4話 現世帰還への道 その5
「何をしたかったんだろ……あの人?は」
「さぁな。口振から推測するなら、ただ興味があって接触した、みたいな感じだろう。実際何もされず、イテ、拠点に帰れたし」
「そうだね。新條君、あれから5時間が経過したらしいけど、大丈夫?動ける?」
「無理」
あの部屋が元に戻った後、既に3分時計は回収していた為すぐにヘヴンシステムがある拠点に帰った。
怪物に遭遇することは無く戻って来れたが、無事に拠点に戻った瞬間気が緩んだ俺の体は限界を迎え、その場に倒れてた。
俺の体は限界の迎えた結果、体全体に動けないほどのキツイ筋肉痛が起き、それから5時間経過しても体全体の筋肉痛が治ることは無かった。
「いでで、痛て。もう少し右」
「りょーかーい」
筋肉痛で体が動かない為、常盤に俺の体のマッサージを頼んだ。やったことは無いそうなので、俺がその都度教える。これでこの筋肉痛がマシになればいいが……
「仲良いな、キミたち」
片眼鏡を掛けた白銀が欠伸をしながらこっちにやって来た。
「体はどうだ?」
「筋肉痛で痛いし動けない。白銀、あれはどうなってる?」
うつ伏せの状態で口を動かした。頬が痛い。
「頼まれた防護服の修復だけど、予想以上のじゃじゃ馬だった。一度これの製作者の頭の中を覗きたいくらいだ」
スキンリーパーに切断された常盤の防護服、その修復を白銀に頼んでおいた。
「厳しそうか?」
「いや、ワタシは世紀の天才発明家!ここでへばったら名折れ!という訳でもう少し頑張ってみる」
そう意気込んで早足で戻って行った。世紀の天才発明家……の真偽は分からないが、俺や常盤よりも腕は確かなのは明らか。
防護服に救われた場面は多い。だからこそ、防護服が無ければこの異常界とやらは危険でしかない。
「もう少し強くできるか?」
「分かったー」
右手と左手を同時に使い、俺の背中をほぐす。ありえない速度で常盤の右腕は完全に治り、神経もほぼ繋がった。
たった5時間で完治するとは……
「はぁぁ……」
溜息をついた。常盤の再生能力も驚いたが、その驚きを吹き飛ばした、異常評議会という組織。
現世帰還隊も白銀も知らなかった。それがどんな意味を成すのか……
「異常評議会に異常生命体……頭が痛い……」
「現実、受け止めきれてる?」
「そういうものだと割り切ってる」
異常評議会についてだが、取り敢えず今は考えないことにした。今考えても仕方ないし、一度荒起博士も交えて話した方が良いと判断した。
この手の話題は得意そうだし。
「これでいいか?切断箇所はワタシのできうる限り直した。多少不恰好にはなったけど……」
防護服が切断された部分に、少し目立つ布のような物が貼り付けられていた。白銀は不恰好と言っているが、性能が良ければ何でも良いだろうし、そもそも常盤は全然気にしていなかった。
「まだ筋肉痛はまだ治らないのか?」
「全く。多少腕は上がるがその程度……」
俺がそういうと、白銀が思い付いたかのようにホールにある残骸の山に近づいて行った。
「たしか。ワタシの発明の中に……あったあった。これを使えば治るかも」
白銀が残骸の山から一本の警棒めいた物を取り出した。それを手に取り、白銀がカチッとスイッチを押すと、その瞬間棒からバチバチと電撃が迸った。
嫌な予感がする。
「白銀……それは……?」
「対暴漢用スタンバトン、の超強力改造型バージョン」
嫌な予感が的中してしまった。
「今すぐそれを降ろして元の場所に戻してくれ」
「電撃で体をほぐす。良い案だと思ったんだけど」
そう言いながら、スイッチを切りその棒を残骸の山に突き刺した。
常識人かと思っていたが、以外とズレているな。
3分時計の回収から1日が経過した。
1日が経ったことで、動けなかった原因である筋肉痛が取れ、やっとまともに歩けるようになった。しかし、この24時間の間全く何も食べていない。
ここにある唯一の食糧は黒い果実。
だがほぼ全てが地味な苦味を持ち、たまに失神するレベルの不味い果実が混じっている。食べたいとは到底思えない。
何も食べてはいないが、微妙な水は飲んでいる。黒い果実よりはマシ。
……だが、背に腹は変えられないか。
「白銀……あの黒い果実はどこだ?」
「私も……」
俺の後ろから常盤がやって来た。常盤も黒い果実を食べず、微妙な水を飲んでいた。流石にアレは好きに食べようとは思わないよな。
「お腹が空いたなら、そこの箱に黒果実を入れてあるから適当に持ってって」
あの黒い果実は黒果実というのか。白銀は3分時計を片手に持ち、片眼鏡を掛けて現世帰還隊が残したと思われる3分時計の使い方を探し、山のような書類と睨めっこしていた。
その様子を片目に、箱に入った黒い山に近づき山から1つ手に取る。一緒に常盤も黒果実を手に取った。
あの苦味と不味さを思い出し、躊躇してしまったが覚悟を決めて黒果実をかじる。
「……!」
「……?!」
黒い果実をかじった瞬間、とっさに俺は口を手で押さえ常盤はその場にうずくまり、その様子を見た白銀が呆れた目で入り口とは別の扉の先を指した。
「下水はあっち」
常盤と一緒にその先に向かって全力で走った。
「ほんと運が悪いな、キミたち。5%……だよな。なんでまたハズレに当たるんだ……?」
ただ純粋な疑問が白銀の口から溢れた。そう言われても知らない。俺だって好きでハズレを食べたい訳でも無い。
「……これを口に含んで」
白銀から蓋がしっかりと閉められた小さな容器を渡された。
「これは?」
「味覚消失麻酔液。ワタシが発明した中で1番涙を流した一品。これがあると無いとじゃ大違いだし死活問題」
……何故早く渡してくれなかったんだ。
「何故早く渡してくれなかったんだ」
「道連れが欲しかった」
真面目な顔で即答した。
ともかく、食糧が不味ければ味覚を消せばいい。か、やろうと思ってもできないな。
「これを口に含んだら、1分以内に含んだ麻酔液を外に出す。そうすれば大体20分くらいは味覚が無くなるよ。あと、これは絶対に飲み込まないで。吸収されやすく作った麻痺毒だから」
絶対に飲むなと釘を刺し、俺と常盤に小さな容器を渡された。
飲み込まないように注意しつつ、口に含んだらすぐに白銀から渡されたコップに麻酔液を吐き出す。
結果、舌が痺れた。
この状態で黒果実を食べると、全く何も味がしなかった。食事がただ生存の為の作業になるが、あの苦味や不味さを口に入れるよりもマシだ。
一緒に麻酔液を使用した常盤が感動で涙が溢れていた。黒果実は栄養だけは豊富な為、満腹になるまで食べる。
味がしないのがこんなにも嬉しく感じるとは……
満腹になり横になっていると、常盤が寝転がりながら白銀に声を掛けた。
「白銀ちゃん。そういえばなんだけどさ。
なんで私に会うまでに3分時計に関して調べてなかったの?」
それもそうだ。あらかじめ調べていれば書類と睨めっこしなくてすむのに。
「逆に聞くけど、あの状態のエリア7をワタシ1人で攻略できると思う?」
「あー……」「あー……」
普通に無理だな。
それから数十分が経過し、常盤と一緒に体を動かしていると、様々な書類の山から白銀が嬉しそうに立ち上がった。
「なるほど!やっと分かった!」




