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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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1話 アビスシステム その4

俺含めBチームは早足で偵察機の反応消失地点に向かった。


俺は懐中電灯を持ち俺以外のBチームメンバーを先導、常盤は拳銃を片手に周囲を警戒、もう1人は最後尾でBチームの背後を警戒した。


道中、特に何事も無く偵察機の反応消失地点に到着。

その周囲を照らすと、赤く染まった雪を見つけ、その上には防護服を着た3人が倒れていた。


偵察機の反応消失地点付近で見つけたAチームの3人は、まさに酷い有様だった。


1人は頭が無く体が無惨にひしゃげており、1人は右肩を抉り取られ、1人は刃物で切り裂かれたかのように腹に大きな傷があった。


血に染まった雪の上に倒れている3人に急いで近づく。


頭が無い1人を除き、まだ望みがある2人の防護服を一部外し、首に触れ脈を確認する。


「………………チッ」


2人にはもう脈が無かった。出血多量かもしくはショック死したと即座に断定する。


「荒起博士……Aチーム、全滅です」

『分かった。Bチームに即時撤退命令を下す。生きて戻れ』


俺がその場から離れようとしたその時、暗闇から突如として巨腕が現れ、俺に向かって大きな拳が近づいてきた。


とっさに常盤が俺の腕を引っ張り、拳が何も無い雪の地面を叩きつけ雪が舞い上がる。いきなりの事で動けずにいる俺の代わりに、常盤が巨腕に向けてライトを照らした。


ライトで照らされて見えたのは人型の存在だった。人型のそれは筋骨隆々で、この雪原から誰にも見つからないためかのように真っ白な体毛が体を包んでいた。


例えるなら雪男やイエティに近い。ただ、それらと決定的に違う……殆どの生物に本来ある、頭が無かった。


そして、その代わりとでも言うかのように、人で言う胸の辺りに横向きに裂けた大きな口があった。


正に、白い怪物だった。


常盤が片手に持っている拳銃で、バンッバンッバンッと、怪物に向かって撃ったが、弾丸が怪物の体を貫くこと無くその白い体毛に阻まれ、3発分の弾丸が雪の上に落ちる。


「……走って!」


常盤のその声に、俺ともう1人のどこかに行っていた意識が戻る。

1人は先に亀裂に向かって全速力で走り出し、俺は常盤に左腕を引っ張られながら亀裂に向かって走り出した。


怪物は雪に埋まった拳を抜き取り、逃げる俺等を追いかけて来た。


罠を張り、獲物を待ち続ける狩人のように、この怪物は他に仲間がいると何故か確信して、Aチームの死体をそのままにした。

この怪物には超音波でも発しているのか?と焦燥に駆られながらただ疑問に思った。


「グルオォォォォォォ!!!」

いきなり何が起きたのかと後ろにを見ると、怪物が胸にある大きな口を開け咆哮を上げていた。


Bチーム全員の息が上がる。


今の逃げる場面において防護服の重さ40キロが足を引っ張っる。


1人は亀裂に到達し、俺は疲れを無視して走り、常盤は限界がきたのか、徐々にスピードダウンして俺の左後ろを走っていた。


背後にいる怪物を時々確認しながら走っていると、突然俺等の背後にいた怪物が姿を消した。懐中電灯で姿を消した怪物を探す。


嫌な予感がして懐中電灯を上に向けると、怪物が上から落下してきていた。とっさに俺の左後ろを走っている常盤の腕を引っ張る。


怪物は片手を広げ、落下しながら腕を振り下ろした。


怪物の手、指先にある鋭い爪が常盤に向かう。


とっさに俺が常盤の腕を引っ張ったことで急所は外れたが、常盤の防護服を易々と切り裂き、同時に右足のふくらはぎが怪物の爪で切り裂かれる。


俺が常盤の腕を引っ張ったことでバランスが崩れ、俺は尻餅をつき、常盤は雪の上に倒れた。


もう一人は既に亀裂を通り実験室に戻っていた。俺と常盤の現在位置は亀裂のすぐ近く。数歩歩けば辿り着ける程の距離。


「グオォォォォォォ!!!」


勝利の宣言とでも言っているのか、怪物が雄叫びを上げた。


生きて戻れる可能性を考えろ……常盤を見捨てていく選択肢は無い。賭けにはなるが、ある程度はダメージが通るであろう大きな口の中に手榴弾を投げ込む。


投げた手榴弾は雄叫びを上げ続ける大きな口に入り、怪物は口の中に入った手榴弾に違和感を持ったのか、雄叫びを辞め手で自身の腹をさすっていた。


その瞬間、怪物の口からくぐもった爆発音が聞こえ、怪物が手を口に当て膝をついた。


俺は常盤の手を取り、立ち上がって亀裂に向かって走りだす。






怪物が怯んでいるうちに亀裂の中に滑り込み、俺と常盤は実験室に戻ってこれた。


息をついて安心した瞬間、体の力が抜けてその場に崩れ落ちた。常盤は怪物の攻撃でふくらはぎから血を垂れ流していたが、亀裂に滑り込むまで特に顔色を変えなかったから大丈夫だと信じたい。


「グオォォォォォォ!!!」


怪物の雄叫びがこちら側にまで聞こえてきた。


『すまんな化物!お主の世界に入ってしまった事は重々承知だが!お主をこちらの世界に入れる訳にはいかんのだ!9分弱…少々早いが実験は終了じゃぁ!!』


実験室にあるスピーカーから荒起博士の声が聞こえ、俺は次に何が起きるのかが分かった。急いで常盤と一緒に稼動中のアビスシステムから離れる。


アビスシステムから目が眩む程の閃光と電撃が迸り、同時に亀裂から怪物の手がこちら側に……


「ぜぇ……ぜぇ……」


俺は跳ね続ける心臓を抑さえながら、アビスシステムに視線を向けた。そこには先程まで追いかけていた怪物の姿は見当たらず、ただ静かに佇む鉄の壁があった。


怪物はいなかった。


鋭い爪と白い毛を携えた大きな手を残して。



◆◇◆◇



どこかどこか遠い遠い彼方の彼方にて、人型の何かがいた。その人型の何かは無機質で機械的な廊下を歩いていた。


人型の何かが廊下の突き当たりに辿り着いた瞬間、突き当りの壁が変形しその先に暗く大きな部屋が現れた。


人型の何かは止まること無く突き進み、部屋の中心にある椅子に座った。人型の何かが椅子に座ると、椅子が浮かび上がり人型の何かが自身の手を前に出した。


空中浮遊する電子的な画面や無数のボタンが現れ、人型の何かが手慣れた手付きで操作を始めた。


数秒の操作が終わると、電子的な大きな画面がもう一つ現れ、ガガッという音と共に何処かに繋がった。


「異常性を持たない知的生命体の侵入を確認した。また貴様の入れ知恵か?第一評議長」


「……いや?我がここ最近で入れ知恵をした生物はおらんが……全く知らぬな」

「知らないという事はないだろう。()()()()()を持ってすれば、他世界の情報も知れるはずだ。また貴様は娯楽を求め黙っていただろう?」


「…………」


「今回、貴様に聞きたいのは、貴様が知的生命体に入れ知恵したかどうか。そしてどうやってこの世界に侵入したかだ。ただのバグではないだろう?」


「次元空間亀裂発生装置。通称アビスシステム。次元空間に亀裂を発生させ、その亀裂を通過し別世界への移動を可能にする装置を使用し、人間がこの世界に到達した。概要はこんな所だ」


「成程……そうだ。第一評議長、貴様に――――」


「分かった。我から、第四評議長の巡回経路にその周辺を追加するように通達しよう。またこの世界に侵入する可能性を考えて。我の予測では近いうちにまたこの世界に侵入するだろうがな。その他に我に何か聞くことはあるか?」


「…………はぁ、思考が筒抜けとは心底恐ろしいものだな。第一評議長……全知の異常で私から貴様に聞く事は無いと知っているだろうに」


「知能を持つ者との会話は楽しいものだ。さて、我はこれで失礼しよう」


その言葉と同時に電子的な大きな画面が消滅した。人型の何かは浮かんいる椅子にもたれ掛かる。


「バグを使わず、第一評議長の入れ知恵無しでこの世界に到達するか……いや、到達するしか無かったか……?興味深い、どれほどの高度文明を築いている?どれほどの生物的能力を持っている?もし、再びこの世界に来たならば……一度会ってみよう」


それは顔いっぱいに口が現れ、ただ不気味に笑った。

読んで頂きありがとうございました。

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