8話 天国の既知を求めた神童 その2
ヘヴンシステムによって荒起博士の無線で繋がった訳だが、繋がったからと言って安易にヘヴンシステムを通ることはしない。
無線から聞こえる声の主が荒起博士では無い可能性や、無線は繋がっても、ヘヴンシステムが元の世界にうまく繋がっていない可能性がある。
考え過ぎかも知れないが、怪物の餌になったり、ヘヴンシステムを通った瞬間空間が歪んで引き裂かれるとかは御免だ。
荒起博士の話によると。あちら側ではアビスシステムを起動させたらしい。
恐らく俺達と荒起博士達がそれぞれ同時に起動した結果、アビスシステムとヘヴンシステムが繋がっているのだろう。
このことを知った荒起博士が、一つの案を提案した。それぞれの方向から物を送り合い、その物の状態を調べると言うものだった。
状態に全く不備が見当たらなければヘヴンシステムを通れるが、反対に歪んでいたり壊れていれば危険ということになる。
それぞれしか知り得ないような物を送り合えば、向こう側に怪物いるという状況も極力減らせる。ただ、何を送るのかが問題だが。
『こちらからは偵察機と白い怪物の資料を送る。お主等は偵察機を直接見たことが無かったはずだからな。儂が説明したことで知っているであろう白い怪物の資料を見れば、そちらの世界と地球に繋がっている証明になる。そちらからは、何かお主達に関連する物を送ってくれ』
「こっちからは……どうする?常盤の銃と防護服はデルメントルトに置いて来て、俺の防護服は無線通話の為に必要だし、銃も自衛の為に……2度目の調査に持って来た光源と無線中継機はエリア12暗雪原に置いて来ているから、今から回収する訳にも…………」
「地形測定器。ここにあるよ」
常盤が残骸の山に埋もれた地形測定器を取り出した。そうだった。あれから全く使わなかったから忘れていた。
「荒起博士。こちらからは地形測定器を送ります」
『了解した。今から資料を持たせた偵察機を送る。偵察機がそちらに到着次第、地形測定器をこちらに向かって投げてくれ。なぁに、心配は要らん。怪物に攻撃される可能性を考え頑丈に造っておる。少し遠慮して投げてくれ』
まあ、遠慮なく全力で投げたら普通に壊れそうだしな…………
それから5分ほどが経過すると、ヘヴンシステムから月面探査機のような機械がゆっくりと進み、数m進んだ所で静止した。
恐らくその機械が偵察機なのだろう。
「せーの!」
偵察機を確認した常盤が、地形測定器を軽々と片手で持ち、ヘヴンシステムに向かって投げ入れた。取り敢えず、静止している偵察機を調べる。
見たところ歪みや壊れた箇所は見当たらず、詳しく確認しても特に問題無し。偵察機に付属されている箱があり、その箱を開けると、中からびっしりと文字が書かれた紙の束が入っていた。
その紙束を読むと、アビスシステムの初回突入の後に白い怪物について分かったことが書かれており、何枚か紙をめくると2度目の実験時に分かったことが書かれていた。紙も文字も大きく歪んだ箇所は見当たらず、俺が知っている情報と照らし合わせても、抜け落ちた部分は特に無い。これならこっち側は大丈夫そうだ。
『新條蓮。聞こえているか?』
少し無音になっていた無線から、再び荒起博士の声が聞こえた。
「はい。聞こえています」
『そちらから投げられた地形測定器じゃが、間違い無く儂が設計し造り上げた物じゃ。歪みも破損した箇所も無かった。そっちに送った偵察機はどうなっている?』
「見当たる所に歪みや破損は無く、送られた書類も大丈夫かと」
『それなら良かった。確認が済んだなら偵察機を戻す。偵察機が抜けたらお主達も戻ってくれ』
「了解しました」
ブッという電子音と共に、荒起博士との無線が切られた。偵察機は方向転換せずに、真っ直ぐ後ろにバックして、ヘヴンシステムを通り抜けて行った。
「まずは、これとこれとこれを亜空間格納庫に入れて貰える?」
元の世界に帰還できると知った白銀が、歓喜を抑えながら、コアに頼み込んで色々な物を亜空間格納庫に格納させて行った。
白銀に頼まれ、次々とホールにある物を格納するコアに向かって、常盤が口を開く。
「コア。あっちに行ったら、しばらくは動かないで普通の機械のフリをしてくれない?多分そのまま行くとすごいことが起きるから……」
そうだった。俺達はもう慣れたが、研究所の職員はこの浮遊する機械を知らない。しかも喋ったとなれば混乱は間違いなし。
デルメントルトで造られたコアにとって、地球上の科学技術は赤子レベル。まずは荒起博士に見せた方が懸命か。
「了解しました。ご主人様」
コアはものの数分で、壁に貼り付けられた設計図や床に転がる何かの発明品。
果てには大量の黒果実や無限ウォーターサーバーなどの異常界の物まで。全てコアの亜空間格納庫に入り、ホールがこんなにも広かったのかと感じさせられた。
白銀がこれで終わり、と言うと、コアは常盤に近寄り、反重力機構を切って常盤の手のひらに乗っかった。
「ボクはスリープモードに入りますので、何かお申しつけがあれば呼んで下さい」
そう言って、コアは何も喋らない四角い機械になった。常盤はコアを懐に入れ、ヘブンシステムの前に立つ。
俺は常盤の横に立ち、白銀は何故か常盤の背後に隠れた。取り敢えず、このままヘブンシステムの前に立っていても何も進展しない為、
遠慮なくヘブンシステムを通る。形容し難い色がうごめく亀裂を抜けると、そこはアビスシステムを通った時と同じ実験室だった。
後ろを振り返ると、今にも亀裂が縮小し、異常界への道が閉じられようとしているアビスシステムがあった。
無事に俺と常盤。そして、一緒に連れて来た白銀がいることを確認すると、実験室にあるスピーカーの向こうから物音が聞こえた。
恐らく荒起博士だ。
『さて、お主達には根掘り葉掘り聞かなければならないことがあるが、まずはシャワーを浴びて全身殺菌してこい!そして全身のレントゲンと血液検査!次に専門の精神医と対話して精神状態を確認!その他諸々行ってこい!』
実験室のスピーカーから、耳を塞ぎたくなるような爆音の声が聞こえるも、
荒起博士の声に安心している俺がいた。
それから、約12時間もの間検査に検査。精神が参るほど検査に拘束された。
「毎度、君たちはこんな疲れることをしてたのか」
「と言っても2回目だけどな。前よりも数時間ほど検査時間が増えたが」
「まぁ、異常界に15日もいたらしいし、しょうがないと思うよー」
やっと検査が終わり、俺と常盤と白銀は廊下の横長ベンチでぐったりしていた。
事情聴取はまだされず、まだ報告書も書いていない。研究所側は白銀について特に言及していない。
白銀については何も聞かれていないし、白銀は白銀自身についての質問はされていないらしい。荒起博士も研究員達も、白銀が俺と常盤と一緒にアビスシステムから現れたことに疑問を持っているはずだ。
しかし、その前にどうにかして異常界のことを説明しなければ…………白銀について話す前に、異常界が先だ。
あらゆる情報の前に、異常界が前提に来る。いや、まずは一度寝て頭を休憩させた方がいいか。
「おお。ここにいたか」
廊下の向こうから荒起博士がやって来た。
「ぐったりと疲れているようで悪いが、その子供について聞き――――」
白銀が驚きの表情でベンチから立ち上がり、震える手で荒起博士を指差した。
「じ!じじじじ、じいじ?!」
じいじ…………………………祖父?!
白銀にじいじと呼ばれた荒起博士は、その言葉を聞いた荒起博士は、口をあんぐりと開け思考停止していた。
そのまま全員の間に沈黙が流れ、何とも言えない空気になっていると、常盤が小声で呟いた。
「誰かこれ何とかして……」
「ご主人様。何かあったようですので、スリープモードを解除しました」
その言葉に反応したのか、コアがスリープモードを解除し、常盤の懐から空中に浮かび上がった。
「は、はあ?!ど、どうなって…………ああ、眩暈が…………」
…………ご愁傷様です。




