11話 ヴェルデント製製品実戦性能テスト その2
「撤退!」
この言葉で常盤と白銀に今やるべきことを伝え、同時に背後を振り返り全力で走る。幸い俺の意図は伝わり、常盤と白銀は先程まで歩いた通路を俺と一緒に走っていた。
◆◇◆◇
「逃げる、か。今までの行動から1番正しい行動を選択したと言った所……この際丁度いい。いや、丁度が良い。ここ最近、ヴェルデント商会から強引に渡されたヴェルデント製の商品サンプル。この場で試させて頂こう……正直やりたくは無いが……後でとやかく言われると面倒だしな…………はぁ、まずは何から試すか……」
◆◇◆◇
何かやばそうな組織のボス格のようなの怪物に俺達が敵うとは到底思えない。仮に支配人と同程度の強さだとしても、決定打となった小型電磁砲銃は壊れ使えばこちらがダメージを負ってしまう。
しかし、この場に引き出して正解だった。ああ言う手合いは、ただ観察するだけでは終わらない。いつかどこかで手が出る。虫を観察する純粋無垢な子供のように、いつか虫を突き潰す。
「……なっ?!」
……一度見たとは言え、流石にこれは予想外以外の言葉が見当たらない。
あの時と同じように、レンガの通路が第二評議長がいる方向から漆黒に染まって行き、そのまま目が見開き俺達を全方向から覗かれていた。
「……っ!!」
漆黒に染まった床から、水から浮き上がったかのように、当然のように漆黒から第二評議長が出現した。
常盤が銃弾を第二評議長の頭に放ったが、その銃弾は第二評議長の顔にある真っ黒な黒い仮面のような物体に沈み、何も起こらず消失した。
第二評議長がその黒仮面に手を入れ、そのまま手が黒仮面の中へと沈んでいった。そしてその中から小さなサイコロ?を取り出し、その場で軽く投げた。
とにかく逆走した通路を再び振り返り全力で走る。
こんな時にサイコロを振る。それには絶対に何か意味がある。支配人が持っていた手帳は偽の運命を決定付け、白銀が持っている腕時計は生物以外の時間の速度が思いのままに操作できる。全てとは言わないが、異常界の物とは特異な力を持っている。危険視しない理由が無い。
「あれってサイコロ?!絶対に普通じゃ無いよね?!」
常盤が今までの経験から俺と同じ感想を漏らした。
「検索中…………検索中…………該当……無し」
「あれが何か分からないの?!」
コアの検索が使えないということは想定内だが、この緊急(4)……?!何だ?急に……いきなり思考に4が介入して来た?!
「4…………?…………つっ?!」
思考に4が介入した瞬間に右腕に激痛が噴き出した。
何が…………いや、状況を思い出せ……今、上からレンガの破片と思われる小さな粒が落下し、俺の腕に触れ、そのまま落下し防護服を貫通して俺の腕を貫いた。本当にどうなっているんだ……?
何故ただの破片が……まさかこのレンガに驚異的な殺傷能力でもあるのか?さっきの4が原因……?いや今はまず貫かれた腕の治療を優先しなければ。
「常盤!黒を!」
常盤に抽出黒錠剤を一粒貰い、舌に触れぬように一気に飲み込む。すぐには回復しないだろうが、多少マシになるはずだ。
「第二評議長が発した音声の中にヴェルデントという単語があった為、検索対象の組織をカラット情報道社からヴェルデント商会の商品一覧に変更……ヒット……えー、原文をそのまま読ませて頂きます」
コアはどうしたものか、とでも言うような声色を発し、1秒の時間を置くとコアから発せられたとは思えない明るい声がこのレンガの通路に反響し始めた。
「嫌いな相手を倒したい、でも勝てる自信が無い、だけどある程度の刺激が欲しい。そう思ったことはありませんか?そんな時はこれ!ヴェルデント商会商品開発支部が生み出した傑作、神のサイコロ!使用には相手を視認したままこれを振るだけ!1から6。数が多いほど相手に不幸が降りかかり、逆に数が少ないほど使用者自身に不幸が降りかかります!リスクを抱えたデンジャラスな体験をどうぞご堪能下さい!お買い求めはヴェルデント商会支部か、本部店に足をお運び下さいませ!」
…………商品の通販番組か何かか?いや、商会ならそう言うのがあっても不自然では無いか。
「その他の情報は、神のサイコロを振った時、振った人物と対象1人の頭の中で数字が現れる。だそうです」
成程。だからさっき思考の中に4が介入したのか。1/2の確率で俺が第二評議長に今のような不幸が降りかかる。まて、数字が大きいほど?4で防護服を貫通した。なら6だとどうなるんだ?最悪死ぬ可能性が大か…………?
「一応動画もありますが、見ますか?」
「時間の無駄」
コアのその発言を白銀が即座に切り捨てた。まぁ、今の通販トークを聞く限り、碌でも無いのは(5)……またか!
「今、5が思考に介入した!」
「え?!ど、どうすれば……」
さっきの異常現状を見ていた常盤が走りつつも慌てふためく。
「さっきが4。だから防護服を貫通して腕に傷を負う以上のことが…………っ?!」
息が吸えない?!少し目眩が……頭が痛い……まて、冷静になれ…………今何が起きた?
呼吸困難。目眩。頭痛。今は走って逃げているだけだった。直接影響を?いや、さっきはレンガの破片が防護服を貫いた。何らかの事象が要因として不幸となって降りかかるのなら、何が原因に…………見えなかった…………不可視?呼吸困難……
原因は……この症状は…………酸素か!空気中にある窒素は肺を広げる役割をもっている。だが酸素のみだと肺が膨らまなくなり呼吸困難に陥る。空気中、どんな確率かは知らないが、5が出た後、たまたま俺が吸った全ての空気が酸素しか無かったと考えるしか無い。
今の現状が原因で足がおぼつかなくなり、そのことを見た常盤が俺を担ぎそのまま走りを継続した。
「新條様を取り巻く酸素濃度低下。少し時間が経てば問題無く動けると思います」
朗報だな……
「コア!それどういうこと?!」
「ワタシにも説明を頼む!」
今俺に起きていることの詳細を知らない常盤と白銀がコアに説明を求め、コアはそれに応じた。
「新條様の思考に神のサイコロの5が介入した瞬間から、新條様の呼吸器官の周囲に――――」
呼吸困難でも、何とか思考はできる。
先程貫かれた腕はまだ痛む。血は止まり始めているが……それでも完全放置よりはマシだ。
ハズレの黒果実は短期的な回復に適していない。勿論使うに越したことは無いが、使うとすぐには効果が出ず、戦闘中などで今すぐに傷を塞いだり治すことが急務になっても、全く時間が足りない。常盤以外は。
走っている内に、さっきの大量の分岐まで戻って来た。
俺は何とか呼吸困難が回復し、途中から俺自身の足でここまで戻った。血は止まった。
未だここ一帯は漆黒に染まったまま。つまりは第二評議長の土俵の上。神のサイコロは相手を視認しなければ発動しない。だが漆黒から見開く目が第二評議長の物ならば、この漆黒にいる限り何処に行こうと神のサイコロが発動する。ならばどうするか、漆黒の範囲外に逃げる!ただこの一点!
「コア!どの分岐に進めば良いか分かるか?!」
「水路に突入して下さい!」
俺は防護服に空いた穴を押さえ、その指針に向けて反射的に流れ行く水に入り、水流に流されるまま水路の穴に吸い込まれ(1)




