4話 現世帰還への道 その4
部屋にあった椅子をへし折り、包帯を使い常盤の右上腕に固定する。
流石に常盤の腕が切り落とされた時は終わったかと思ったが、常盤の再生能力にハズレ果実のブースト。その結果がこれとは、常識が全く通用しないな……
「腕の状態は?」
「んー。さっきよりも良くなったと思うよ。痺れはあるけど、くっ付けたばかりよりも、手とか腕とか動くようになってるし」
右腕を軽く動かしながらそう言った。
常盤の右腕はもう心配しなくて良いとして、問題は扉の向こう側。スキンリーパーはもう百手に轢き潰されたと思うが、また別の怪物が現れたらもう埒が明かない。
正直言って怪物の相手なんてしたく無い。
小さく溜息をつき、廊下に続く扉を―――――――え?
「次はなに?!」
「は?!」
俺と常盤、そして白銀と一緒に怪物から避難していたこの部屋が変わった。
部屋全体が暗い漆黒に染まり、そして漆黒の中から黒く赤い目?らしき物が現れた。その目は次々と開き、壁、天井、床にまで黒く赤い目が開き、部屋の奥、扉の反対側を残し黒く赤い目が部屋を隙間無く覆い尽くした。
「白銀!これは―――」
「知らない!現世帰還隊にもこんなことが起きたなんて記録無い……!!」
見て分かるほど白銀が混乱していた。
この中で1番理解があるはずの白銀が知らないとなると、確実にこれは緊急事態と思って良いだろう。
数百もの黒く赤い目がこちらを覗く。白銀が混乱している最中、依然として何も起きず、目は沈黙したままこちらを除き続ける。
今すぐ逃げ出した方が良いのだろうが、部屋全体が漆黒に染まったことで扉とその縁が分からない。この目が何をするのか、何を引き起こすか分からず、下手に動けない。
これは常盤も白銀も同様で動かずその場で止まっていた。俺含め3人が動けずにいると、部屋の奥の目が無かった箇所に、明らかに人では無い大きな怪物の口が現れた。
『⬛︎⬛︎⬛︎』
日本語でも、英語でも無い言語。中国語スペイン語フランス語アラビア語ヒンディー語インドネシア語ポルトガル語ロシア語ドイツ語ベトナム語イタリア語トルコ語…………
俺が知っている地球上のあらゆる言語に当てはまらない。どの言語にも類似しない。
どの言語にも類似せず、発音すら人間が出せる声では無い声をその口は発した。
『⬛︎⬛︎メ⬛︎⬛︎⬛︎、ハジナタマ⬛︎テ、ははらさままして……初めまして、勇敢な冒険者』
男とも女とも取れない、子供のようにも老人のようにも取れず、高くも低くも取れない、不可思議で不気味なその声が漆黒に染まった部屋に響いた。
『もしくは危険を求めるチャレンジャー。私はこの異常界に存在する組織』
異常界……言葉から察するに、この狂った世界の名前…………
『異常評議会の代表する4体の異常生命体の1人、第二評議長という者だ』
「異常……評議会……?!白銀――――」
「知らない。そんな組織見たことも聞いたことも無い、前任者のノートにも…………!!」
余りの事態に白銀が頭を抱えた。異常評議会、異常生命体、評議長、頭が痛くなってきた。
『個体名新條蓮。個体名常盤凪沙』
?!俺と常盤の名前を?!何故……
『何故知っている?だろう?私は知っている。地球という惑星を。日本という国を。人間という種族を。そして、私と同じ評議長から聞いた、アビスシステムという装置の名を。私は求めている。失敗を、予想外を。君達2人、そしてアビスシステムを創り上げた人間は私の思考と予想を超えた。
だからこそ、順調ではつまらない。だからこそ、私はアビスシステムに小さな悪戯を仕掛けた』
まさか、あの時亀裂が消滅したのは……
『個体名新條蓮。君の考えの通り、私がアビスシステムにエラーを仕組んだ。フフ、何故思考が読まれているのか不思議だろう?
脳波の揺れ、血脈速度、体温の変動値、息づかい、思考を読むのは容易い。この小さな部屋を包んだこの黒は私だ。見つめ続ける目は私の目だ。君達は私の中にいる。そう心配しなくても、私は君達に危害は加えない。私は知りたい。この先君達が何をするのかを、行く末を。
……やはり独り言はつまらないな。よし、アビスシステムに悪戯をした替わりとして君達の質問に1つ応えよう。何故私がこんなことをするのか疑問だろう?私の研究が芳しくない。それ故に私は新たな興味にそそられた。それだけだ。
ちなみにだが、1つ以上の質問はしないでくれよ、情報を喋りすぎると私が仲間に怒られる』
途中から、初めの雰囲気と威厳はどこへやら。人間らしい言動から、この人?がお茶目に見えて来た。しかし、質問、か…………一度思考を正そう。
異常評議会とは何か、この異常界はどんな世界なのか、あの怪物達は何なのか、知りたい疑問が激流のように流れた、何を聞くのかまとまらずにいると、見かねた常盤が口を開いた。
「第二評議長さんの名前は?第二評議長って名前じゃないよね」
『ほう?』
それもそうだ。名前の文化があるのか分からないが、
名前を知ればそれは重要な情報となる。
常盤が質問してくれて良かった、俺が質問するにしても何を質問するかまとまらなかっただろうし。それにしても、常盤は恐れ知らずだな。
『名前……か。いいだろう、私自身の種族の正式名称も教えよう。私の正式名称は半液状型高次元侵略種体、最上位存在、小鳥遊椿だ』
はい?たか……なし?この怪物が?それは日本人の名字のはず……常盤も……白銀も、小さく口を開き固まっていた。
『遠く無い未来、私の同僚が君達に会うだろう。
その時までこの異常な世界群で生きている事を願っていよう。それでは、私はこれで』
第二評議長……小鳥遊椿と名乗った怪物の口が閉じ、口があった箇所から次々と黒く赤い目が閉じていき、部屋は何事も無かったかのように、漆黒に染まった部屋もただ普通の部屋へと戻っていた。
ただ、啞然とするしか無かった。いきなり大きな爆弾が投下された。
ああ、頭が痛い。体が痛い。




