5話 灰の大地、無命の都市 その1
未来的な建造物が並んでいたのだろうと推測できるビル群。
綺麗で頑丈な道路が続いていたと思われる道。
かつて何かとの戦闘を想起させる機械と無数の戦闘跡。
荒廃し、あらゆる建築がボロボロに崩れ、人も動物も植物も怪物すらいない、雲はただ海の如く途切れること無く地平線まで続く、一面灰に包まれた灰色の世界。
空は濁り燻り、決して綺麗とは言えず、エリア7四季流れる丘の空とは大違い。
空はあるが太陽のような恒星らしき物は見当たらず、灯りらしき物は無く、不思議と明るかった。
突然背後からボトっという音と共に、地面に積もっていた灰色の粉が舞い上がる。
舞い上がる灰色の粉を振り払い、粉を丸ごと被った白銀が立ち上がった。
「けほ、けほ。ここはエリア674終末虚街。空中に浮かぶ未来都市だった場所。理由は分からないけど、今は見る影も無いほどに荒廃したエリア」
このエリアの説明を聞きながら、改めて周囲を見わ…………あれ?
「常盤はどこ行った?」
「あ!」
周囲にはただ灰色が続くだけで、少し目立つあの防護服が見当たらない。
「白銀。1つ聞くが前もこの場所に落ちて来たか?」
「…………同じはず。何か別の力が加わったか、もしくは――――」
その時、ボトっという音が少し離れた場所で聞こえ、急いでその音の元に行くと、灰色にまみれた常盤がいた。
「白銀ちゃん、何ここ……?」
このエリアの景色に疑問を浮かべた常盤の質問に、少し遅れて来た白銀がさっき言わなかった情報を織り交ぜて返答した。
「そう。ここはエリア674終末虚街。空中に浮かぶ未来都市だった場所。ここに、ヘヴンシステムの動力源がある、はず。
1年ほど前に決死の思いでここに来れたけど、このエリアの探索中に壁抜けバグが発生してエリア2に戻された。その結果、ワタシはこのエリアについて全く知らない。壁抜けバグであまり探索できずに戻されたし、現世帰還隊に残された書類とかを軽く漁っても、このエリアについての情報は全く無かった。
だからこそ、このエリアを探索して、ヘヴンシステムの動力源を探す!スイーツを食べる為に!」
拳を上に突き出しながら、口から欲望が溢れ出していた。
まぁ、毎日あの黒果実じゃ気が滅入るだろうしな。
「ヘブンシステムの原案の設計はここにあった。?なんだその顔は。ワタシたった1人だけであの発明を作ったとでも?8割近くが風化してボロボロだったからワタシのオリジナル要素が強いし、文字は分からなかったが、設計図は細かく書かれていて、原理も仕組みもある程度理解できた。
だからこそ、あの設計図が無ければ、ヘヴンシステムをあそこまで作り上げるのに、もう何年か掛かっていただろう」
荒起博士も大概だが白銀もやばいな。良い意味で。
俺と常盤と白銀の3人でこの都市を行く当てもなく探索している。
入れそうな建物があればその中を探索し、道端に落ちている壊れた機械を見つければ、軽く分解してその中身を調べる。
高度過ぎて俺には分からなかったが、白銀は理解しているようだった。しかし、白銀が求めている動力源は何処にも見つからない。
ありそうな場所は見つけたが。
「白銀。あそこに例の動力源があるんじゃないか?」
「ありそうではあるんだけど、ヘリも航空機も無いワタシ達に辿り着けると思う?」
「そうだよな…………」
ありそうな場所。それはこの都市から離れた場所に浮かぶ、もう1つの空中都市。見た限りはそこまで広くは無く、ここと同じく滅んでいるみたいだが、その都市は俺等がいる都市よりも高く浮遊していた。
この都市もそうだが、浮遊の持続とあの都市の小ささから動力源を見つけやすいと考えた。
実際は遠いし高いしで無理だったが。
「あ、そうだ。さっきは雑に扱ってすまなかったな」
エリア65で、年頃の少女を結構雑に扱ったことを、そしてまだ謝っていないことを今思い出した。
「別にいいよ」
吐き捨てるように言った。まだ少し怒っているらしい。
探索を続けていると、遠くから砂埃が巻き上がるのが見え、そう時間が経たずに何かがこちら側に接近して来た。
俺と常盤が銃を構え臨戦体勢に入ると、何故か白銀が急にあわあわし始めた。
その様子からあれは何かやばい怪物なのか?と聞くと、白銀は知らないと応えた。
「何あれ何あれ何アレ?!」
混乱を隠せない様子の白銀を後ろに、俺と常盤は白銀を守る為に前に出る。
エリア2のディメント・ホテルで、ある程度だが怪物のやばい姿に慣れた。息を落ち着かせ、接近する何かに対し銃口を向ける。
一体どんな怪物が現れるのかと気を引き締めていたが、俺等の前に現れたのは怪物でも人間でも無く、眩しく輝くボディを持ち、空中を超低空飛行する高さ3m近い丸い機械……ロボットだった。
そのロボットとの距離が10mという所まで接近した時、ロボットが空中浮遊を辞め、そして装甲が一部外れて4本の足となり、地面に着地した。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
電子音が混じった機械的な声で、全く分からない言語を話して来た。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
全く同じ言葉だったが、地球に存在する言語では無いので分からない。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
ロボットの中から銃らしき物が出てこちらに向けられた。
「常盤」
「うん…………せー……の!」
その掛け声と同時に後ろを向き、ロボットから全力で逃げる。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……!」
白銀の背中を叩き、混乱の世界から現実に引き戻す。
「いっ……たぁ……」
「走れ!」
機械的な声を発しながら、ロボットが4本の足を動かし追いかけて来た。命惜しくば逃げるが吉。
見るからに現代兵器じゃまともに太刀打ちできないようなロボット。まともに戦闘できるか分からないし、言語が分からない限りはロボットの目的が分からない。
「新條君!避けて!」
常盤の声を聞き、即座に地面を蹴り横に移動する。その瞬間、触れた瞬間に蒸発しそうなレーザーが俺がいた場所を通過した。
レーザーの出所はロボットから出ている銃らしき物。常盤と白銀は俺の反対側に移動し避けていた。
ロボットの銃口が常盤の方を向いた。常盤が白銀を抱え、レーザーを上手く避けながらこちら側に逃げて来た。
俺はその間に手榴弾を取り出し、ロボットの足元に投げる。手榴弾の爆発で地面の灰色の粉が舞い上がり、ロボットの銃口が明後日の方向を向いた。
その隙に常盤が白銀を降ろし、俺は2人と一緒にロボットから逃げる。
しかし、そう時間が経たずにロボットがまた追いかけて来た。目的さえ分かれば何とかなるかもしれないが、だがどうやって目的を知れば…………
「ん?……新條君ストーップ!」
「え?!」
「ワタシは?!」
「白銀ちゃんは走って!」
常盤が足を止め、何故そうするのか分からないが、俺も足を止めてみる。
白銀は常盤に言われた通りにそのまま走っていた。
このままだと死ぬんじゃないか?と考えていると、ロボットが俺と常盤を無視して走る白銀を追いかけて行った。
「追いかけるよ!」
「わ、分かった」
あっけに取られている俺を無視し、常盤がロボットを追いかけ、俺もその後について行く。




