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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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8話 天国の既知を求めた神童 その5

白銀が立ち直った翌日。俺達は荒起博士の研究室に呼び出されていた。


この場にいるのは俺と常盤と昨日完全に立ち直った白銀、そしてコアだ。


昨日、コアは荒起博士と水葉所長の許可を取り、俺達とは別に異界研究所を散策していたのだが、コアを知らないほとんどの職員、とりわけ研究員達から、数時間に渡り質問攻めをされていたらしい。そうなるのは分かり切ったことのはずなんだがなぁ…………


そのせいか、コアという完全なるオーバーテクノロジーの存在も後押しされ、異界研究所の職員達は異常界で俺達が見て感じた突拍子の無い事実をすんなりと信じた。


そして信じた結果。今の状況に繋がってしまっている。


研究員達に質問攻めされた際に、コアは白銀のお願いで異常界の産物を持ち帰ったことを口走ってしまった。


コアが荒起博士と水葉所長に対し行った異常界の説明では、当然そのことを省いて説明していた。あの時に省かず説明していたら、それ所では無かっただろう。


だからあの時は言わ無かったのだろうが、研究員達の質問には偽り無く返答してしまった。質問したことや質問に対し、どんな返答を行ったかが研究所内で瞬く間に広がり、その結果荒起博士の耳に入ってしまい、今に至る。


「よし、全員いるな」


研究室の扉を勢い良く開け、早足で荒起博士がやって来た。


「お主達を呼んだのは他でも無い。異常界から持って来たという異常とやらを、儂に見せてくれ!」


少し遅れてやって来た荒起博士が、概ね俺の予想通りのことを言った。


「……あの状態の荒起博士をテコで動かせたらなぁ…………」

「それは無理だと思うが……」

「だよねぇ…………」


「じいじってこんな……いや、言及はしないでおくよ」


パラレルワールドの孫娘にすら呆れられているぞ、このハイテンション博士。


「取り敢えずコアは…………うーむ……白銀ちゃん。何を出せば良いかな?」


常盤が白銀に聞くと、白銀は少しばかり俯き考える。


「それなら、異常が分かりやすい……無限ウォーターサーバーでいいと思う」


「あー、あの微妙な……りょーかい。コア!無限ウォーターサーバーをここに出して!」

「了解しました。ご主人様と皆様は少し離れて下さい」


コアは起伏の無い淡々とした物言いで応えた。


俺含めたその場の全員がコアから離れるように研究室の壁に寄り掛かり、コアの動きを待つ。数秒の時間を使い、何も無かった場所に突如として無限ウォーターサーバーが出現した。


今の光景を見た荒起博士は、今まで見たことの無いくらい驚きと驚愕に顔を染め上げていた。


白銀が目の前に出現した物体を、知らない荒起博士に説明する。


「そうか……そして、これが、無限に水が出てくるウォーターサーバー…………」


荒起博士が近くに置いてあった試験管で無限ウォーターサーバーの水を汲み、その微妙な水を口に付け、ゆっくりと飲んで飲み干した。


「確かに微妙な味をしているな。しかし、飲料水として使える以上、この味に目を瞑れば世界の水問題を解決……しかも、絶対に飲料水として使用しないといけないという制限がある訳でも無い。水が絶対に手に入らない場所で水を入手可能となる…………時間さえあれば、水力発電にも転用可能。これは、革命が起こるぞ…………!」


早口になり興奮しつつある荒起博士を傍目に、白銀が新たな異常界の産物をコアに頼んで取り出していた。






その翌日。俺の自室から研究所にある図書室に向かう途中、泡を吹いた荒起博士が担架に運ばれ、救護室方面に送られて行くのを目撃した。


担架に運ばれて行く荒起博士を後から着いて行く事情を知ってそうな白銀に尋ねてみる。


「白銀はどういう状況なのかしっているか……?」


何故荒起博士が担架に運ばれたのかを聞くと、白銀は疲れ気味に応えた。


「じいじ……興味本位でいくつか黒果実をかじったらしいんだけど、その中にハズレが混じってたみたい。たまに気絶するほど不味い果実があるって教えたのに…………」


白銀が諦めと呆れの目を荒起博士に向けていた。


「こういうのに関することわざ。知ってる?」

「ああ、知ってる」


「バカと天才は紙一重」

「馬鹿と天才は紙一重」


別の世界といえど、いやパラレルワールドだからか、全く同じことわざになるのも必然か。






それから2日後の真昼間、またもや荒起博士に呼び出された。


俺と常盤が扉を開くと、研究室には既に到着していた白銀と、この前とは違い、少しばかり疲れた様子の荒起博士が溜め息を吐きながら椅子に座っていた。


「座ってくれ」


荒起博士にそう言われ、既に用意されていた椅子に座る。


この前とは一転して暗い雰囲気を漂わせつつも、荒起博士が口を開く。


「さて、先に異常界を身をもって体感したお主達に言おう。異常界から持ち帰った様々な物じゃが……水葉と話し合い、国の最上層部にのみ伝えることに決めた」


一度言葉が途切れ、荒起博士が軽く息を吐き再び口を開いた。


「何故か?と思うのも、それは当然と思うのもそれぞれじゃが、一旦それは置き説明しておこう。まずお主達が持って来たのは奇跡の蜜であり、それと同時に劇物の蜜でもある。例えば無限ウォーターサーバー。文字通り無限に水が発生することで、あらゆる水問題が解決する。微妙なのを加味しても飲料可能な水に変わり無い。

もう1つの例えを出すなら、儂は実際に見てはいないが、異常界を脱出する為の動力として使用した恒久エネルギーオーブ。これは想像に難く無いじゃろう。火力発電も水力発電も風力発電も太陽光発電も原子力発電所も。電力だけでもあらゆる電力エネルギーの生産方法が意味を成さなくなる」


そう言うと、すぐそばにあった鈍い光沢を輝かせる板を、この場の全員に見せるように持ち上げた。


「白銀から借りたこの何の変哲も無い金属板も、下手すれば国家予算に匹敵する高値が付く。これらのような情報を世界に発信したら、これらのような異常を世界が目撃すれば、各国が死に物狂いで異常界に進出するであろう。そして殆どの国が失敗に終わることだろう。最悪の場合。異常界の化物が地球に流れ込む可能性すらある。故に奇跡の蜜であると同時に、劇物の蜜でもあるのだ」


成程。これは荒起博士からの警告…………少し遠回しな釘差しという訳か。


だが俺の隣にいる常盤は首を傾げていた。今のを理解し切れずにいるな、これは。


「…………それと。儂からの、博士としての命令じゃ。不用意にこの情報を外部に漏らすことを禁ずる。もし外部に情報を漏らせば、儂の権限でお主達に即時射殺命令が下される。このことを留意せよ。儂からは以上じゃ」


助かった。これで、さっきからぽけーっとしていた常盤も理解できたことだろう。


荒起博士が以上と言うと、椅子の背もたれに体重を掛け、疲れた顔を天井に向けまたもや溜息を吐いた。


「博士…………大丈夫です?」


常盤が俺もさっきから気になっていたその様子について聞くと、荒起博士が頭を下げ常盤に視線を合わせた。


「……ああ、心配せずとも、水葉の愚痴を延々と聞かされれば誰でもこうなる」


原因はそれか…………

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