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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
二章 法則を超越した怪物達
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9話 ホテルの支配者 その5

バクテリアスと鮫V。危険ではあったはずの広いプールと白タイルの空間を抜け、エリア3の廊下に出る。


エリア3の廊下はエリア2のようなアンティークでは無く……………なんて形容すれば良いんだ?見た目は、現代的で綺麗なカーペットが引かれた廊下……というか道。


上下の概念は曖昧。足の置いた場所が床になり、壁に足を置けば重力が変わりその壁が床になる。窓などの外側を確認できる物は無く、内側の道が上下左右に別れ縦横無尽に続いている。


「はぁぁ…………頭がバグる。天井が壁で壁が床で壁が壁で床が天井で…………」

「分かるけど一旦落ち着いて。そんな頭を抱えてもどうにもならないし…………ん?白銀ちゃん。何か遠くから音がしない?」


常盤のその言葉に一度耳をすましてみると、突然遠くからダダダダダダッという連打音が聞こえた。


「確か、あれかー…………はぁ、全員部屋に退避!」

疲れ気味に白銀が部屋への退避を指示し、俺達は足元にある扉を開きその部屋へと退避する。


退避した部屋は現代的な南国リゾートホテルだったが、そのようなホテルにあるベランダやバルコニーは無く、外を確認できる窓は無く明かりは天井の電灯のみ。そして咲き乱れる桜と河津の写真がそのままカーテンになったかのような。一際目を引くカーテンがあった。


遠くから聞こえた連打音は段々と近付き、音がある程度の大きさになった途端、ダダダダダダッという連打音が一瞬で扉の向こうを過ぎ去った。


紫電しでんうつろかげ。今みたいな音を立ててエリア3の廊下を雷速で巡回する怪物。要はエリア3の百手。その名の通り雷だから、すぐ側を通過されると雷が何十回も直撃して感電死する」


雷ならこの防護服でも普通に耐えれそう…………いや待て。

「……雷速なら音よりも速く俺達に近付き辻斬りすると思うが、充分な時間で部屋に退避できた…………何故だ?」


俺の疑問に、白銀は記憶を掘り起こし思い出すように考え込んでから説明を始めた。


「紫電虚陰は………………廊下を一直線に進まずに、廊下の壁から壁に突撃して一瞬そこで停止し、また壁から壁に突撃する。このサイクルを繰り返しているから、実際の到達までの速度はかなり遅い。と言っても、壁への着地音が繋がるくらい速いけど」


下手をしたら百手よりも対処が楽だな。






この場の全員、主に白銀の体力が限界に近い為、一度この部屋で休憩することになった。


俺はその場に座り休憩していると、常盤が目を引くあのカーテンに近付いた。

「どうした?」


「いやー、何か不思議なカーテンだなーって」

「そうだな……そもそもこれは絵なのか大きな写真そのものなのか。まぁ、こんなことを考えても正解にはたどり着けないだろうな」

「うーん。コアはどう思う?」


常盤がコアに聞くと、コアが検索中と呟いていた。

「…………検索中…………検索中…………ヒット。春色カーテンの向こう側………………?!それは危険です!即座に破壊して下さい!!」


「え…………?」

「安全地帯は無いのか!?」


目の前のカーテンから巨腕がぬるりと現れ、常盤の体を掴んだ。


俺は即座に銃で巨腕を攻撃するが、巨腕は怯むこと無くカーテンの中に沈み始める。


「うーむ。思ったよりも優しく掴むんだ……」

「何とかできそうならすぐにそこから脱出してくれ!」


心の底からの叫びに、常盤はめんどくさりつつも簡単にその巨碗から脱出して見せた。代わりに常盤を掴んでいたその大きな手は常盤にボキボキと折られ、巨碗は脱兎の如くカーテンの中へと逃げて行った。


取り敢えず、床に寝転がった白銀を起こし、念の為この部屋から廊下に出る。


「春色カーテンの向こう側。あのカーテンは別次元の扉のような役割を持っており、度々カーテンに近付いた生物をカーテンの中の世界に連れて行きます。問題なのが、カーテンの中に連れて行かれた場合、救出の手立てがありません。お手上げです。

カーテンの中の世界は一方通行であり、一度入るとカーテンの中に永久に閉じ込められてしまいます」


本来なら相当厄介な部類に入るな、本来なら。当の本人である常盤に視線を移すと、常盤は抽出黒錠剤を取り出し一粒齧っていた。


「歩けそうか?」

「大丈夫」

白銀はそう言った。


体力回復は充分と判断して、またこの頭がバグる廊下を進む。支配人に追いかけられた反動か、ここが危険地帯という意識が少々薄れ、警戒を緩めてしまい、結果あのカーテンに襲われる羽目になった。流石にここからは充分な警戒をしなければ。


今の所、あの支配人に追いかけてくる気配は――――

?!

「あっ!」

「何……?」


突然俺の頭に何かが被さった。同時に足が滑り倒れてしまったが、一応防護服の膜が起動しているので、目を開き被さっている何かを確認する。


被さっているのは粘着質と適度な弾力を持った淡いピンク色をした半透明の物体。要はスライムの塊が俺の頭に被さっていた。


「ぷはぁ」


この場に俺や常盤や白銀やコアの声と違う、可愛らしい少女の声が響いた。


半透明なスライムを透過して見える常盤と白銀は、口を半開きにし今まで見たことも無いような驚きの顔をしていた。


この状態では絶対に不味い。なので常盤と白銀に合図を送り俺からこのスライムを引き剥がしてもらう。


スライムから俺を引き剥がし、立ち上がってスライムを見た。常盤と白銀があの顔になった原因が分かった。


俺の頭に被さっていたスライムは半分溶けたような人間の少女の姿をしていた。スライムが形を成した顔、頭、腕、上半身。そして長い髪。腰から下は形が崩れ水溜りのように。高さは大人の腰ほど。一言で形容するならスライムの少女だ。あの声も、このスライムから発せられたものだろう。


「えーっと、あ!商品サンプルは?!どこにどこに……あった!損傷は……無し。よかった…………」


スライムは慌てて近くに落ちていたダンボールのような少し大きな箱を手に取り、手を胸の位置に当てて安堵した。


「えっと、貴方は誰?」


常盤が目の前のスライムにそう聞くと、スライムが反射的な速度で敬礼のポーズをした。今の所、あのスライムから敵意や害意は感じられない。


「わ、私はこのたび商会に新しく入社しました、新人のンガルルと申し…………!あれ?人間さん?まって、ここどこ?!」


スライムが敬礼のポーズを解き箱を抱え周囲を見渡した。


「……ここは…………エリア3アブノマル・ホテル」


その様子を見かねた白銀がここのエリアの名を口に出した。


「え?ここって本部店じゃ無い?!何やってるの私!」


スライムは自身の手で頭をポカポカ殴り、手を腹に突っ込んで小さなルービックキューブ状の機械を取り出した。


「よく見たら座標が違う!えーっと、これとこれを直して…………人間さん失礼致しましたぁ!」


スライムは頭を床に付けるほどに下げて全力で謝った。


「あ、これ、解毒薬です。皮膚がピンク色に爛れたら使って下さい」

スライムから粘液まみれの容器を渡された。


ピンク……と言うことは、恐らくスライム自身が持つ毒が、経皮毒や経口毒として俺に吸収されたことを恐れているのだろう。仕草や様子で何となく察せた。防護服と頭の膜のお陰でスライムに直接触れていない。大丈夫だとは思うが、一応念の為貰っておこう。


スライムとのやり取りを終えると、機械が計27個の小さなキューブとなりスライムを包み込み、キューブが横に回転し少量の光を放ちスライムと機械が何処かに消えて行った。


「何だったんだろ……」

「さぁ……」

「商会……商会がつく組織で有名なのは、ヴェルデント商会がある。悪い意味で有名だけど…………」


「あー、自己紹介を聞く限り、あの子は商会の新人みたいだね。て言っても、私達ヴェルデント商会について全然知らないから、どうすることもできないんだけど」

「いやまぁ、その通りではあるが」


スライムは嵐のように過ぎ去っていった。






「私達って何で生きてるんだろう」

「哲学的な話か?」

エリア3の廊下を進んでいると、常盤がそう疑問を零した。004号室は、未だ見つからない。


「いやいやいや、違うよ。そうじゃ無くて、あの支配人の目的って宿泊代金……私達の血肉なんだよね?ならどうして私達は生きてるんだろ」


「……最初は俺達をもて遊ぶ、もしくは何処かに追い込まれてると考えたが、あの怪物集団の危険性と支配人の攻撃の苛烈さからして、今すぐに殺そうとしてるんだよな」


「2回ホテル内の配置が変わった時に、ワタシたちを閉じ込めようとして失敗してるように思う。あの時の支配人、困惑していたし」


「うーむ、分からん。コアは何か分かる?」


「……………………いえ、ボクに支配人ジョキュの狙いは分かりかねますが、白銀様の話によれば、支配人ジョキュを封印したのは何十年も前の話ですね?」


白銀は頷いた。


「ならば、支配人ジョキュは何十年も封印を破ろうとし、結果何十年もの時間を使い、封印を破った影響で疲労困憊なのでは無いですか?」


支配人の様子から疲れは見えなかったが、コアのその推測には一理あるな。


「集合!」

常盤が突然そう言った。その意図を理解するよりも先に、俺と白銀とコアが常盤のすぐ側に集合する。


常盤より少し遅れて、俺もその異様気付いた。ホテル全体が細かく振動し、床がうねり、壁が落下し、扉が沈み、数瞬で目に見える世界が様変わりした。


周囲の壁床天井が全て消滅すると、ここの全容が見えた。


そこは、ここは、エリア2とエリア3が融合した広大な空間に変わり、俺達がいる場所が空中に変わり、そのまま下と思われる方向に落下。


地球がすっぽり入るんじゃないかと思えるほどの広さ。広過ぎて大き過ぎて視覚がおかしくなるほどに。エリア2とエリア3の空間全てがこの超巨大な空間に変換された空間がそこに在った。


空間の壁には何やら小さな模様らしき物……恐らく部屋の扉が等間隔にびっしりと。そして所々未来的な部分も見受けられる。エリア2とエリア3。両方の空間を足して生み出された空間。


エリア2とエリア3。その2つの世界を束ねる支配人ジョキュ……理解したつもりだった。支配人の限界を、力を、勘違いしていた。


あれは、今まで見た中で、比類する者のいない正真正銘の、怪物だ!

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