13話 楽園を望むは人の形 その6
再び黄緑色の光が放たれた。
コアの警告のお陰で機械の物陰に隠れ何とかやり過ごせたが、あれは危険過ぎる。
「……!」
光の着弾地点。そこに放置し、俺が真っ二つに割った長銃が塵すら残さず消滅していた。
威力は本物と考えて良いな……
「ん?」
殺気……?かなり分かりやすい殺意が背後から。取り敢えず、少し横にずれて殺意の発生源から避け、先程の光の余波で落としかけた銃を構える。
そこには、大鎌を振り下ろした身長180cm強のカカシ人形。大鎌は死神が持っていそうなくらい、かなり大きい。
大鎌に目が行くが、あんなのもいるのか。人形のモデルは多種多様だな……
カカシ人形は大鎌を持ち直し、こちらに向けて大鎌を構えた。
幸いテディベアのあの兵器は、2撃目以降沈黙している。今の内に常盤達と合流してエリア17に向かいたいが、目の前のカカシが邪魔か……
お互い武器を構えて攻撃の隙の読み合いをしていると、先にカカシ人形が動いた。
カカシ人形は目にも止まらぬ速度で接近し、的確に俺の喉笛めがけて大鎌を振り上げた。
部が悪い。この至近距離では近過ぎて銃が邪魔になる。一度銃を手放し、迫り来る大鎌の刃を軽く手で押さえ、直角に大鎌めがけて膝蹴りを放つ。
「いって……!」
流石に膝が痛い。
殺傷能力を上げる為だろうが、カカシ人形が持っている大鎌は刃がかなり薄い。故にある角度で衝撃を与えれば、それが金属であろうと容易に破壊できる。多少の反動が伴うが……
目論見通り大鎌の刃は粉砕され、カカシ人形は大鎌からほぼ棒になった鎌を俺に投げ付け、その場に落ちた刃の破片を手に纏わせ、俺に殴り掛かった。
投げ付けられた大鎌を振り払い、手放した銃を拾い射程距離の差でカカシ人形を潰し…………ん?
カカシ人形の動きが急激に遅くなった。何が起きて――――
『今の内にエリア17に行って!』
次元間通信機器から白銀の声が響いた。
しかしこれはどうなって……そうか!3分時計の力か!すっかり忘れていた。ここの人形は動き襲い掛かる存在。だが人形は物だ。3分時計の異常は生きる者以外の動き、時間を早めたり遅くできる。
それがこの結果を生み出している。俺が今気付いたように、白銀も今さっき3分時計の効果範囲と人形の判定に気付いたのだろう。
周囲を見渡す限り、全ての人形が動きを大体1/5ほどに低速化している。今の内にエリア17に続く扉に向かとしよう。3分時計は万能では無い。時間制限があるし、遅くなろうと動くことは可能だ。
視界の端で光が見えた。そこに視線を移すと、テディベアがまた光を収束し始めていた。非常に不味い。超光速のビームの速度が1/5になろうと、ただ時間が遅くなっているだけなので威力はそのまま。視認すら難しい速度では、ほぼ避けられない。
全力であの扉に向かう途中でコアと合流した。あの兵器の光が一際輝くのと同時に、常盤と常盤に抱えられた白銀と合流した。
白銀はコアに発火ナイフを渡し亜空間格納庫に入れて貰い、常盤は閉められたその扉を引いた。
入る時はかなり苦戦したようだが、今度は呆気なく開き、それと同時に光がテディベアの兵器に全て収束した。
即座に白銀とコアを抱え扉を進み、光が全て収束した様子を見た常盤はエリア17に行ってから扉を引っ張って閉め、扉から直角方向に全速力で逃げる。あの威力だと、錆び付いた扉を貫通しこちらにまで光が及びかねない。
だからこそ、まずエリア50に続く錆び付いた扉からできうる限り遠くまで離れる。
エリア17の暗い通路を進んでから、約10分が経過した。
錆び付いた扉を抜けてから光が放たれた様子は無く、人形の追手は見当たらない。恐らく、逃げ切れた。
「ぜぇ……ぜぇ……報告。エリア50を抜け、エリア17に到着。追手は見えず、逃げ切れたと思われます」
レンガの地面に腰を下ろし、息を切らしつつも荒起博士に報告する。流石に疲れた。全力疾走を10分したお陰で体力は底を尽き、体はいつも以上に酸素を欲している。
常盤も一緒に腰を下ろして休憩し、10分の間ずっと抱えられていた白銀はコアと共にエリア17の経路の確認を始めた。
『良くやった!そのままエリア24果実楽園に向かい、予定通りヘヴンシステムを設置せよ!』
「了解」
体力がある程度回復し、念の為周囲を警戒しレンガの通路を進む。
エリア50に向かった時とは別の通路を進み、何事も無くエリア24に続くレンガの亀裂に到達した。
一度常盤と白銀と顔を合わせ、俺が先行してレンガの亀裂を進み、亀裂を抜けると超巨大な木々が生い茂るエリア24果実楽園に到着する。
ビルほどの太さを持つ枝の上を進み、周囲を遠くまで見渡す。
白銀の言っていた通り天文学的な蝗は一匹もおらず、異常鎮圧部隊も何処にもいなかった。と、ここまでは予想できたことだが、何故か天文学的な蝗に喰われたはずの木々が元通りになっており、コアにそこら辺をズームしてもらうと木がニョキニョキと目に見える速度で成長と再生を繰り返していた。
流石に白銀もこれには唖然としていた。
「うわぁ!」
エリア24の安全確認を続けていると、いつの間にか腐れ林檎姫が俺達の背後に立ち常盤を驚かせた。
常盤の叫び声のお陰で驚きが半減した。常盤には悪いが、驚いてくれて助かった。俺がいる位置的に、驚いて足を滑らすとそのまま下に落下する。本当に助かった。
安全な場所まで移動し、白銀がこちらの状況やここでしたいことなどを説明し、最後にコアから出された大量の肥料を腐れ林檎姫に渡した。
腐れ林檎姫は白銀の肩をポンポンと叩き、何かを感じ取った白銀はコアに頼みヘヴンシステムをその場に出して設置した。
ヘヴンシステムを見た腐れ林檎姫は肥料とヘヴンシステムを見比べ、突然白銀をギュっと抱きしめた。
すると腐れ林檎姫がヘヴンシステムを片手で持ち上げ、片腕で大量の肥料を抱え、枝を飛び降り道なき道を進んで行った。
白銀はすぐに腐れ林檎姫の後をついて行く。取り敢えず俺達も腐れ林檎姫の後を追う。道無き道を進むと、目的地に到着したのか、腐れ林檎姫がヘヴンシステムをゆっくりと下ろした。
到着したその場所は、あの時腐れ林檎姫に招かれた木に埋まった家のすぐ側だった。腐れ林檎姫は大量の肥料を抱え、俺達に手を振りあの家の中に消えて行った。
その様子を呆然と見ていると、白銀がこちらに体を向けて親指を上に向け手をグットの形に作った。どうやら上手く行ったらしい。
「報告。腐れ林檎姫に肥料を全て渡し、無事ヘヴンシステムをエリア24に設置完了しました」
『そうか。今現時点をもって、天国移転作戦を終了とする!特殊部隊はヘヴンシステムを起動し研究所への帰還を言い渡す。さぁ!まだ研究所に残る人形の掃討や残骸の焼却処分など。やることはまだまだあるぞ!』
「了解」
「りょーかい」
「了解」
◆◇◆◇
エリア666ヴェルデント商会本部店にて、覇気の無い多種多様な怪物達が各々ぐったりとしながらそれぞれの仕事をこなしていた。
「ふ、副商会長様ー!どこですかー?!」
スライムの少女。ンガルルが大声で姿の見当たらないヴェルデント商会の副商会長を探していた。
「目の前にいるぞ」
「ひゃあ?!」
突然のその声に、ンガルルの粘液が周囲に飛び散る。
「驚き過ぎだ。落ち着け。それで君は?」
「めっちゃ強い無口さんの同期です!」
「ああ、確かンガルルと言ったな?商会長が連れて来たもう1人の新入りは。それで、休憩中に何のようだね?」
「あの、1つ聞きたいことがありまして……その前に、副会長様はどこですか?」
ンガルルが周囲を見渡す。周囲には誰も見当たらずンガルルの頭には?が浮かぶ。
「不可視体の私を視認できるはずも無いだろう。私は君の目の前にいる。聞きたいこととは何だ?言ってみてくれ」
「あ、はい、えっと、先輩達から聞いたんです。昔、商会長様が人形工場を設立しようとしていたらしいのですが、それってどうなりましたか?先輩達にそれ以上のことを聞いても知らないの一点張りで……」
探すのに夢中で忘れていた質問内容を思い出し、ンガルルが副商会長にその質問を投げかける。
「ああ、そのことか。一言で言うと、頓挫した」
「頓挫……ですか?」
ンガルルはその言葉を心の中で反芻させる。
「元々その時は忙しかったから、ヴェルデント商会の下部組織に受注したんだ。主に工場の建設と人形の製作を。だが、その下部組織の思想が危険だった」
質問の答えが思わぬ方向に進み、ンガルルは一瞬思考が停止する。
「我々の商会や数々の組織を崩し、異常界の頂点に君臨する。それが彼等の思想だった。だが、我々への思いをひた隠しにしながら新たな異常生命体を創ったものの、その異常生命体が暴走しその工場は廃棄。下部組織は壊滅、解体。商会の計画は頓挫。概要を簡単に話すとこんな所になる」
ありがとうございます。とンガルルがお礼を言おうとした時、副商会長の声と言葉がンガルルのお礼を掻き消す。
「あと、工場があるエリア50ドール・ザ・ファクトリーには絶対に近付くな。今も異常生命体の人形が支配している。その人形が持つ武器の種類や異常の特性上。そして今も工場が稼働し新たな人形を生み出し続けている点を加味しても、商会支部を壊滅させかねない。さて、聞きたいことはこれで全てか?」
「はい!ありがとうございます!」
ンガルルは元気いっぱいに返事をした。




