました!」

「まあまず茶飲むか」


ズズズと茶を啜り、全員のコップが空になった。


「平和ですねぇ。あんなに忙しかったのが嘘のようです」

「副商会長の采配のお陰やな。色々とひと段落して、本部や支部の職員社員に休みを与え、今やいっつも騒がしい本部が耳鳴り鳴るくらい静かや!!」


『やあ…………やぁ…………やぁ…………ゃぁ…………ゃ…………』

大声が何度も木霊し、やがて聞こえなくなった。


「あのー、私が新人だから知らないのかもですけど、何故先輩は休みの時に本部へ?」

「わいはなぁ、なーんか仕事しとらんと落ち着かなくてな。家ん中でぐーるぐる回って落ち着こうとしても落ち着かなく、結果本部に来ちまったんや」


「ワーカーホリックですね」

「……チッ」

「ンガルルちゃん。今この無口はなんて思ってる?」


「えーっと。今すぐこの場から逃げ出したいそうです」

「逃げても良いけどな、ここでやってくには付き合いも大事やで?前の職場ブッ壊れて行き場が無いなら尚更や」

「え?!そうなの?」


「こいつは前に勤めていた組織が滅びてな。でも機械や設備機能が生きてたから、辞めるに辞めれなかったらしい。そんで最近完全に滅びたから、なーんにも無い組織を抜け出したんや。で、そこを商会長に見つかって半強制的にこの商会に入ったと聞いとる。そうや!前の職場と商会の類似点を教えてくれ。酒のネタになる」


「……」

「前の職場もこの商会も不満があるから同じ、だそうです」

「我儘な奴やなぁ」


「…………?……?!」

「……ンガルルちゃん……無口の足元って何や?」


「私の粘液を固めた物です。粘着質な性質も合わさってそう簡単には抜け出せません。ここから逃げ出そうと様子を伺っていたので、その前に足に忍ばせて置きました」


「はー、ンガルルちゃんすっごいなぁ……これ一本でやってけるレベルやぞ」

「えへへ、ありがとうございます!」


「……!……!……………………チッ……!」


「それで無口。折角茶を仕入れて感想聞きたかったのに、その前に逃げ出さんでくれよ?多分無口とンガルルちゃんは知らんやと思うけど、わい、ここじゃ結構偉いんやで?本部経理部長を任されてるからな。

わいの地位を使えば新人は逆らうことはできん。まぁでも、ンガルルちゃんはかっわいいから、欲しいもんやって欲しいもんがあったら何でも言ってくれ。わいの権限全て使って叶えてやるぞ!」


「……」

「この無口は何て?」

「最悪な癒着を見た、だそうです」


「癒着だとしても最悪はやめて欲しいなぁ…………全員空……茶入れるからコップ出してくれ」


3つ全てのコップに茶が入れられ、コップが先まで持っていた者にそれぞれに配られる。


静かに再び茶を啜っていると、ンガルルが何かを思い出す。


「そう言えば……先日の残業騒ぎに深く関係してる大手とその対抗組織って、何ですか?」


「あー……確かわい等ヴェルデント商会の今回の取り引き相手の大手の名前は…………蒼新星教やな。そんでその対抗組織は、緋色信仰。報告にあった結託した別組織は、緋色信仰の傀儡組織、食人至上主義のカニバリカルト。ヴェルデント商会の悪評の99.9%は商会長様が原因やけど、この商会とは違って緋色信仰の悪評は組織全体が悪評を作ってる。毎度やばいことをしでかしてる商会長とタメ張るレベルやからな……」


「そうなんですか」

「…………」

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