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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
二章 法則を超越した怪物達

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10話 暗転迫る楽園 その1

「ここが……エリア24果実楽園か…………」

確か白銀はここで食糧である黒果実を採集していたんだったな。


だがまぁ、それはともかく今のことを考えよう。まず支配人から逃げ切ったのは良いが、次の問題は目の前で佇む怪物。


その姿は枯れ葉や細い枝などで構成された人型の怪物。細い枝で腕や手や指の形をしており、枯れ葉は衣服のように怪物の体に纏い、人間の衣服で例えるなら中世時代の欧州のドレスを着ていた。


そして身長は大体2m前後。最後に、一番目立つ頭部分。その怪物の頭は大きな林檎だった。林檎の頭には腐ったような真っ黒い穴が二つあり、その怪物の目のように感じられる。白銀が林檎さんと呼んでいたのはこれ等が由来だろう。


「…………検索中…………検索中…………ヒット。名称、腐れ林檎姫。徹底して人間に友好的であり味方……だそうです」


「えっと、それだけ?」

「それだけの情報しかありませんでした…………」


人間の味方であることは分かった。だが、余りに情報が薄くないか?


その一文に重要な情報が詰まっているが、情報が少な過ぎてあの腐れ林檎姫とやらに対しどのような行動が最適なのかがいかんせんよく分からない。


白銀はあの腐れ林檎姫を全く警戒していない。しかも会話をしている。腐れ林檎姫はただ頷くだけではあるが…………


「はぁ、あの林檎姫が俺達味方というだけでかなりの収穫だ。危機は去った、まずは荒起博士に報告をしよう」


俺は常時通信が繋がっている次元間通信機器から、荒起博士に報告する。


「報告。支配人ジョキュから逃げ切り、安全な別エリアへの避難を完了。

特殊部隊員は全員生存及び全員同エリアに避難。部隊員に異常界調査続行不可能な怪我、損耗は無し……あ…………」


緊張が切れて力が抜けてしまった。


「疲労で報告困難になった新條蓮に代わり、荒起白銀が報告を受け継ぎます」


力が抜けてその場にへたり込んだ俺に代わり、白銀が制御室の荒起博士への報告を繋ぐ。


逃走続きで放置していたエリア65で支配人に付けられた頬と耳の傷。それを常盤が防護服から取り出した塗り薬で傷に塗り治療を始めた。


「武器の被害、損耗は硬煙弾の大幅な消費と小型ミニ電磁砲銃レールガンのみ。硬煙弾はまだ予備がある為損耗は軽微。ですが小型ミニ電磁砲銃レールガンは反動抑制機構の損耗により、事実上、小型ミニ電磁砲銃レールガンの使用は不可。武器の被害、損耗は以上。

そして支配人ジョキュからの逃走により、特殊部隊全員の体力消費が激しく、安全なエリアでの休憩の後、調査を再開……………………じいじ?」


『ん?!んん!…………な、なんじゃ?』

荒起博士の声と共に、僅かだが咀嚼音が混じった。


「じいじ……こんな時に食べると緊張で吐くよ」

白銀は何処か現実味が混じる声でそう言った。孫が孫なら祖父も祖父ということか。


『そんな声を出すな!今は13時30分じゃ!お主等の逃走劇が想定以上の時間を使ったからこんなに遅くなっておる!儂は他の研究員のように交代はできん!緊急事態でお主等が知らない情報を儂に聞く時困るじゃろ?!

この調査と実験の最高責任者がいなければ、思わぬ事態が引き起こる。故にわざわざこんな絶対に汚せず傷を付けたら大変なことになる精密機械だらけの場所で、汚れやゴミの出ない専用の味気の無い飯を食う羽目になっとるんじゃ!』


荒起博士の魂の叫びとも取れるその声に、この場の全員に沈黙が流れた。






一旦現状の報告を終え、俺と常盤はその場で寝転がる。


そのまま疲れを癒していると、白銀が俺と常盤を叩き起こした。銃撃で……


今回は防護服のお陰で事なき得たが、前々から白銀は人間の耐久力を見誤っている気がする。防護服があるとは言え、普通は躊躇無く銃弾を撃ち込もうとは思わない。


取り敢えず何故銃弾を撃ち込んだのかと聞くと、白銀によれば俺と常盤は寝る寸前だったらしい。これは本当に危なかった。この異常界で寝るのは少々どころで済まないほど危険だ。


欠伸を堪えつつ俺と常盤を起き上がると、白銀は腐れ林檎姫に向かって指を差す。


その方向を見ると、腐れ林檎姫がついて来て、と身振り手振りで俺達に伝えた。


俺はどうすれば良いのか分からずにいると、白銀が何の躊躇いも無く、目の前の怪物に付いて行った。


「あの様子からして相当信用しているな。あの林檎姫を」

「そうみたいだねー……新條君、もしあれに正面から戦ったらどうなるかな?」


常盤のその疑問に、先程の支配人を軽く圧倒した姿が脳裏を過ぎる。


「多分、いや絶対に負けるな……そもそもこんな場所で戦えば、地の利を知らない俺達が負けるのは確実だ。刺激はしない方が得策だろうな」

「りょーかい」


常盤との会話を終え、先を進む腐れ林檎姫の後を追う。






落下しないように細心の注意を払いつつ木々の枝を進み、時折り別の枝に飛び降り、時折り枝の根本である木をよじ登り、果てし無き道を進んで行くと、突然枝の根本である木の幹の前で、腐れ林檎姫が立ち止まった。


どうしたものかと腐れ林檎姫の横から前方を覗こうとした途端、腐れ林檎姫が少し横にずれて前方を俺達に見せつけた。


そこには扉があった。


素材は木で作られているが、かなり豪華で細かな装飾が飾られた扉。


その扉に見入られていると、腐れ林檎姫が扉を開いた。扉の先には大きめの部屋があった。


玄関は無くそのまま木で作られた丸テーブルと背もたれの無い丸椅子。漆塗りのような物で綺麗に鮮やかな色をしている。


俺と常盤は罠の可能性を少しばかり疑っていると、白銀がそんな俺達を尻目に部屋に入って行った。


俺と常盤は腐れ林檎姫に勧められ、警戒を解かずゆっくりと進んで行く。


いつの間にか白銀は椅子に腰を掛けていた。部屋を見渡すと、様々な木材製の道具や皿、そして虹色の小さな木が植えられた植木鉢がいくもあり、生活感のある空間が広がっていた。


背後から音が鳴り反射的に振り返ると、腐れ林檎姫は何処かへと消え扉は閉じられていた。


……銃を強く握り前方に目を移す。何処かに消えていた腐れ林檎姫が、大きな皿に様々な一色の色を持った果実を乗せ、丸テーブルの上に置いた。


当然その中には黒果実もあった。そして白銀は疑う様子も無く、味覚消失麻酔液を口に含み黒果実を頬張っていた。


腐れ林檎姫は丸椅子に座り、ただ見守るだけで何もしなかった。


腐れ林檎姫は人間に対し徹底して友好的…………敵意、害意無し。間接的な攻撃は現状無し。


「……」

流石にもう警戒を解き、丸椅子に腰を掛ける。常盤も俺が座ったのを見て別の丸椅子に座った。


俺は赤色の果実を手に取り、一口齧ってみる。


「……意外と美味いな。桃のように柔らかく、甘過ぎない程度にさっぱりとしていて、甘さの中にある薄い酸味がよりこの果実の美味しさを引き立てている。これを料理に転用すればさらに――――」


「あ、それ毒入り――――」


「ぶが……ばぁ!ゲホ、ゲホゲホ……ガハッ……!ゼェゼェ………………早く言え!!」


何とか全部吐けたが、手に取る前に言って欲しかったな…………


「大丈夫大丈夫。毒と言っても、頑張れば無視できる程度の軽めの腹痛を引き起こすだけだから…………一月くらい……」

「症状が軽くても時間が軽く無いだろ!」


「あ、美味し」

常盤が赤色の果実を食べて……ああ、そうか。腹痛は痛みだったな。その様子からして、赤色の果実の毒が効いている気配は無いな。


赤色は辞めて、今度は黄緑色の果実を手に取る。


「それも毒入り。確か効果は全身が金縛りのように硬直して、効果時間は20時間だったかな」

「だから早く言え!」


「なんか……嫌ではあるんだけど、毒の効果が凄くしょぼい……時間さえ無視すれば黒果実の方が嫌だなー」

赤果実を齧りながら毒の効果を聞いていた常盤が、赤果実のみを手に取り正直な感想を溢した。


本当に、しょぼくて助かった。だが腐れ林檎姫はこれ等の毒を知ってだしているのか?


「あ、そうそう。林檎さんは全くの善意で出してるから気にしないで」


「良い迷惑だな……」


「あと青果実は食べないで、麻痺毒を持ってて最悪心臓麻痺になって死ぬ」


「先に言え!」

黒に赤に黄緑に青、その他色々な果実も恐らく毒入り……まともな食い物は無いのかこのエリアは!

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