6話 人類の夢、無限のエネルギー その7
扉を抜けた時、常盤を除いた全員が、その光景に唖然としていた。
数え切れないほどの全く同じ怪物の死体の山で、常盤がボロボロの姿で怪物にトドメを刺していた。
「あ……新條……君……」
ゆらゆらと危なっかしい足取りで近づき、そのまま俺に被さるように倒れた。
そしてがっくしと俺に体重を掛けたまま、意識を失っていた。外傷は見当たらないが、様子からして疲労困憊。
疲れてしまい寝たようだ。
防護服を着ていないことが気になったが、通路に無造作に置かれたボロボロの防護服を見つけ、
何故防護服を着ていないのかを察した。
「………………?!」
突然、何かの移動手段を介する訳でも無く、そこから発生するのでは無く、何も無い場所から、何の前触れも無く怪物が現れた。
何故同じ怪物が山となって倒れているのか。その意味を理解した。
『ドゴンッ!!!!』
鈍い破壊音と共に、周囲の通路に亀裂が走った。その亀裂からはデルメントルトの濁り燻った空が見え、都市全体を二分にするほどの大きさとなり、天井に走った亀裂から、灰色の粉が降って来た。
この異常事態を知った情報保管室警備者は、脱兎の如く通路の壁に穴を開け、一目散にどこかへと行ってしまった。
「た、助かった……?」
助かってはいないが助かった。
こんな事態の時に、あの怪物を相手するような力や武器を使うのは時間の無駄だ。
「白銀!コア!どこへ行けばいい?!」
常盤を抱き抱え、白銀とコアに指示を仰ぐ。しかし、白銀は口を閉じ、俯いた。
そういう反応になるのも仕方ないだろう。俺もこの状況でまともな移動手段や通路があると信じたい。
しかし、ここまで豪快に崩壊していると希望は薄い。あの時、1時間以内には余裕を持って脱出できると言っていたが、この都市が30分も持ちこたえられたらいい方だ。
「どうすれば…………ん?」
その時、空が見えるほどに裂かれた亀裂から、灰色に染まった瓦礫が大量に落ちて来た。廃ビルの残骸や何かの機械、果てにはさっきまで俺達を襲って来たロボットまで。
終末とも思えるその様相に、白銀がはっとした様子で顔を上げ、自身の腕に付いている3分時計を静かに見つめた。
「1/5倍速」
落ちゆく瓦礫、崩壊する都市が低速になった。
「コア」
白銀はコアに向けて一言。それから続けて白銀が言った。
「ワタシ達に反重力機構をお願い。今から、この亀裂を駆け上がる」
…………そうするしかない状況ではあるが、亀裂から見える景色、灰色に染まった街までの距離を見ても、数百mもの高さがある。
どこへ行けば良いのか知らないが、無謀だ。
「着いて来て!」
低速化した崩れゆく瓦礫を一時的な足場にして、白銀が崩壊する空中都市を駆け上がった。
しかし、遅くしたと言っても所詮1/5。時間を止めている訳では無い。もたもたすればすぐに瓦礫ごと落下する。
抱き抱えている常盤を抱き直し、落下する瓦礫を足場にして白銀を全力で追いかける。
コアの反重力機構のお陰で、体がフワッとなっている。経験は無いが、重力の軽い星にいるような感覚だった。
コアは緊急時にも対応できるようにする為か、俺と白銀の丁度中心を維持していた。ただ、どこまで上に上がれば良い?
既にあの通路から100mは軽く過ぎている。落下する瓦礫と残骸の量が多く、そしてコアの反重力機構で落下速度の低速化とそしてジャンプ力の大幅上昇。
これらによって俺や白銀が落下する心配は無い。だが――――――
『ビキ…………バキ!!』
今の音が聞こえた瞬間、俺の目に見える空中都市のあらゆる箇所が壊れ、空中都市が大きく傾いた。これは、流石に限界だろう。
3分時計の効果範囲内でも、時間が遅くなっても時は進む。今は都市の崩壊を先延ばしにしただけ。この状態になれば止めることはできない。
「あった……見つけた…………こっち来て!」
急に白銀が落ちゆく瓦礫を逆走し、俺の手を引いて来た。
「ちょっ……」
いきなり手を引かれたことで常盤を落とし掛けた。危な……
抱き抱えている常盤を落とさないようにしながらバランスを取り、白銀に手を引かれるまま着いて行く。コアは俺達の至近距離にまで近づいた。
落下する瓦礫という、道無き道を引かれるまま進んでいた。しかし、白銀はどこに向かっているんだ?いい加減…………いやまて、その先には足場が――――
「はあ?!」
急に白銀ごと俺と常盤が落下した。迷いが無かった。まさかエリア2に戻る何かを見つけたのか?
俺から見て、落下地点は頑丈そうな銀色の壁。しかも銀色の壁は俺達同様に落下中。流石にその壁ではエリア2に帰れそうに無いな。
落下に関してはコアの反重力機構で大事にはならないが……
「微調整お願い!」
「了解しました」
白銀に手を引かれるまま、その壁に激突し――――――
「もど、れた……戻れたー」
「ど、どう言うことだ……?」
今、何が起こった?さっきまで崩壊する空中都市にいたのに、気が付けば、銀色の壁を抜けアンティークなホテルの壁に。
そして俺と常盤と白銀とコアがエリア2のホテルの廊下に転がっている。
「エリア674から、エリア2に行く方法。それは行きと同じ壁抜けバグ。条件は、ある特定の材質の平たい物体に向かって角度47°で突撃すること。いやー疲れた」
知らなかったら普通に不可能では…………?
「たまたまそれが落下してくれて助かったー……元々、ワタシがエリア674で壁抜けバグした地点に行く予定だったから、結構な時間を踏み倒せた」
ふぅ、やっと終わった。短くも長い冒険も終わりに…………ん?
廊下の奥からドゴドゴと音がが聞こえる。ま……さ……か……百手?!急いで常盤を抱き上げる。
「逃げろー!」
これは、拠点に帰るまで気が抜けないな……
◆◇◆◇
「…………………………チッ」
雲海に落ちゆく都市を見下げ、全て生命が淘汰された世界で、たった1つだけ残った最後の空中都市から、ただ一色に染まった灰色の都市に向けて、小さな音が鳴り響いた。
「いやー凄まじい光景ですねぇ」
「?!」
いつの間にか隣にいた何者かに、デルメントルトから脱出していた情報保管室警備者が後ずさる。
「おっと失礼。私はこう言う者です」
その何者かはデルメントルトの言語で書かれた名刺を取り出し、目の前の警戒する異常生命体に見せつけるように手渡した。




