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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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2話 意味不明な世界 その2

『特殊部隊所属の隊員は至急第2研究室に集合して下さい』


真昼間の食事中に間の悪いアナウンスが極秘研究施設を駆け巡る。異世界調査から3日後、俺は常盤と一緒に食堂で各々好きな物を食べていた。


「うわー……面倒だなー。何故今……」

「文句言わずにすぐに行くぞ」

「はーい」


常盤は普通に歩いていた。


常盤が言っていた通り、怪物から受けた傷は翌日には傷跡すら残さず完治し、爆速で松葉杖から卒業していた。俺が見た限りでは結構傷は深かったばずだが。


俺と常盤が第2研究室に到着すると、来る前からいた荒起博士が椅子に座るのを勧め、座ると荒起博士が信じられないことを呟いた。


「よし、これで全員集合じゃな」


とっさに俺が研究室を見渡したが、俺と常盤と荒起博士以外第2研究室には誰もいなかった。


異世界調査で死亡したAチームの3人を除き、何とか帰還できたBチームは俺と常盤ともう1人いた筈だが。


「荒起博士、もう1人いた筈ですが……?」

俺が聞くと、荒起博士がすぐに返答した。


「あやつか……検査を終えた途端辞表を出しおった。あの化物がよほど怖かったらしい。ただでさえ少なかった隊員が今や2人。やはり、元軍人といっても対人戦や兵器使用が中心じゃからなぁ……未知と相対できる程の精神力は無かった。ということじゃな……」


荒起博士が自問するように言葉を吐き、その話を聞いた常盤が手を上げ、荒起博士がなんじゃ?と、常盤に聞いた。


「その話を聞く限り、私と新條君は元軍人の人より精神力が強いことにならないですか?」

確かにそうだ。俺自身の自己評価は幼少の頃から挑戦が好きな青年だ。


常盤はこの前超人と知ったばかりだから否定はしない。


「そうじゃ。儂がスカウトマン達に提示したスカウト基準は常人からの超越。常盤凪沙は痛覚耐性と常人を超えた細胞分裂による超速の身体回復。

新條蓮は国内外問わずありとあらゆる大会での優勝、

もしくは準優勝などで爪痕を残し、更に様々な資格の取得。

1つ2つの種目や大会による優勝や準優勝はしても、参加したほぼ全ての大会や種目で名を残す人間は完全に常人を超越しとる。

つまり、お主ら2人は色々と化物ということじゃ。国の極秘研究施設ということで自衛隊員の一部を借りることもできたが、訓練されているとは言え、まともな人間が辞表を出した元軍人と同じく完全なる未知に抗える保証など無い。

要するにお主等は捨て駒に近かったが、今を生きこの場にいる。整理すると本当に化物じゃな、お主等は」


……自己評価を訂正しよう。


「さて、本題に入ろう。まず、あの化物の名称が決まった。名前が無いと、新たな生物が出現した時に形容することが不便じゃからな。あの化物は、白い怪物(スノー・モンスター)と命名した。以後、この名を使うように」


そう言うと、荒起博士が立ち上がり研究室の端に置いてあったクリップファイルを手に持ち、それを開きながらさっきまで座っていた椅子に再び座った。


「お主等にも情報を共有しようと思ってな。アビスシステム稼働停止による空間断絶。それによって切断された白い怪物(スノー・モンスター)の手を調べた。儂の丸1日の調査によって分かったことが3つある」


荒起博士が俺と常盤に見せるように指を3本立てた。


「まず1つ目、あの化物の体温は低温ということが分かった。大体-30度ほどじゃな。次に2つ目、この研究施設には大まかにじゃが、遺伝子から体の形をシュミレーション出来る装置がある。妙なことに、化物の手の細胞を何度解析し、シュミレーションしても、お主ら2人が見た頭無しの白い毛むくじゃらにならん。必ず頭のついた人型生物になった。最後に3つ目、一番不可解なことに、化物の細胞と儂ら人類……ホモサピエンスと遺伝子が約99.9%合致した」


「あれが人間…………?」

常盤が意味が分からないという顔を浮かべた。俺も意味が分からない。


「じゃが、3つ目の謎は先程分かった。これを見よ」

俺に、一枚の写真が渡された。常盤が近づき写真を覗き込む。

荒起博士が渡して来たのは、白い毛が体を包み、異様に体が膨れ上がっている何かの生物の写真だった。


「これは先日白い怪物(スノー・モンスター)に付着していた毒を体内に注入し、毒によって体が崩壊して2日目の実験用マウスじゃ」


「……まさか」

写真から顔を上げ、荒起博士と目を合わせる。


「そうじゃ。白い怪物(スノー・モンスター)に付着していた物。初めは毒と断定していたが、これを見た儂は細菌と確信し、調べた結果別世界にしか存在しない新種の細菌と言うことが分かった。

生物の体内に侵入し、体の細胞を壊死させ、主導権を奪い変容することで新たな白い怪物(スノー・モンスター)となり数を増やす。

ここまで聞くと恐ろしいが……人間が感染する可能性は限り無く低い。この細菌は低温でしか生きることが出来ず。恒温生物……それも体温と高ければ高い程、体が大きければ大きい程、感染したとしても直後に力を失い無力化する。

常盤凪沙の体内に入った細菌が消滅したのもそれが原因じゃ」


その話を聞きながら、常盤に毒耐性は無くとも超人には変わりないと思っている俺がいた。


「えっと……特に気にしなくていいと?」

「あぁ、そうじゃ。ちなみに、実験用マウスが変容したのは寿命間近だったことが原因じゃ。寿命間近で全体的に体温が下がり、細菌が動きやすかった、と言った具合じゃな。変容した実験用マウスは即座に終了し、徹底的に焼却した」


荒起博士がそう言うと、開いていたクリップファイルを閉じ、椅子から立ち上がった。


「さて、これで話は終わりじゃ。儂が2人に教えようとした情報は教えたからな。解散!」

解散と言った直後に荒起博士が早足で研究室から出て行った。


その様子に俺と常盤が唖然としていると、俺の隣からぐぅー、と腹が鳴る音がした。


「あーお腹空いたー」


常盤が腹を抱えた。真昼間の食事中に呼び出されたことを思い出し、常盤と一緒に食堂に戻った。






その1週間後、夜23時の真夜中。


『特殊部隊所属の隊員は至急第4研究室に集合して下さい』


凄まじく迷惑なアナウンスが極秘研究施設を駆け巡った。


「眠い……」

「俺もだ……ふあぁ……」

取りあえず背伸びをして眠気を覚ます。


俺も常盤も絶賛睡眠中だったが、アナウンスとスマホの着信音で強制的に起こされた。


着信主は荒起博士だ。


荒起博士はこの研究施設の立場の地位が高い。

この極秘研究施設のトップである所長に次いでだ。


その為、非人道的な行為や倫理的にヤバいことをしない限り基本的に何でもしていい。まぁ、荒起博士の性格上そんなことをするとは思えないし、荒起博士と初めて会った時にマッドサイエンティストを名乗っていたが、後で普通に良い人と分かった。


ただ、流石にこんな深夜に呼び出すのはどうかと思うが。

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