13話 楽園を望むは人の形 その3
水葉所長と合流した俺と本郷は、水葉所長に所長室から荒起博士の研究室への最短ルートを教えて貰い、事態解決の為に立ち上がった水葉所長と共に研究室に向かい、今さっき研究室に到着した。
途中で人形に襲われ息も絶え絶えになってしまったが…………
常盤、白銀、コア、荒起博士。常盤と白銀とはあの爆発と崩落によって分断されてしまったが、合流できて良かった。
各々好きなように椅子に座り、壁に寄りかかり、全員を見渡せるように高く浮遊し、自ら作ったバリケードをどうするか悩み、拳銃の状態と残弾数を確認し、いつの間にか持っていた漫画を開き、そして俺は疲れた精神を癒す為にテーブルの上に頭を乗っける。
「荒起博士。防護服はどこにあります?」
普通に邪魔だったバリケードを研究室の端に寄せる荒起博士に、この研究室に来る目的であった防護服の在処を聞いてみる。すると何故か荒起博士が罰の悪そうな顔をした。
「すまぬが、防護服は今、修理と改良の為に作り直そうとしている最中なんじゃ。異常界の物質を使っているあれを無理に使えば、製作者の儂ですらどうなるか分からん。もう少し時間があれば中断して安全に使えるが、今は時間が無い。だから今まともに使える防護服が無いんじゃ」
人形軍団の殺傷力が高いが、所詮は武器による物。だから防護服なら何とかなる。その思いでここまで来たが、それ以前の問題か……
荒起博士がバリケードを片付け終わり、この場の全員による情報交換及び現状整理が始まった。
「最初に良いかな。私から聞きたいことがあるんだけど」
始まった途端、常盤が真っ先に手を上げた。
「まず、あの爆発と振動は分かるかな。警報が鳴り始めて少し経った後の」
「確かに聞こえたな。対人形用の罠が暴発するとこだった」
落下する手榴弾の罠か…………いや危なかったな、至近距離で受けたら普通に死ぬぞ!
「寝てたから覚えてない」
「水葉……お主はこんな時にも平常運転か……」
荒起博士は水葉所長に呆れていた。
「爆発の発生源はアビスシステム方面です。侵入した人形に爆発物を所持した個体がいるかと……」
コアはそう言った。
「そう言えばだが、人形に遭遇した人。手を上げてくれ」
俺がそう言いうと、俺、常盤、白銀、コア、本郷、水葉所長の計5人と1台が手を上げた。意外にも、あんなバリケードを作った荒起博士は遭遇していないのか。
「ここに来るまでに色々な人形に襲われたが、全部が同じくらいの大きさで共通して何かを持っていた。殺意満々だが脅威と言えるほどじゃ無かった。頑張れば一般人にも対処可能だと思う。だが今言った人形とは違う奴がいた…………皆が遭遇したのはこれくらいの多種多様な人形。で良いか?」
テーブルから大体30cmほどの高さに手を置く。荒起博士以外の全員が頷いた。
「途中本郷と合流した後、大きさが人間ほどでチェーンソーを持った兎の人形に襲われた。かなりの速度でチェーンソーを振り、自転車より少し遅い程度の足を持っていた。俺と本郷の協力で何とか倒せたが、正直あれが何体もいたらかなり厳しい」
「それって、何日の金曜日……?」
まぁ、言われてみれば似ていたな。
「人形の中にも、特別な個体がいると言う訳か」
「私達の方は全くだね。新條君が遭遇したのじゃ無くて、普通の小さい人形ばかりが襲って来たから。私だったから良かったけど、何回か致命傷を受けたからねー」
「だとしても、人形の耐久力はそれほどだった。ガワが布で中身が綿な分、拳銃の銃弾1発で頭が吹っ飛んだ」
「チェーンソー持ちの兎人形もですね。ドドメは私が刺しましたが、普通の人形を殴っている感覚でした」
「ここまでの話をまとめると、人形全てに共通することとして、耐久は通常の人形と同程度。そして何かしらの武器を所持していて、人形本体に足りない攻撃力をカバー。さらに人形達の中には特殊な個体がいる。これくらいか」
荒起博士が今の話し合いで出た情報を大まかにまとめた。
「少しよろしいでしょうか」
コアが手を上げ、全員の視線がコアに集まる。
「あの人形がアビスシステムから出て来た原因についてですが――――」
コアから人形達がヘヴンシステムを通り、アビスシステムに抜けた原因を話した。概ね俺の予想通りだった訳だが、話した後、コアがこれでもかと言うほど謝り常盤がそれを止めた。以外と頑固だな……
「さて、人形についての情報を共有したところで次じゃ。事態解決にはどうすればいいか。この状況、即決で決めなければならん。良き案がある者はいるか!」
荒起博士の声が響く中、誰も何も言わず沈黙が流れる。
俺は人形が来た原因を知っている。常盤と白銀とコアと本郷も、今コアが話したように知っている。無論俺達の報告書に目を通しているであろう荒起博士や水葉所長は、警報と共に流れたアナウンスで既に察していることだろう。
だが原因を知れても対処が分からない。アビスシステムとヘヴンシステムを破壊すれば、人形の侵入は止まるだろう。しかしそれはこの極秘異界研究所の存在意義が根底から消滅する。莫大な金と時間とエネルギーが無駄になる。荒起博士や水葉所長の頭に案として浮かんだとしても、それは最終手段。
今から制御室に向かいアビスシステムを停止してもただの一時しのぎ。ヘヴンシステムが異常界側から何度も起動されれば、こちらはどうすることもできない。しかもヘヴンシステムには恒久エネルギーオーブがある。エネルギー切れは存在しない。
「方法は、ある」
その言葉に全員の注目が集まる中、白銀がそう言った。
「具体的にどんな方法を?」
荒起博士が目を細め白銀に質問すると、白銀が荒起博士に目を合わせる。
「そもそもここに繋がる道が無ければいいんだよ」
破壊…………ではないだろうな。白銀は最終手段を予測できないような馬鹿ではない。1人1年もの間コツコツとヘヴンシステムを造り上げた天才だ。今から白銀が言う言葉は、俺の予想範囲外。さぁ、どんな方法ならこの事態を収束できるんだ?
「何で異常生命体が、あの人形達が別エリアでは無くここに侵攻しているのか分かる?」
白銀からのその質問に、俺も含めほぼ全員が答えられなかった。何故ここに侵入しているか……そもそも考えたことが無かった…………
「そこに道があったから……?」
常盤がそう言うと、白銀は首を振った。
「それもあるけど……ほとんどの割合を占めてる理由は、危険が少ないからなんだよ。何が起きるか分からない世界よりも、物理法則がはっきりしていて異常の無い世界は格好の獲物。支配人ジョキュみたいなエリアを支配する支配者みたいな圧倒的な力が無い弱者は、こうするしか無い。だから道を別エリアに移せば何もできない!」
「そうか、ヘヴンシステムを別エリアに移せれば……!」
単純ながらも思いつかなかった。てっきり、どんな怪物もあの時の支配人のように、呆気無くエリアを移動できると決めつけていた。
「それならどのエリアに移すの?私達が知らないエリアは危険かどうか分からないし、この緊急事態にカラット情報道社の情報は信用に値しないよ?」
常盤が新たな疑問を白銀にぶつけた。俺としても、常盤の疑問の理由には一理ある。
「……逆走……するしか無い…………ワタシ達が進んだエリアを戻ってエリア24果実楽園にヘヴンシステムを移せれば……エリア17の時間のズレを加味しても、天文学的な蝗はワタシ達が見たあの光景を見る限り順調に進んでいたからもう終わっていると思うし、林檎さんに頼めば喜んで協力してくれると思う。何度も頼ったことのお礼として高品質の肥料を渡せば、友好な関係を維持できて万事解決」
あの林檎姫には良くして貰ったから、それ等の見返りとしてご機嫌取りをすれば良いのか。
「肥料か……」
水葉所長が頭を抱えた。俺としてもこんな緊急事態に都合良く肥料があるとは思えない。そもそもここは別の世界を研究、調査する施設であって肥料は――――
「ある、あるぞ!黒果実用に取り寄せた肥料が今この研究室にある!」
…………マジか。
白銀のその方法を軸に話し合い、人形侵入を終わらせる為これから行うこと全てを天国移転作戦と命名され、作戦は深みを得た。
「詳細はこうじゃ。まず新條蓮と常盤凪沙と本郷伊波。お主等は制御室に向かえ。アビスシステムを一時的にでも停止できたのなら、人形の供給は収まり数の絶対量はそこで止まる。そして儂と水葉と白銀とコアはここに残り、防護服の中断をする。その後防護服の中断とアビスシステムの停止。
そして研究所に残る人形を掃討次第、次に特殊部隊は防護服を装着しアビスシステムを抜けヘヴンシステムを回収じゃ。エリア50にヘヴンシステムがある限り人形侵入の危険性が残る。じゃろ?」
「はい。ヘヴンシステムを起動したのなら、再びヘヴンシステムを使用する可能性は十二分にあります」
「そう言うことじゃ。エリア50からエリア17を抜け、エリア24にヘヴンシステムを持って行き、そこで腐れ林檎姫に世話になることへの代価を渡す。これがこの天国移転作戦の大まかな道筋じゃ」




