11話 ヴェルデント製製品実戦性能テスト その1
エリア24果実楽園にあるレンガの穴に入り、そこから別のエリアに進む。
明るかった他エリアとは対象的に、エリア12暗雪原のように真っ暗だった。仕方無く、懐中電灯を手に取り周囲を照らす。
懐中電灯で照らすと、エリア24で見たようなレンガが床、壁、天井を構築していた。後ろを振り返ると、エリア24に繋がる穴は光が全く無い闇と成っていた。
足元や壁を軽く叩くと、僅かながら空洞音が鳴り響く。そして遠くからトボトボと、少量の水が流れる音が聞こえた。
今の所襲われる気配は無い。警戒しつつ立ち止まり、荒起博士に現状を報告する。
「報告。緊急事態の為、エリア24から別のエリアに――――」
◆◇◆◇
『――――――――――――』
「何が起きておる……?」
◆◇◆◇
『―!』
「……?!今……早口?いや、言葉が圧縮して聞こえた……よな?」
何が起きているのか分からず、後方を警戒する常盤と白銀に理解を求める。
「あいうえおを何重同時に聴かされたみたいだったね」
常盤は今の圧縮された言葉に不快感を示し、白銀はただ首を捻った。
「なぁ白銀。そもそもここはどんなエリア何だ?」
「はっきり言うと、現世帰還隊のエリア一覧が書かれたノートを見て存在を知っただけだから、詳しくは分からない。エリア名以外は」
この事態に関する白銀からの情報はお手上げか…………コアに検索して貰うしか無いな。
「なら、このエリアの名は何だ?」
俺がそう聞くと白銀は一呼吸挟み、口を開く。
「ここは、エリア17異常地下水道」
そのまま俺達はその場に立ち止まり、コアの検索が終わるのを待っていた。
「検索中…………検索中…………ヒット。原因が判明しました。ここ、エリア17異常地下水道では、時間の流れが別エリア及び極秘異界研究所と大きく乖離しています」
それが次元間通信機器からの声が圧縮された原因か…………面倒なエリアに来てしまったな。
「エリア17異常地下水道では時間の流れが極度に遅く、計算した結果このエリアで1秒が別エリアでは1分ほどになります。次元間通信機器の向こう側である荒起様の方では、低速化した言葉を聞き取れず、待ちぼうけを喰らっている状況かと思われます。ですが、複雑ですので詳細は省きますが、このエリアは時空が歪んでいる為、ここでの1秒が極秘異界研究所での1秒です」
…………ええっと、つまりこのエリアと別エリアとは時間の流れに乖離があり、それが次元間通信機器に影響した。だが時空が歪んでこのエリアと地球での1秒が同じになっている。つまり俺達はこのエリアで無意味なタイムトラベルをしている状態。
頭の中で整理してみたが分かり辛いし、いまいちよく分からないな…………
今の話を聞いていた2人に視線を移すと、常盤は完全に分かっておらず、白銀は額に皺を寄せ、ん?と唸っていた。
「ですので、発声言語による意思疎通方法は使い物にならない為、ボクがこの状況を書類データとして荒起様に送ります」
「ああ、頼む」
理解は一度放置して、次のエリアに向かうのが急務になった。このままではまともな情報伝達ができない。
「…………取り敢えず、進んでまた別のエリアに向かうか」
「さんせい!早く行こ!」
「分かった……」
俺の提案に、常盤と白銀が立て続けに賛成した。
改めて、再び暗い中を進み始める。遠くから水が流れる音が響く中、白銀が口を開いた。
「今の内に言うけど、ワタシはエリア17異常地下水道から行けるエリアはエリア24以外知らない。だからここからはコア頼みになる」
白銀は浮遊し常盤に追従するコアに視線を移しそう言った。
そのまま進んで行くと、右と左、2つの分岐道があった。俺は少しばかり考え、水が流れる音の聞こえる方向。左に足を運ぶ。
「…………なんで水が上に流れているんだ?」
先程から聞こえていた水が流れる音。その発生源に到達したが、流れるその水が床では無く天井に向かって小さな滝のように流れていた。
「上と下。両方に重力場が発生していますね」
今まで突飛過ぎる現象を見て来たせいか、こういう小さな現象は逆に見慣れていない。そのせいか少し驚いてしまった。
「……」
この水を一旦無視し、目の前の暗闇に足を進める。
「ん?」
「どうした?」
常盤が頭を傾げ、落ち着かない様子で周囲をぐるりと見渡した。
「いや、今なんか、誰かに見られてる気がして」
「……警戒態勢」
「了解」
「りょーかい」
流石に何かいるは確定だな。問題は、それは敵か味方か。或いは敵意も害意も無い異常な現象か。
◆◇◆◇
「…………人間に感知不可な程度で目を開いていたが、勘が良いな。いや、内部に残留する異常から推定して人間からは少々――――」
機械的な空間の中心。そこには、新條達に小鳥遊椿と名乗った第二評議長の姿があった。
レンガで構築された暗闇の中、小さな赤黒い目が静かに3人の人間を覗いていた。
◆◇◆◇
「どこに進めば良いんだ……?これ……」
「右1つ左1つ上4つ水路1つ床2つ……急に多くない?」
急に増えた分岐に、何処に進めば良いのか分からず足が止まってしまった。
「検索中…………検索中……ヒット。先程ご主人様が申された視線の原因が判明しました」
この場で停滞している間に検索中と呟いていたコアがそう言った。さて、視線の答えは何だ?それによっては俺達がすべき行動が大きく変わる。
「率直に申し上げますと、このエリアには視線等の原因となる異常生命体やその他異常は存在しません。
つまり、視線の発生源は別のエリアからこのエリアに侵入した何者かがご主人様達を覗いているか、または別エリアから何かを通してこのエリアを覗いていると思われます」
…………予想外な答えが来たな……つまり、分からない誰かが俺達を見ている、と。現状何もされていないし、ただ視線を送っているだけなら脅威は皆無。だがそうなると視線の主の狙いは何だ?
「…………あっ」
常盤が懐中電灯を徐に背後の天井に向けた。その方向に視線を向けると、漆黒があった。レンガばかりだったこのエリアに、暗闇以外の黒がそこにあり、漆黒は光に照らされると数瞬の内に萎んで消えた。一度瞬きを挟んでそこを見ると、今まで通りのレンガに戻っていた。
不気味だ。攻撃を仕掛けたいのならこの暗闇から仕掛ければ良い。隙はいくらでもあったはずだ。友好的な存在?いや、それなら友好的なことを示す為に姿を現したほうが得策だ。こんなことをしても疑念が深まるだけ…………いっそのこと、この場に引き出すか?このままでは何が起きるか分からない。予想外の事態はできるだけ避けなければ…………予想がつく方向に向けさせた方が良いかもしれないな。
今からやることは蜘蛛糸での綱渡り。俺は手の動きで2人と一台に今からすることを伝える。常盤は了解とでも言うかのように頷き、白銀は常盤が銃を構えたことで何をするかを察し常盤同様に頷いた。
「すぅー、誰だ!どこにいる?!いつまでも覗かないで出てきたらどうだ!」
言葉が通じれば、視線の主がその気になれば、このエリアに現れるだろう。現れなくとも、コア曰くこのエリアには怪物がそうないようだし、僅かな危険を孕みつつも今までのエリアと比べれば安全と言える。
さぁ、どう出る…………?
◆◇◆◇
「ほう?ならばお望み通り――――」
◆◇◆◇
「――――出てきてやろうでは無いか」
?!
「ひ、人?!」
俺達の目の前に現れたのは、大きな白衣を着た人型の怪物。白衣の下にはフード付きの服を着用し、フードを被り顔以外は隠れていた。そして顔には顔と呼べる物が無く、先程レンガにあった漆黒が仮面のように貼り付いていた。下の部分には少しぶかっとしたズボン。足には冬場に使うようなブーツ。手は5本の指があるが、全て機械で装甲は無く精密機械が剝き出しとなっていた。当然これだけの服装のお陰で肌は全く見えない。そして身長は白銀と同程度。
今までの人型の怪物と違い、顔の漆黒を除けば完全に人間のようだった。
そして、今の声には聞き覚えがある。
「この姿で会うのは初めてだったな。個体名、新條蓮。個体名、常盤凪沙。個体名、荒起白銀。そしてデルメントルト製異工知能、コア。改めまして、私は異常評議会第二評議長、小鳥遊椿だ」




