4話 現世帰還への道 その2
「ふう。目的地とうちゃーく……はぁー、終わったかと思った……」
白銀がその場にへたり込んだ。
暖色の光が照らす廊下。その廊下には複数の何も書かれていない扉と、070号室と書かれた扉があった。
俺はへたり込んでいる白銀に視線を移す。道中の障害を乗り越える為に必要な3分時計。恐らくそれがこの扉の先にあるのだろう。
副隊長のノートに書かれていたこと、白銀が今まで手に入れずにいたこと。
この2つで危険な場所だと想像できる。
百手に遭遇してからは他の怪物に遭遇することは無く、比較的安全に到着したが、多分ここからが本番だ。死なないことを願おう。
「あ、そうそう。ここには百手は来ないから。この廊下は百手の巡回ルートから少し外れているんだよね。
という訳で、この廊下は百手の脅威が無いある意味安全地帯。
この扉の先、エリア7四季過ぎる丘。攻略の説明の前に、まずはエリア7の惨事を見た方が早いかな。ワタシが今まで3分時計を入手できていない理由」
そう言って白銀が070号室の扉を開けた。
扉の先には草花が広がる小さな丘があり、そのさらに先、丘のてっぺんに1つの墓石のような物ががあった。
遠目で見えにくいが、墓石に腕時計らしき物が掛けられていた。
草花が広がっていると感じた瞬間、凄まじい速度で草木が枯れ、紅葉の風景が写し出された。
と思った瞬間爆風と豪雨が吹き荒れこちらにまで飛んで来ていた。
さらに次の瞬間、台風のような雨荒れの次は雪が降り始め、雪が地面に積もり雪原が広がると、急に豪雪が降り極寒の冷気がこちら側に吹き込んだ。
豪雪が止むと、一気に雪が溶け春のような花咲き乱れる光景が広がった。
と思ったら急に花がしぼみ、緑一色の草木が一面を支配した。
緑に支配された丘が少し暗くなり、夕立のような大粒の雨が一瞬降ってやんで一瞬降ってやんでを繰り返し、雨がやみ切ると、今度は蒸し暑い空気が流れて来た。
ただその光景に唖然とするしか無かった。常盤も余りの光景に唖然としていた。
もしや、いや、あの中を……丘のてっぺんの腕時計を回収するのか?
扉から墓石まで、目測では60〜70m近くあるが……あと、昼と夜が爆速で繰り返しているから目がチカチカする。
070号室の扉の反対側を見ると吹雪いた雨や雪が廊下に染み積もり、いくつもの枝葉が雪に突き刺さっていた。
「ん…………!おも……」
白銀が扉を閉めようと扉を押した。
しかし、爆風豪雨吹雪の壁がそれを阻み、完全に押し負けていた。
仕方ないので、扉に手を添えて押した。常盤も一緒に扉を押したが、予想以上に重かった。何とか扉を閉めることができたが、この時点で既に疲れてきた。
「はぁ……はぁ……これが、エリア7四季過ぎる丘。約180秒で四季が流れ過ぎるエリア。エリア全体の超急激な環境変化と自然現象よって侵入者を淘汰する自然の魔鏡。大体の人間は元凶の3分時計に辿り着けずに命を落とす」
体力はあまり無いのか、白銀がしゃがんで休憩をした。
エリア7は日本のように春夏秋冬があるということは分かった。
そして3分、180秒で一周、1年が経過する。約1秒でエリア7では2日が経過する。扉から見えたのは木や花などの植物と所々にある岩。動物はいない。邪魔するのは自然のみ。
俺の自己ベストは50m走5.92秒。往復で間に合う……か?
「今のエリア7にはワタシは入れない。入ったとしても生身の人間にはどうしようもできない。だからこそ、その防護服ならこのエリアをゴリ押しで突破し、3分時計を回収出来るかも知れない。そこで――――」
「常盤さんはどんなスイーツが好き?ワタシは色んなスイーツが好きだけど、1番好きなのはマカロン。冬しか発売されないっていうレア感が良い味を出しているんだよ」
「おー、マカロン良いね。好きな物でも毎日食べると飽きちゃうからね。毎日ずっと食べれない。それがレアリティを上げてるのかー。盲点だったなぁ。えっと、私が好きなスイーツはチョコケーキかな」
「お、チョコケーキ。最後に食べたのは1年前か……あれは甘くて美味かったな……」
「ぐは……!」
2人が女子トークをしている最中、俺は爆風に吹き飛ばされてエリア7からエリア2の廊下の壁にぶつけられた。
防護服のお陰で痛みは無いが衝撃はある。愚痴りたい気持ちを抑え、常盤にバトンタッチする。
「次は私かー」
白銀の作戦。
それは1人ずつ交互にエリア7に入り、3分時計回収に向かって足を進める。ただ短い作戦。
交代交代で挑戦し、休み側は体力回復。挑戦側は3分時計回収。短くとも危険な作戦。
エリア7に入って分かったことだが、豪雨やら豪雪やら落雷やら爆風やら竜巻やらで体力が凄まじい勢いで削れる。
2人同時にエリア7に入らないのは、3分時計回収が天候お祈り運ゲーだがらだ。地形的な問題なのか、エリアそのものが原因なのか、天候が荒れるに荒れる。
まぁ、防護服のお陰で死にはしない。雨や雪の寒さや、熱風や日光による暑さは効かない。
だが問題は風だ。台風や竜巻による爆風で体ごと吹き飛ばされる。まぁ、有難いことに風は扉方向に向かっている。
結果風に吹き飛ばされてもエリア2の廊下の壁にぶつけられて戻って来れる。
防護服が無ければこれだけで重症だろうが。ほんと、防護服様々だ。俺と常盤が持っていた銃はエリア7では邪魔なのでエリア2の廊下の壁に掛けて置いてある。
「―――――――ぉぉおりゃああああ!!」
常盤が全速力の全力疾走で突っ込んで行き、すぐさま風に足を取られ浮き上がり、壁にぶつけて戻された。
「負けた……作戦会議!」
開けっ放しだったエリア7に繋がる扉を閉め、攻略の為の作戦会議と言う名の攻略作戦共有を始めた。
「で、どうする?愚直に走って駄目だったから、何か案ある?」
常盤が疲れなんか知らないという声色でそんなことを言った。俺は疲れた。
「匍匐前進で進むのは?
体全体が地面に接していれば、走るよりも空気抵抗が少なく済み、風に飛ばされにくい」
何故今まで言わなかったと愚痴りたいが、今は体の内に引っ込める。
それで、提案主は白銀。順番的には次が俺。やるか……
「ファイトー!」
その声を背後で受け。俺はエリア7を匍匐前進で進む。
今の季節は春。昼と夜が爆速で過ぎて行く為、基本的に目を閉じ方向修正で目を開ける。その行為を繰り返す。
7mほど進んだところで春から夏になった。
エリア7の中で一番安全な季節は春。春も風による吹き飛ばしの脅威があるが、それ以外の夏、秋、冬が危険過ぎる。
夏は今まさに夕立やら積乱雲やらで豪雨が吹き荒れている。
雨で大量の水を被っているが、今のところ防護服内に浸水はしていない。ほんと高性能だな、この防護服。
地面に接して移動している為、泥や土埃が付着するがすぐさま雨に洗い流された。数十もの落雷がほぼ同時に轟くが無視する。
夏終わりに竜巻が来るが、何処で発生して何処を通過するかは完全に運。来ないでくれと祈るしかない。
15mほど進み、季節が夏から秋になった。夏は竜巻もあり結構危険だが、防護服の前にはそれほど脅威は無い。
しかし、秋からが本番。何度この季節に阻まれたことか……
始めは特に何も無い。だが、少し時間が経てば豪雨と暴風が吹き荒れる台風がやってくる。俺はすぐ近くにあった岩を掴み、齧り付く。そして今台風が来た。そして過ぎた。
爆風で下半身が浮き上がりそのまま風に全身が取られそうになったが、岩を掴んでいたお陰で飛ばされずに済んだ。
秋は何回も台風が通り過ぎる為、冬になるまでこの岩を掴んでいた方が良さそうと判断しその場に留まる。
いくつかの台風が通り過ぎ、木々の紅葉した葉が全て落ち、秋から冬になった。
今のうちに全力で進む。冬が危険な理由。それは雪だ。この丘は豪雪地帯と遜色無いほどに雪が降る。軽く2、3mの雪が積もり、あたふたしていると膨大な雪に押し潰される。
全力で進み30m地点まで転がり込めた。そのまま雪のこと考え体を丸め、ほとんど雪が溶ける春まで耐える。
丸めて6秒ほど経過すると雪が積もり始め、1秒も経たずに全身が雪に埋まった。
雪に埋まることによる窒息は考えなくていい。
軽く息を止めるているだけですぐ雪は溶ける。丸まっている状態で待っていると、雪が溶けていき冬から春になった。
「凄い!今までよりも目標に近いよー!」
常盤の声が聞こえた。春が終わらない内に目標に向かって進む。
40mほど進むと、丘の斜面にやっと到達した。
もう疲れて休みたいが、そんなことを愚痴る場合ではなく、体力を削りながら小さな丘のてっぺんに向かって進む。




