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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
二章 法則を超越した怪物達
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13話 楽園を望むは人の形 その1

『ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!』


「なんだ?!警報……?」


こんな真夜中に警報が鳴り響いている。こんなことは異界研究所に来てから初めてだ。まさか避難訓練という訳では無いよな?


『緊急事態発生!緊急事態発生!』


訓練の線は消えたな……


『アビスシステムの予定外稼働を確認!繰り返す!アビスシステムの予定外稼働を確認!』


「…………はい?」


『そして更なる緊急事態を確認!アビスシステムより高さ30cmの人形の大群が通過!武器等の所持を確認!敵対存在と断定し、現時点よりアビスシステム研究統括主任荒起小金の責任で全職員の武器の使用を許可!在住職員は実験室からの退避を!警備員は実験室にすぐさま急行せよ!繰り返す!在住職員は――――』


…………


「新條君!今の聞いた?!」


寝巻きのままの常盤が俺の自室のドアを蹴り開けベッドの上にいた俺に急速接近した。


「ああ、聞いた。白銀は?」

「白銀ちゃんは今廊下にいるけど、まだ半起き」


「そうか、なら今すぐ叩き起こして武器と防護服を取りに行くか」

「分かった」


異常界の怪物が人智を超越している奴らばかりで霞んでいるが、一応特殊部隊は戦闘員の役割も担っている。加勢しない手は無い。


「確か、防護服は荒起博士の研究室……」

「武器は特殊なのを除いて武器庫。だよね?」

「そのはずだ」


加勢する前に、一度白銀を俺の自室に引き込み、俺含めた全員に最低限の装備を着させる。もし実験室が突破され、侵入された場合なす術が無い。時間は多少のロスするが、最悪の可能性を考慮して対策しなければ。






最低限の装備を整えたら、すぐに荒起博士の研究室に向かう。この研究所はかなり広い。何が起きても後始末できるように地下に造られているそうだが、荒起博士の研究室まで徒歩15分。アビスシステムの実験室に至っては30分も掛かる。


だからこそ急がなければ不味いことになる可能性がある。


俺の自室から廊下に出て、走りつつ最短ルートを進む。未だに寝ぼけている白銀は常盤に担がれた。


『ドゴーーン!!!』


「な?!」


研究所が揺れるほどの爆発と同時に、俺と常盤と常盤に担がれた白銀との間に天井が瓦礫と成って落下し、こちら側は俺1人。あちら側は常盤と白銀。


完全に分断された。


しかも常盤と白銀はまだ良いが、少し遅れて走っていた俺は荒起博士の研究室の最短ルートを進めなくなった。


最悪の可能性を考えていたが、いくら何でも早過ぎる。この爆発。もう既に実験室は突破されたか…………


「新條君!そっちは大丈夫?!」


あちら側から常盤くぐもった声が聞こえた。


「何とかな!だが俺がそっちに行くのは不可能になった!不本意だがここからは別行動にしよう!」

「分かった!」



◆◇◆◇



「白銀ちゃーん!起きてー!!緊急事態なんだから起きないと危ないよ!この標準睡眠子供!早く起きろー!!」



◆◇◆◇



『異常生命体の流出を防ぐ為に、現時点より極秘異界研究所の全ての出入り口が封鎖されます!全職員は自身の命を最優先に!』


一体でも怪物が流出すればどんな被害が出るか予想がつかない。正しい判断ではあるが、お陰で死ぬ可能性が跳ね上がった。


『ドカン!』

「……」


爆発音。すぐ近く。周囲に人形は無し。職員が襲われている可能は高い。発生源に向かうと、部屋の1つからか細く硝煙が昇っていた。


……あの部屋。確か、あそこは応接室だったな。


先程の爆発から、人形が実験室を突破したのは明白。しかも今のあの爆発。職員が襲われている可能性がある。


死角からの攻撃を警戒しつつ、応接室に入…………?……足に何か、糸?


次に天井から何か降って……玉か?……いやまさか…………ピンを外した手榴弾?!


全力で部屋から退避し、爆破の届かない廊下の直角方向に滑り込む。


爆発が鳴り響き、応接室から硝煙が立ち昇る。硝煙が多少収まると、煙の中から白衣を着た研究員が出て来た。


「殺す気か!」

「当然です、殺す気で作ってますから」


その顔………….手元の漫画。確か……


「漫画狂いの新人研究員!」

「本郷伊波です。否定はしませんが辞めて頂きたい。私は漫画が好きのであって狂ってはいません」






一度息を整え、足元に張られた糸を避けて応接室に入る。


応接室側の扉の上には、足元の糸をトリガーとしてピンが抜かれた手榴弾が落下するように作られた殺意の高い罠があった。下手すると死人が出そうだ。それと、手榴弾の爆発の直撃を受けないように、応接室の中心にはテーブルが横に倒されていた。


「あれって、いつの間に作ったんだ……?」

「警報が鳴ってからです。有り合わせの即興ですが」


警報が鳴ってからは10分も経っていない。即興で作れるのならかなりの製作能力だ。


「さっきの爆発は試験運転か?」

「正常に動くかどうかの確認をしました」


俺の質問に丁寧語で返答しつつ、本郷伊波が横に倒されたテーブルに隠れ、流れるように手元の漫画を読み始めた。テーブルの裏を見ると大量の漫画の山がそこにあった。


好きが限界突破すると狂っていると言っても過言では無いのだが…………あっ!


「伏せろ!」

本郷伊波に対し大声でやるべきことを伝える。俺の声に本郷伊波は頭を伏せた。本郷伊波の頭があった地点のテーブルには、ナイフのような刃物が深々と突き刺さっていた。


危なかった…………


「人形?!一体どこから……」

本郷伊波が自らが作った罠を確認し、目の前の人形に視線を移す。


いつの間にかこの応接室に、青色のテディベア2体、豹のような四足歩行が1体の計3体の人形がいた。


この応接室にはこの扉以外の入り口なんて…………ある……通気口がある。応接室の通気口を確認すると、いつの間にか通気口のカバーが外されていた。


やはり、実験室は突破されていたか。まて、人形……?…………ドール!こいつ等はエリア50 ドール・ザ・ファクトリーの人形か!


エリア名とエリアの様相があまりに違かったから疑っていたが、こいつ等がエリア50で造られたドール……何処が安全だ!カラット情報道社の誤情報に乗せられた!ヘヴンシステムを使える知能を持つ怪物の何処が安全だ!……カラット情報道社の名はコアからしか聞いたことが無いが、今までの実績と言動から、コアが故意に誤情報を流すとは思えない。そして今はそんな場合では無い。


それにしても殺意満々な人形だな……


「漫画の定番の展開だったら、ここで足止めして逃げる!」


急に立ち上がった本郷伊波がそう言って足首の高さに張られた糸を切り、漫画をその手に1冊だけ持ち、そのまま応接室から全力で逃げ出した。


俺は巻き込まれたく無いので全力で本郷伊波を追いかける。


扉の上からは10個以上の手榴弾が落下していた。当然ピンは抜かれていた。背後からは数重もの爆発音が鳴り響き背中を押した。






「何でこんなに広いんですかこの研究所!」

「知るか!」


廊下を俺と一緒に並走している本郷伊波がこの研究所の広さに文句を漏らした。確かに文句を言いたいほど広いが。


背後からは先程の人形とはまた別の人形達が追いかけて来ている。当然のように武器を所持しており殺意満々で何度も武器を投げ付けた。


「でも、どんな危機的状況でも頑張れば何とかなります!努力は絶対に裏切りません!」

「いやそんなスポ根みたいなことを言われても……」


「もしかして漫画イケる口ですか?!」


並走していた本郷伊波が超急接近し頬が密着しながらそう聞いて来た。だから狂ってるって…………


「…………それくらい誰でも知ってるだろ!多少読むがお前みたいに狂ってはないし……高校生時代に連載していたくらいの関わりしか……」


急に本郷伊波の目がキラリと光った。


「漫画描けるんですか?!しかも連載を?!どこの連載誌で?どんな漫画を描いていたんですか?!今から漫画家の新條蓮様とお呼びしても?!」


「や、止めろ!黒歴史を掘り返すな!その後すぐに打ち切りになったんだよ!俺の心が折れたから!」



◆◇◆◇



「恐れていたことが起きてしまったか」

この緊急事態に、荒起博士はただ冷静にそう呟いた。


その時、荒起博士の研究室の扉から一体の人形が現れ、荒起博士を視認すると間髪入れずに直進し、目の前の人間を殺す為に武器を構え荒起博士を襲った。


だが、その人形は突然力を失いその場でぼろぼろと体が崩れ、僅かな粉塵となり消滅した。


「この程度なら問題は無い……だが、数の底が見えんな…………」



◆◇◆◇

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