6話 人類の夢、無限のエネルギー その1
暗く未来的な廊下を懐中電灯で照らし、コアに指示された通路を走る。
さっきの小型ロボット以降追手は無し。
有難いことだが、今は素直に喜べない。
さっきのビル倒壊のように、たまたま助かる可能性は無に等しいだろう。ロボット側も、このことを受け相当警戒しているに違いない。
「何でワタシ達はあのロボットに追われているんだ?」
白銀が常盤に抱えられながら質問した。
全てはあのロボットの、地球には存在しない言語から始まった。
今の所、あのロボットは3分時計を狙っている。ということしか分かっていない。
「恐らく、その腕時計の異常が原因だと思われます」
コアがそう応えた。第二評議長はこの世界を”異常”界と言っていたが、何か関係があるのだろうか…………?
分からない。そもそも、こんな狂っている世界を理解しようとするのが間違っている可能性もあるが。
「異常って何?」
「異常とは、基本法則から逸脱した現象、物体、場所を示す総称です」
「…………この場合、3分時計は物体に当てはまって、異常は時間速度操作が当てはまるのか」
流石理解が早いな。白銀は。今の説明で、異常とやらについてはなんとなく分かった。
「はい。その通りです。そしてその異常は、専用の機器を用いることで、異常を観測、感知することが可能になります。
ですので、その腕時計から発せられる異常を観測され、ご主人様達が追われることになったと推測されます」
このエリアへの道を作った時計が、ここでは命を狙われる原因になったのか。
「もう1つ質問。この3分時計の時間速度操作を、あのロボットに使ったんだけど…………あのロボットには効かなかった。コアは何で効かなかったか分かる?」
「デルメントルトには、この空中都市を守る防衛プログラムがあります。その名は栄光防衛軍。簡単に言えば、警備隊のような存在です。
そして、栄光防衛軍の警備用ロボットには、対時間不可逆シールドが常時展開されています」
対…………何だそれ?
「対時間不可逆シールドって何?もしかしてだけど、そのせいで効かなかったの?」
「その通りです。対時間不可逆シールドとは、異常によって加速、減速した時間に影響を受けず、自身に流れる時間に縛り付けられるシールドです。エリアの時間が停止してもシールド展開中は停止せず、時間が加速し、文明が滅びるほど経過しても、シールドさえ展開していればその加速の影響を受けません。そう言うボクにも、対時間不可逆シールドが付属されています」
「な、なるほど…………」
白銀は驚きを禁じ得ない顔でそう呟いた。俺としても、もう色々と、理解の範疇を超え過ぎいる。
そもそも何を想定してそれを付けたんだ……?
いや、まさかこの都市を滅ぼした何かが時間を操作していた…………?
いやまてまて………………はぁ、考えが飛躍し過ぎた。今は目的に集中しなければ。
「あ、そうだ。何だかんだで着いて来てもらってるけど、いいの?その、研究員と、たぶん生活した都市を、機能停止にしようとしているけど…………」
「問題ありません。ご主人様の命令に従います」
「あ、ありがとう。いや、んー変かな?急に……ありがとうって」
常盤がコアに感謝を述べると同時に、自身が言った感謝についての自問自答を始めた。
走り始めてから5分ほどが経過したが、廊下に変化は無く、ただ似たような廊下を走っている。
「なぁ、これって、どこまでこの廊下を走ればいいんだ?」
「そろそろ廊下を出ます」
コアがそう応えた。……廊下を出る?少し考え込んでいると、廊下の奥に薄暗い光が見えた。
「あそこだよね!?」
「そうです。そこは足場が不安定の為、足元にご注意下さい」
コアの注意が言い終わると同時に、長いかった廊下を出た。
これは、床……いや地面か?目の前には灰色の粉が積もった灰色の世界。
俺はただその光景に、漠然としていた。
爆心地か?ここは……この空中都市の一角を隕石で吹き飛ばしたような、空すら見えるほどの、目測で10000mはゆうに超えるほどの丸い抉り後。
その中腹くらいの場所に出た。
「ここから別の通路に移ります」
凄まじい景色に呆気に取られていると、コアが地図を出して道を指し示した。
「ご主人様達がいるのはここで、動力室に続く通路はここです」
コアは俺等がいる地点を緑色の点で示し、動力室に続く通路を赤色の点で示した。
「ここがここだから、右に進んだ所の…………あそこ!」
常盤が地図を見ながら、動力室に続く道を指でさす。
「遠いな。しかも下るのか。コアの言う通り、足元に注意しないと」
「90°とまではいかないけど、40°くらいかな?まあまあ傾斜が酷いね」
穴は、地上に近づくほど傾斜が酷く、底に近いほど緩やかになっていた。
「そもそも、何でこんな穴があるのか不思議で堪らないんだが…………」
「いまさら?」
それもそうか。異常界の現象や地形に理由なんて求めたら、恐らく永遠に終わらない。
「今更だったな」
「いい加減動いて。いつまでここに停留する気?」
今の会話でほぼ空気になっていた白銀が、少しばかりの怒気を含ませそう言った。流石に動くか。
足元に注意し、早足気味に歩きながら向か…………?少し眩しい?出所は上……上空から光が…………まさか?!
「走れ!見つかった!」
俺と白銀を抱えた常盤は、全力で走りその場から離れる。ロボットに見つかった。
まぁ、当然だな。こんな開けた場所では、ロボットに見つけて下さいと言っているような物だ。
しかし、その場から離れて何秒経ってもレーザーが射出され…………あー、マジか。少し離れたことで分かった。上の光はただの光。
浮遊するロボットが大きなライトを持って浮遊しているだけだった。しかし、少し遠回りな策を講じる奴らだ。本命はまたどこかに――――
『ダダダダダダダダダダダダ――――――』
小型ロボット達が死角から現れ、実弾の弾丸を連射して来た。
その数50ほど。
言ってはなんだが、水平直線に飛ぶレーザーよりも、狙いが定まらない実弾連射の方がキツイし良く当たる。
レーザーのように防護服を溶かすほどの威力は無く、1発の威力は普通の弾丸だった。
しかし、この弾幕でレーザーが来たら絶対に死ぬ。
幸いこの防護服が防弾チョッキくらいの耐久性を持っていたから良かったものの、生身だったら致命、傷………………白銀は生身だった!!
「白銀!大丈夫か?!」
「コアが弾を防ぐシールド張ってくれているからなんとか!」
白銀を抱えている常盤と、常盤のすぐ側にいたコアの周囲に青白い球体の膜が張られていた。
「正確には、外部からの物理的影響を弱化させる物ですが」
良かった。しかし、俺もあの膜の内部に入りたいが、
大きさ的に定員オーバーか。
「痛て」
弾丸が痛い。防護服ありでも痛い。少しでも破壊するか。俺の銃にはまだまだ残弾数はあるので、ガンガン小型ロボットを撃ち落とす。
「痛て」
ある程度進んだ。距離的には3/4くらいか。
しかし、小型ロボットを壊しても壊しても全然減らない。しかも大型ロボットが出張って来た。
こっちはレーザーは使わず爆弾を使っているのが幸だな。いや、もしかしてレーザーの貫通力を危惧して使っていないのか?
地上は完全に死んでいたが、コアから聞いた動力室しかり、今でも機能している空間や装置がまだ生きているから使えない、という可能性が高い。
「コア!さっき言ってた防衛システムって止められないの?!」
「防衛システムのシャッドダウンの希望を認証。栄光防衛軍に打診しま――却下されました」
「はっや」
よほど止められたく無いのか、コアが言い切る前に却下されたみたいだ。
「代替案を提示します。住民証明チップを持つのはどうでしょう?」
「チップ?」
常盤が不思議そうな顔でコアに聞き返した。
「チップを持てば都市の住民と認められ、都市のあらゆる交通機関、あらゆるサービスを受けられます。しかし、現状チップを製造することはできませんが…………」
「分かって言ってるよね?」
常盤はコアを眺めぼやいた。




