13話 楽園を望むは人の形 その5
『全職員に通達!現在事態の最終解決の為、アビスシステムを最起動するとのこと!制御室に入室許可の下りている職員は至急制御室に!警備員は研究所を隅々まで巡りまだ残る人形がいれば即座に破壊!その他職員は人形の残骸を全て焼却処分せよ!危機は未だ去っていない!そのことを前提に生き残った職員は事態解決に尽力せよ!』
アナウンスが響く中、俺と常盤と白銀は荒起博士の研究室で中断を終えた防護服を着用している。
本郷の左腕の接合手術を始めた頃、白銀と荒起博士がそれぞれ武器を持って制御室に来た。想像以上に早く中断が終わったそうで、俺達の加勢に来たと言っていた。
丁度良いので2人に本郷の状態を見せ、白銀と荒起博士と共に接合手術をした。抽出黒錠剤を飲ませた後、暇になり手持ち無沙汰な常盤に手術道具を持って来て貰い、接合手術はあっという間に終了した。
侍猫人形の切った腕の断面は凄まじく綺麗で、接合手術をするにはかなり楽だった。その分、断面から感じ取れる斬る技術の高さには背筋が凍ったが……
今この場に本郷はいない。本郷は手術は終わったとは言え、あの重症で動かれてはたまったものでは無い。その為、今は医療室に隔離し麻酔で眠らせた。
特殊部隊全員が防護服を装着し終え、コアにはかなりの量の肥料が亜空間格納庫に積み込まれる。アビスシステムがヘヴンシステムと繋がる前に、この多少安全になった研究所で人形の殲滅を水葉所長に命じられた。まぁ、俺としても多数の殺人鬼が徘徊しているとなったらたまったものでは無いのは確かだ。
全員バラバラに別れ見かけた人形を片っ端から潰していると、防護服の次元間通信機器から荒起博士の声が鳴り響く。
『準備が整った!新條蓮、常盤凪沙、白銀、コアはキリの良いところで至急待機室に集まれ!天国移転作戦の最終段階を始める時じゃ!』
「了解」
こんな時も元気だな…………博士。
急ぎ足で待機室に向かうと、途中で白銀と合流した。その手には人形がよく持っていたナイフが握られていた。そのナイフについて尋ねると、白銀がこのナイフの刀身には触れた対象を発火させる異常があるとのことだった。
だから微妙に改造銃が焦げ付いていたのか。
待機室に辿り着くと、待機室の前で常盤とコアが俺と白銀を待っていた。
合流し、待機室に入る。入った途端に荒起博士が次元間通信機器越しに作戦の再度説明を行った。作戦内容は全て頭の中に入っているが、追加でアビスシステム起動前の実験室での待機を命じられた。
アビスシステム起動まで待機室で待機する理由として、突発的な有毒物質の発生による全滅や、起動した瞬間に怪物がこちらに侵入し即座に攻撃を放たれての全滅を防ぐ為だが、今回はその逆。
今回はアビスシステムが起動した瞬間にヘヴンシステムを抜け、即座にアビスシステムを停止しこちら側への侵入を防ぐ。その後は事前に作戦として聞いた通り。
それぞれ武器を構え、ここは既に異常界だと勘違して最大限の警戒をし、アビスシステムのすぐ側で突撃の態勢を取る。
『アビスシステム起動まで、3秒前』
実験室にあるスピーカーから荒起博士では無い声が響く。
『3、2』
意識を集中させる。
『1、起動!』
アビスシステムから光が迸り、形容し難く凪ぐことの無い亀裂が生まれた。その瞬間に全力疾走で突撃する。一足先に常盤が突撃した。
アビスシステムからヘヴンシステムを抜けると、初めてエリア50ドール・ザ・ファクトリーに来た時と同じような工場の空間が広がっていた。人形の姿は今の所見当たらない。
白銀とコアがヘヴンシステムを抜けると、すぐさま亀裂が消滅した。そしてすぐにコアがヘヴンシステムを亜空間格納庫に収納した。
「新條君あそこ!」
常盤が声を張り上げ指を斜め上方向に差した。
静まり返る工場。1体も見当たらなかった人形。そんな空間の俺達がいる場所から高い位置。複数の機械や装置が積み上げられたその場所。
そこに、明らかにやばい兵器が取り付けられたテディベアが俺達を見下ろせる位置に陣取っていた。
テディベアがその小さな腕を俺達に向けると、隠れていた人形達が一斉に現れ襲いかかった。予想はしていたがかなり多い。数は侵入した人形の10倍以上。当然この人形より数段強い特殊個体もいた。
そうか、あいつがボスか。
周囲から迫る無数の人形な対し、こちらは3人と1台数は圧倒的に不利だが俺達特殊部隊の勝利はエリア50からエリア17への離脱。
襲い掛かる人形を相手取りつつ、あの錆び付いた扉に向かう。
バンッ、という銃声と共に俺の防護服の膜に銃弾が乗っかり少しめり込んだ。周囲を急いで見渡すと、スコープ付きの長銃を持った30cmほどの人形が周囲の人形に紛れ銃弾を撃ち放っていた。膜にめり込むのなら、威力は通常の銃より数段高い。あれが何発も飛んで来たらかなりの脅威。
俺がいる位置から最後に長銃人形を見た位置の距離とこのごく短時間の人形の移動範囲を考え、予測した位置に突き進む。
人形の波を掻き分け、予測した位置に到着する。さらにここから周囲を見渡す。俺の目は人形に紛れ俺から距離を取る人形を見逃さなかった。
邪魔する人形を足で蹴り飛ばし、やっと追い付いた長銃人形を拾い上げ、拾い上げたまま銃弾の連射をその身に喰らわせる。長銃人形の手から落ちた長銃には足を上に上げ、そのまま落下させ踵落としを直撃させる。
長銃は見事に真っ二つに割れた。これでまともには使えないだろう。
白銀の周りで火の粉が飛び散る。よく見ると、白銀が持っているナイフで切られた人形が燃えて炎上していた。
あのナイフ。例の発火するナイフで間違い無いな。人形の体は布と綿と糸。全てが燃える素材で、少しでも発火すればよく燃える。
発火するナイフは、偶然にも人形特効の異常を持っていた。元々それは仲間が持っていた物だとは、人形達にとって何とも皮肉なものだ。
急に人形が距離を取り離れ始めた。
何を…………ん?光?この方向……明らかにやばい兵器が取り付けられたテディベアがいた方向…………な?!
「全員今すぐ退避行動!」
次元間通信機器で今しなければならないことを言い放つ。
俺達を見下ろしていたテディベアの兵器から、黄緑色の光が一点に収束していた。
俺の予想だとエネルギーの塊を一点に収束させて放つレーザー砲のような物だろう。異常界の全てに言えることだが、よく分からない物には防護服を貫通しうる可能性がある。あくまで可能性だが。
テディベアから全速力で離れていると、兵器の光の収束が止まり、一瞬だけ凄まじい光を放った。
「生きてるか?!」
『なんとか!』
『生きてるけど、今すぐエリア17に行かないと死ぬ!余波喰らっただけで物理減衰シールドが壊れた!』
『ボクもそれに同意します!』
全員が光の余波で遠くに飛ばされ、仕方無く次元間通信機器で特殊部隊全員と連絡を取る。
放たれた黄緑色の光は、その余波だけで防護服の膜……物理減衰シールドを吹き飛ばし、そして全力で逃げた結果直撃は免れた。膜の正式名称って物理減衰シールドと言うのか……初めて知った…………とにかく白銀の言う通り、今すぐにエリア17に逃げなければ。流石に防護服があったとしてもあれは危険だ。
光の着弾地点には地形的破壊は見当たらず、工場があの光への耐性が高いのか、あの光には対象のみに攻撃が可能なのか。
光が収束した時、襲い掛かる人形は全て離れて行った。と言うことは、この工場はあの光に耐性がある。
そう考えていると、再びやばい兵器を取り付けたテディベアが光を収束し始めた。まさか連発可能か!
「今の内に逃げるぞ!」
『了解!』
『りょうーかい』
『来ます!皆様衝撃に備えて下さい!』




