14話 人の不幸を買う商売 その2
「蓮の同僚さん……常盤凪沙でしたっけ。それと荒起ちゃん。さあ自由に座って座って!」
母が常盤と白銀をリビングに招き、俺も一緒にリビングに向かう。
何重にも匂いが重なる。俺が久しぶりに帰って来たから母は張り切っているだろう。だがこんなに匂いが重なる料理は一体……
「いやー、ちょっと頑張っちゃった」
…………
「いや、ちょっとどころじゃ無いぞ母さん!何だこのやり過ぎな料理は!」
「張り切っちゃったわ」
「それで済むか?!目算で40万は硬いぞ!」
「え……」
金額を聞いた瞬間、座ろうとして椅子を引く常盤の手が止まった。
絶対に高い食材や調味料のオンパレード。目に付くのは恐らく国産の高いうなぎや牛肉、多分国際黒毛和牛。そしてテーブルの中心には3段ケーキにマカロン。やり過ぎだ!しかもまだまだ色々な料理がある。
母にこの豪華料理についての弁解を求めたいが、その前に今にもケーキに突撃しそうな白銀の首根っこを掴む。
「ただいまー!蓮は帰ってるかー!」
……今は、19時。面倒になりそうな時に面倒になる原因が来た。
「久しいな!蓮!いやー、あの時スマホが壊れていなかったらと思う毎日だった。そうすれば蓮の声をもっと早く聞けたというのに!」
父が丁度見計らったような時に帰り、父、母、常盤、白銀、俺での夕食が始まった。
「蓮は職場ではどんな様子か教えて下さる?」
母は開口一番、常盤と白銀に俺についての情報を欲した。まぁ、そんなことを聞くのは予想通りではあるが、職場に関しては重要機密だから常盤と白銀が口を滑らしたら大変なことになる。
俺も介入して誤魔化さないと……
「新條君は色んな機転ができて、リーダーみたいな役割をしているんです」
「おお!リーダーか!やはり蓮は天才だな!」
父が大声で俺を褒め称えた。小さい頃から天才と呼ばれ、それで呼ばれることには慣れたが、俺は天才では無い。むしろ天才は……
「あと凄く強くて頼りになります。この前だとにん――――」
「この前!常盤が悪漢に襲われた時に居合わせてな、俺がその悪漢を撃退したんだ」
「そうだったのか!蓮は強いからな、チンピラなんぞ足元にも及ばないぞ!」
危なかった……このまま嘘の補足を入れ続ければ何とかなる。多分……
つか、疲れた……
あれからテーブルの上の料理が全て食べられるまで、常盤と白銀の失言を防ぎ訂正し……しかも母と父の質問はマシンガンのように口から射出され続けた。
「あ、新條君。さっきはありがとう。新條君がいなかったら、あのまま全部溢しちゃう所だったよ」
ベットに倒れる俺と、またもや俺の自室に押し入った常盤と連れられた白銀が疲れた様子で俺のベットに倒れた。
「ワタシからも。あの2人とのお喋りは危険……コアですら丸め込まれそうなトークスキルだった……」
起き上がる気力すら無さそうな白銀が俺の布団に顔を埋めた。
「そりゃあ、父さんは弁護士で母さんは元検察官だから」
「うわ、納得……」
「ん?もと……?」
白銀が元、と呟きながら首を傾げた。
「母さんは父さんと出会ってから、検察官の仕事を辞めて今は会社を立ち上げて社長をやってる。確かIT関連の会社だったかな。俺が産まれた頃に大成功して、今の会社はかなりの規模になってる。だから家の主な収入源は母さんだ」
「そんな凄い人なんだ……もしかして、いつもあんなに豪華な――――」
「いや違う。いつもはもっともっと質素だ。母さんは収入のほぼ全てを会社に回しているから、あの夕飯はやり過ぎのやり過ぎ。明日の朝食は俺から母さんに色々と言っておくが、まぁ、常盤と白銀は客人なんだ。気にしないでくれ」
あれがいつもだと思われたらかなり面倒になる。既に面倒だからこれ以上面倒になる事態は絶対に避けたい。避けなければならない。
「りょーかい」
「分かった」
次の日。早朝の朝7時。
早朝の朝5時に起きた俺は、母のこれ以上の暴走を止める為、前持って朝食の準備を開始し、調理に介入しようとする父と母を牽制し、何とか今この時、5人分の朝食を完成させた。
朝食に使った食材は基本的に全て昨日の余りである。せめて残った物は有効活用しないと家計が火の車になる。それだけは絶対に避けなければ……絶対に。
「ふあ〜おはよー」
二階から眠気がまだ取れない常盤と、歩きながらもほぼ寝ている白銀が降りて来た。
「昨日伝えたが、洗面台はあっちだ。冷水で眠気を覚まして来てくれ」
「りょー……かい」
常盤と白銀を待つ間、朝食作りに使った調理器具を洗い、常盤と白銀が戻って来た時には全て洗い終わった。
皆で朝食を食べ始め、父と母を中心とした談笑が続く中、母が何かを思いついたかのように手を叩いた。
「そうだ!蓮、久しぶりにあの子に会ってみたら?丁度今週は休暇らしいから」
…………あいつか。
昼頃。母に言われ、俺1人であいつの家に向かってみる。あいつに最後会ってから、大体2年振りになるか。
最近のニュースや特番ではあいつの話題で持ち切りだ。
あいつは今や、様々な大手スポーツチームの勧誘やバラエティなどの様々な番組に出演するなど、俺とは違い大成を果たしている。今ではもうすっかり有名人だ。
常盤がこの前あの特番を見ながら言っていたことは、俺がよく知っている。
あいつは俺が高校2年の時に、俺のいる高校に転校して来た。
あいつの才能はすぐに周知の事実となった。
俺の実力や才能を軽く凌駕し、運動スポーツや絵画などの芸術。文芸や将棋やトランプなどのゲーム。雑学やテスト、そして全国模試で格付けられた知能。社交性や運転技術や言語能力や――――
全てにおいて俺を上回り、中途半端な俺の完全なる上位互換。
1つ2つ負けるならまだ大丈夫だった。
俺は1のことを極限まで極めた訳では無いし、そのことに関して特別天才な訳でも無い。1つのことに全力で努力する人と比べれば当然劣る。地下の物置にあるメダルやトロフィーは1位が少しで、2位や3位が大半。
そして1つのことに努力する人は、他が多少できてもそれに努力した人に劣る。俺はあらゆることに対して1位より少し劣るが、他も1位に劣るがあらゆるできる。その1位とはまた違う特別感が、俺の自信を積み上げた。
だから俺は耐えられなかった。
自信が崩れ去り、心が折れた時を思い出しながら歩いていると、あいつの家に辿り着いた。
父や母に俺の心が折れた理由は言っていない。もっともらしい理由を並べて、俺とあいつの関連を悟らせ無いようにした。母がああ言ったのも、俺の心が折れた理由があいつだとは微塵も思っていないから。
これは俺の問題だ。俺の努力が不十分だったせいで、自分勝手に心が折れた。だから無関係な母や父に迷惑を掛けたくない。
「……」
到着。家はまあ多い程度の住宅街。その家の1つが、あいつが生まれ育った家。
そして俺を完膚なきまでに叩き潰した天才。それが今、目の前の家の中にいる……
「ん?」
チャイムを鳴らしても反応しないか……試しに扉を軽く叩いて、何も返事が無ければかえ――――
「…………血……?」




