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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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1話 アビスシステム その3

実験室の床から右足を出し、アビスシステムを大股でまたぐと、何かを踏み、そして足が沈む感触がした。


そのまま全身を向こう側に入れると、事前情報の通り真っ暗だった。懐中電灯を点けて視界を確保して周囲を照らす。


足元は雪。上からは静かに雪が降っていた。

後ろにあるアビスシステムの亀裂は入る時に見たのと同じく、形容し難い色が凪ぐことの無い水面のように、絶えず色がうごめいていた。


最後の一人が亀裂を通過すると、一人が背負っていた大きな光源を設置し、もう一人が無線中継機を設置する。


「えー……こちら新條しんじょうれん。俺含め部隊全員が別世界に通過完了。光源、無線中継機を問題なく設置完了。事前情報通り真っ暗、そして見たところ雪原、そして上からは雪が降っています。返答を願います」


無線中継機の設置完了を見計らい荒起博士側に無線を送る。現状この特殊部隊にリーダーはおらず、1人1人に大まかな役割があるだけだ。


この前荒起博士から聞いたが、部隊設立からまだ1月しか経っていないそうで、今の所常盤以外は軽く顔を見合わせただけのほぼ他人だ。


『あー、あー……よかった。最初の指令通り、AチームBチームに分かれて調査を始めてくれ。必要とあらば撮影も許可する』


その後、A B分かれての調査が始まった。俺の配属チームはBチーム。Aチームの反対方向に足を進めての調査だ。


チームメンバーは俺、常盤、あと1人。常盤以外とはあまり絡まなかった為、未だに名前を覚えてない。






懐中電灯を持ち、3人別々で自身の周囲を照らしながら進む。


ただ、照らしても照らしても雪、雪、雪、雪、足跡…………足跡?防護服の上から口付近に手を当て、あちら側に無線を繋げる。


「こちらBチーム。新條蓮。何かの足跡を発見しました」

『了解した。足跡か……これで何かがいることは確定したな。その足跡を詳しく調べてくれ』

「了解」


少し離れて行動していた常盤ともう1人を集め、見つけた足跡に近付いて行く。


足跡の形は猿の足の様な5本の指。その足跡の大きさは目測で大体30cm。足跡が右左右左と交互に突き出し、歩幅は大きく、恐らくこの足跡の主は人型の生物。


そしてよくよく見ると、その足跡の上に薄く新雪が積もっていた。


そしてなんとなく後ろを向くと、1人は言葉を失い、常盤はパシャパシャと足跡の写真を撮っていた。取り敢えず、俺はメモ用紙とペンを取り出し、分かった事を記録していく。


さっきからおどおどしている1人に視線が移る。別世界に来た時からおどおどしているから、恐らく暗闇や不気味な空間が苦手なのだろう。俺と常盤と違い元軍人の筈だが。


俺はメモ用紙に分かった事を書き切り、メモ用紙とペンを丁重に仕舞い込む。


「この足跡って追いかけた方がいいかな?」

常盤がどこまでも続いている足跡を照らしながら聞いてきた。


「追いかける必要は無いだろう。この足跡は荒起博士がAチームにも伝えているだろうし、いちいち追いかけていって何かいましたー、やられましたーじゃ洒落にならないからな。注意しつつ、このまま進もう」

「はーい」


常盤は俺の言葉に反論することは無く、もう1人は特に何も言わなかった。






「ナニコレ……」

「……………さあ?」

「………??」


現在位置は亀裂発生地点から約20m。足跡があった場所から約6m。Bチームは"意味不明"に遭遇していた。


目の前には先が見えず、どこまでも続いているこちら側に少し反れた黒い壁。


とても自然に形成されたとは到底思えず、明らかに人工物に見えた。

「こっち来て!」


黒い壁のすぐ目の前にいた常盤が俺ともう1人を呼び、

常盤に早足で近づく。俺ともう1人が常盤のすぐ近くに来ると、突然常盤がすぐ目の前にある黒い壁を蹴った。


「ほら、音がしない」

常盤の言う通り、音がしなかった。


通常吸音の材質で無い限り、どんな物にも衝撃を与えれば大小の違いはあれど音が発生するはずだ。


どう言うことなのかと考えていると、常盤が拳銃を手に持ち拳銃の角を黒い壁にぶつけた。


音は発生しなかった。拳銃からも音が発生しなかった。色々と考えても埒が明かない為、取り敢えず荒起博士に無線を繋げる。


「こちらBチーム。新條蓮。亀裂から約20m地点にて端の見えない黒い壁を発見しました」


『黒い壁か……予想していた事だが、別世界は分からない事だらけだな。その壁を乗り越えることは可能か?』


懐中電灯で黒い壁を下から上にのなぞるように照らしてみるが、どこからどこまでが黒い壁なのか、暗闇と同化して分からなかった。

「黒い壁が暗闇と同化して分からない……ですね」


『そうか……その黒い壁と先程の足跡については後で報告書に書いてもらうとして…………ん?ああ、分かった。すまない、ちとまってくれ』


その言葉を残し、無線を切らないまま荒起博士の声が離れていった。恐らくAチームが偵察機の反応が消失した地点に到着したのだろう。


ちなみに、無線の内容は同チームにも聞こえるように設計されている。無線を切らずに荒起博士が戻るのを待っていると、無線の向こう側から荒起博士の声が聞こえた。


『……………………A……ム……チーム!何が起きた?!白い……?Aチーム!応答せい!応答を!……………』


途切れ途切れ聞こえた荒起博士の声に、全員が固まった。俺は緊急事態だと確信した。


Bチーム全体に沈黙が流れていると、荒起博士が戻ってきた。

『偵察機の反応消失地点にて、Aチームとの通信が途切れた。緊急事態じゃ。Bチームは即刻Aチーム……偵察機の反応消失地点に向かい、Aチームの安否を確認してくれ。Aチームの最後の言葉は白い怪物。儂が言うのもなんじゃが、生きて、戻ってくれ』


「…………………了解」

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