6話 人類の夢、無限のエネルギー その5
6話 人類の夢、無限のエネルギー その5では、視点が新條蓮から常盤凪沙に変わります。
「さて」
どうするかな。私に任せてって言ったけど、しょーじき勝てる自信は無いんだよねー……
せめてできるのは時間稼ぎ。
だけど、いくら私でも頭とか潰されたら即座にゲームオーバー。
今の所、私が初手の攻撃を防いでから、あの怪物は何もせず様子を伺ってる。
新條君と白銀ちゃんとコアには何もしなかった。私が1番危険と判断したのかな……?それはそれで有難いけど。
「えーと、あった」
使うかな?って思って持って来たけど、ここで使うかぁ…………
私には秘策がある。
それは、一口かじっただけの真っ黒な球体。ハズレの黒果実。
それと白銀ちゃんに借りた味覚麻酔液。蓋を開けて、口に入れて。
「ぺっ」
こんな所にコップなんて無いからそこら辺に吐き捨てる。麻酔が切れない内に黒果実を全部食べ――
「ぶべっ……?!」
黒果実を食べ切った瞬間、怪物が急に消えて私の背中を殴った。
「っと」
流石に私も負けてない。殴られた勢いで空中に飛ばされたけど、空中で体勢を変えて綺麗に着地。
「あっぶないなー……」
瞬間移動、超スピード、時間操作。3分時計みたいな能力があると仮定すれば、ぱっと思いついただけでも候補がこんなに。
さて、どう………………ん……?!
防護服の背中部分に穴が空いてた。
それに背中が熱い。何かが湧き出て滴る感触がする。たぶん背中から血が出てる。スキンリーパーみたいに、攻撃力がすごい感じみたい。
「ん?」
背中の熱が凪いだ。手を後ろに回して触ってみると、血が止まったどころか、皮膚まで再生してた。いつもはこんなに早く治らない。
やっぱり、私の予想は正しかった。あの時は数時間。しかもたった一齧り。新條君の処置があったとはいえ、切断された腕が繋がった。
それほどに、ハズレの黒果実は傷を治す力が強い。そして元々凄かった私の再生能力が更に強化された。ただの憶測だったけど、外れてなくて良かった。
「……………」
目の前の怪物は無言のまま、また消えた。怪物は私に周囲を見渡す時間すら与えず、私のすぐ目の前。
超至近距離に現れた。
そのまま、背中にある4つの触手を使って、私の四肢の関節を串刺しにした。何もできなかった。
そしてその触手は私の体から引き抜かれた。穴の空いた関節だと、私は立つこともできずにその場に倒れてしまった。
だけど、串刺しにされた関節が治る感触がする。
たぶん骨も一緒に再生してる。虚を突くなら今!
私は治ったばかりの体をフルに使い、串刺しにされた時に落とした銃を拾って撃ち――――
「………………!」
怪物の足で銃を踏みつけられ、私の銃はいとも簡単に踏み潰され壊された。
ついでとばかりに、私の胸を触手でひと突き。胸の奥。心臓に穴を開けられた。胸から血がドバドバと吹き出たけど、これもすぐに塞がり治った。
もしかして私、もて遊ばれてる…………?いや、今!
足に力を入れ、体を少し丸めて、全力で踏み込み頭突きを喰らわせる。
腹に頭突きを喰らった怪物は、少しだけ吹っ飛んで、その勢いのまま私から離れた。はなから怪物相手に銃が効くとは思ってない。
「ぜぇぜぇ……ふぅ…………はぁ、はぁ…………」
防護服はもう邪魔。あの怪物の一撃の威力は到底耐えられる物じゃ無い。
そのお陰で防護服は穴だらけのボロボロ。私の体が治っても、防護服は治らない。
仕方ないから、その場に脱ぎ捨てる。
怪物はただ何もせず傍観してた。私にあの怪物の相手は荷が重い。私の攻撃を軽くいなし、致命的な攻撃を何度も繰り出す。
ハズレの黒果実を食べた私じゃないと即死。
それを食べた私でも、今の所何もできてない。もう万事休す……とはならないよ。
「……………?」
確か前に新條君が言ってたっけ。2度目の異常界調査の前……腕相撲をした時だったかな。たしか――――
◆◇◆◇
私と新條君の腕相撲が引き分けで終わった時。
「はぁ、はぁ…………なぁ、常盤って今のが本気か?」
「ぜぇ、ぜぇ……本気だったよ。じゃなかったらここまで息が切れていない」
「そうか。そういや常盤って痛みを感じないんだよな」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「火事場の馬鹿力って知っているか?」
「流石に知ってるよ。それが…………もしかして……」
「火事場の馬鹿力。それを意図的に引き出せれば、あの世界でも生き残れる可能性がグッと上がる。常盤の再生能力と痛みを感じない体質なら、火事場の馬鹿力の反動をある程度帳消しにでき、相手からのどんな攻撃も、怯むことは無くなる。そうすればあの怪物相手にも善戦できる。俺の予想を並べてみたが、どうだ?」
「いやぁ、流石にちょっと………………」
「そうか。まぁ、確定情報も無いただの妄言だ。忘れてくれ」
◆◇◆◇
多分、今ならできる。新條君の言葉が頭から離れなくて、あとで色々と調べてみた。
危機的状況、今。
興奮状態、たぶんしてる。
ストレス、ボカボカと体に穴を開けられて、溜まっていない訳がない。
崖っぷち、防護服が使い物にならなくなった。そして脱ぎ捨てた。
「あー、すぅ…………あああああああ!!!」
大声で一気に興奮状態に。以上これらによるアドレナリンの過剰分泌。
だけど、これだけやっても、本当に火事場の馬鹿力ができるかは分からない、賭けの勝負。
「……………………」
目の前の怪物は私の大声に驚きつつも、足を前に動かし、私に接近して来た。
「……?!」
目で追えなかった……分からなかった……!私はいつの間にか、空を飛んでいた。
私の上から、怪物の触手が、私の頭に向かって迫っていた。それを認識した瞬間に腕を動かし、怪物の触手を両手で掴む。
触手を掴んだのは一本。他の3本の触手が私に向かって来た。私は――――――
「……?!」
がむしゃらに。ただがむしゃらに私は手を動かした。私の手には千切れた怪物の触手。怪物は訳が分からない様子で、自身の千切れた触手の根元を見て触れていた。
他の3本の触手で穴を開けられた頬、脇腹、太ももの傷は治った。気が付けば私は、空から床にいた。
勝機ができた。火事場の馬鹿力ができた。怪物の触手は治らなかった。これで、私のハズレの黒果実の効果が切れるのが先か、怪物の体が持つかの持久戦。
ん?通路の奥から音が――――
「えー……」
私が今いる通路の奥から、6体のロボットがやって来た。たぶん。けれど絶対に。あの怪物の援軍。流石に不味い。
ロボットと怪物が連携したら、今の私でも――――
「?!」
バガボカと音を立てながら、怪物がロボット6体を木っ端微塵に破壊した。なんで…………敵対?
まさか、ここにいたはずのロボットを破壊したのは、目の前の、あの怪物……!
理由は分からないけど、私にとっては、行幸。だって一対一でも死にかけてるのに、さらに援軍が来たら死ぬ。絶対に死ぬ。
「………………」
床に落ちた残骸を踏みつけ、怪物が私に向かって来た。怪物が消えた。怪物が現れた。
怪物は私の後頭部を殴り、私の目の前に現れ、引き千切られた触手を除いた3本の触手がただ一点に、私の頭に向かって射出された。
後頭部を殴られたことで、私の頭が下に向かう。そう簡単に、やられる訳には行かない!全力で足腰に力を入れて、床を蹴る。
触手を避け、怪物の懐に。そのまま全力で力を込めて、怪物の頭を、黒いヘルメットごと殴る!
黒いヘルメットは私の拳が触れた瞬間に粉砕し、頭を殴ったのと同時に、怪物の体が通路の壁に吹っ飛んだ。
頭がクラクラする。殴った私の手は、殴った私の腕は、見るも無惨な形となって所々から血を垂れ流していた。
だけど、すぐに元の形に戻り治った。通路の壁に激突した怪物と、怪物から生える触手は力無く床に落ち、ピクリとも動かず完全に静止した。
念の為、触手を全部引き千切り、怪物の首を、防護服の下にある戦闘服に隠し持っていた、まだ何とか使えるナイフで切断する。
怪物は、動かなかった。
「はぁ……はぁ……はぁぁ……!」
やっと倒せた。流石に疲れたなー。
でも思ったよりもあっさりと倒せた。
今まで出会った白い怪物や笑顔、そしてスキンリーパーに百手。どれもこれも頑丈だったりそもそもの問題で、まともな物理的攻撃は効かなかった。
けど、この怪物は防御力、耐久性が鍛えてる人間並に低かった。
だから殺せた。
さて、厄介なのは倒したし動力室に――――
「……マジ?」
すぐに怪物の死体を確認した。死体はそこにあった。目の前には、今さっき殺したはずの怪物。
複製体?いや、今はそんなことはどうでもいい。
私の中に最悪のことが思い浮かんだけど、すぐに振り払う。
扉の向こうには新條君と白銀ちゃんとコアがいる。絶対に行かせない。怪物は空気を切る音を鳴らしながら、間髪入れずに私の頭を狙って来た。
ぜっったいにバレてるなぁ…………
実際に検証とかしてないけど、たぶん、頭を潰されたら死ぬってことに。取り敢えず、もう一度怪物の懐に入り怪物の頭を殴…………ろうとしたけど、2本の触手が殴ろうとした腕に巻き付かれて、その場に固定された。
もう片方の腕を使ってもう一度殴ろうとしたけど、残った2本の触手がもう片方の腕に巻き付つかれ、完全に固定された。
触手の力が強くて動けない。
腕を前に出すことも引くこともできなかった。
両腕を巻き付き固定して来た怪物は、2本ある腕、そして手を強く握り、私の頭を殴って来た。
固定されたせいで、その拳を避けれず直撃した。何度も、殴られた。でも、怪物の拳は軽かった。まぁ、触手に比べたらってだけで、ボクシングチャンピオンの連打と同じくらいだけど。
脳が多少揺れる。でも怯みはしない。痛覚無いし。固定されていない足を動かして、人間でいう股間部分に足を振り上げる。
今の攻撃で、怪物の股間からバキベキと音がして、
怪物が一瞬怯んだ。そして触手の巻き付きが緩んだ。
その隙を狙い、触手を振り払い、怪物の頭に回し蹴りを喰らわせる。怪物の頭は、怪物の体から引き千切れ、頭だけ遠くに吹っ飛んだ。
「ふぅ……」
厄介だった。私の動き、戦い方に適応していた。私の情報とかを共有でもしているのかな。
最初の怪物は拳を使って怪物を殺し、新たに現れた怪物は私の拳を警戒して腕ごと無力化された。まさか……
いや、今は取り敢えず今は休憩を――――
「マジ、かぁ……私今日死ぬかも」
また新たな怪物。2体殺した怪物と全く同じ姿。もしかして、これがコアが言ってた異常……?
断言はできないけど、たぶん、自身の生命が絶たれ死んだ時、死んだ場所の近くに記憶を保持したまま復活する。とかかな。
あの怪物複製体で、何体もいる可能性とか考えたけど、それなら1体ずつじゃなく一斉に来ればすぐに私を殺せるから、
たぶん復活で合ってる。そして異常が1つとは限らない。他にも何かあるかもしれない。
どっちにしても、3分時計くらいの凄さとヤバさを持ってることは分かった。
「ふぅ」
新條君、早くヘヴンシステムの動力源を回収して欲しいな。
じゃないと死ぬ!私でも流石にヤバいよ!無理だよ無理無理無理!こんな化け物を1人で相手は無理だよ!!
新條君みたいに多才な訳でも、白銀ちゃんみたいに頭が良くて色んな発明ができる訳でも無いよ!
無理だよ!防護服もボロボロだし!
この怪物相手じゃ私はサンドバッグだよ!早く回収してぇー!!




