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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
二章 法則を超越した怪物達
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9話 ホテルの支配者 その8

◆◇◆◇



薄暗い小さなバーで、ヤギの頭を持つ支配人ジョキュが、目の前のテーブルに頭を置き項垂れていた。


「はぁ……」


『あーもう!代金を徴収できずスタッフ達に給料を渡すことができないばかりか、人間に出し抜かれ、挙句そのまま逃げられ、この前も現世帰還隊とかいう輩によってエリア2に入れず。ワタクシはダメダメ支配人です……』


何処からともなく支配人の声がした。


「……止めて下さい。はぁ、……マスター!もう一本!」


氷が入った空のコップを前に突き出した。


様々な液体が入った瓶の棚を拭いていたバーの店主がそのコップを受け取り、棚にある瓶の1つを取り出しコップに真紅の液体を注いだ。


そしてそのコップを支配人ジョキュのすぐ横に置いた。


「ありがとうございます……」


『給料について、こんなに悩んでいるのは、ジョキュ様だけ』

支配人ジョキュの目の前でコップを拭いているマスターと思われる声が、何処からとも無くバーに響いた。


『ホテル支配しても人間の行動は支配できない。だから挑発を真正面から受けて逃げられるし封印された』


立て続けにマスターと思われる声は続き、支配人ジョキュの精神にトドメの一撃を刺した。


「マスター……貴方の思ったこと全て声に変換される異常……何とかなりませんか…………?お陰でワタクシの心の声がダダ漏れなのですが…………」


マスターは近くのグラスを2つ持ち、それを交差させバッテンを作った。


それを見た支配人はもう一度項垂れ、コップに入っている液体を一気に飲み干しコップを軽く叩きつけた。


「仕方ないでしょう。全スタッフへの給料、現世帰還隊と緋色信仰に荒らされたことによるホテルの修繕費及び材料費。様々な設備の点検費にそれ等に対する費用。さらにホテル全体を四六時中照らす電気代含めた膨大な光熱費。足りないんですよ。

取引先の組織との取引による物々交換で、取引先が欲するのは人肉。生産性の悪い物をそれはそれは大量に……」


『あいつらは変わってる。異常生命体でも人間はそうそう食べないのに、あいつらは人間なのに人肉主義を掲げてるから』


「そうですよねぇ…………人肉主義……カニバリカルトからの物々交換で得た物は全て高品質で有用性が大きい。だからこそ彼等との契約を切る訳にはいきませんし、かと言って物々交換可能なほどの人肉は全く無いですし」


はぁ、と溜息を吐き、支配人は飲み干した空っぽのコップの縁をなぞる。


その時、バーの入り口である扉からカラン、と音が鳴った。

「誰……あ、貴方は!」


その音に振り返ると、ヤギの顔に驚きが浮かび上がった。


「お久しぶりです。いやはや、気まぐれで入ったバーにエリア2、3の支配人がいるとは」

「商人さん……」


支配人に商人と呼ばれたそれは扉を閉め、そのまま進み支配人が座る椅子の隣に座った。


「ワインをお一つ」


商人はバーのマスターにワインを注文すると、隣の支配人が申し訳なさそうに承認に向かって振り向いた。


「すいません。先日購入させて頂いた廉価版紅閃の宝玉と偽運命手帳を、ワタクシの不注意と過失で使用困難なほどに破損してしまいました……」


申し訳なさを煮詰めたようなその声に、商人が明るい声で返答する。


「大丈夫ですよ。購入した物品の使い方は購入した者が決めるのです。どう使っても、私の知ったことではありませんし……」


商人が支配人を少し見つめ、バーのマスターに視線を移した。


「何か思い詰めた様子ですが、どうしましたか?」

「……実は――――」






「ふむ、成程成程……事情はおおよそ理解しました。ならば私の商会と提携を組みしましょう」


「…………!」

支配人にとって、商人から予想外の言葉が飛び出した。


「支配人の指揮能力とエリア2、3の空間改変能力。それを私の商売に利用させて頂きたいのです。当然ホテルの修繕費等はこちらから出しましょう」


「…………なんと……!商人さんからそのような話が出されるとは……」

歓喜を押し殺しつつ、支配人は頭の中で従業員の給料とボーナスと衣食住保証についての考えが渦巻く。


『ビービービービービービー!!』

その時、バーにけたましい電子音が鳴り響いた。


「おっと、部下からの通信ですか。はい、何でしょう?」


そう言うと商人は小さなルービックキューブ状の機械を取り出し、一度触れると電子音が収まりこの場の誰でも無い者の声がこの場に響く。


「商会長!また無断出張ですか?!いい加減にして下さい!この後重要な商談が控えていると言うのに!」


音量をミスしたレベルの大声がバー全体を揺らし、マスターがその全力を持って、落ちかけたビン類を元の位置に戻す。


「いつもだから良いじゃないですか」


悪気が全く感じられないその言葉に、商人の通信相手がさらに声の音量を上げる。


「いつもは良いんです!!私の采配で何とかなりますし。しかし!今回ばかりは来て下さい!私の感がこの先厄介なことになることを告げているんです!だから一度商会本部に来て下さい、今すぐに!!!」


そう言うと、通信をかけて来た相手はプツンッと通信を切った。床にはビン類を落下から全て守り切ったマスターが、疲れで寝転がり安堵していた。


商人は少し考える仕草をすると、座っていた椅子から立ち上がった。


「部下から呼び出されたので、詳しい話はまた後日伺います。それでは」


そう言うと、ルービックキューブ状の機械が計27の小さなキューブとなり、商人の体を包み込みその場から何処かへと消え去った。


ワインの代金としてなのか、美しい装飾が施された透明なグラスをその場に残して。

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