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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界

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3話 自称世紀の天才発明家 その1

「何故……?!今までアビスシステムにエラーなぞ起きなかった……研究員達よ!アビスシステムの復旧を急げ!新條蓮、常盤凪沙。無事でいてくれ、2人のような有能はそう簡単にスカウト出来ん……!」



◆◇◆◇



「……」

「……」


「なにか言え!」


いきなり見下げて名前を発した少女に対し、かける言葉が見つからなかった。少女は台から降り、また改造銃を向けて来た。


「で、キミたち2人はどうやってこの世界に来た?そんな完全装備で来れるような場所じゃないんだが」


「どうやって?って言われても……特殊な装置を通ってここに来たとしか……」


「……!どんな装置で来た?その装置はどこにある?この世界から戻れるのか?それは今稼働しているのか?装置は――――」


少女が常盤の至近距離にまで詰め寄り、怒涛どとうの質問をした。俺は急いで間に入り、常盤から少女をに引き剥がす。


「一回落ち着いてくれ!」


その後、少女に対して俺と常盤がどういう経緯でこの世界に来たかを一から説明した。






「今から一年くらい前に、ワタシは近くの商店街のスイーツ制覇せいはの為に出かけた。9割のスイーツを制覇したところで、急にコンクリの地面が抜けて、ワタシはこの世界に落っこちた」


大きなシャンデリアがあったロビーを抜け、洋風ホテルの廊下を少女が先行し、その後ろを常盤と共について行く。


俺と常盤がどういう経緯でこの世界に来たかを説明すると、アビスシステムについて聞くのを諦め、少女自身がどういう経緯でこの世界に来たかを話し始めた。


「最初は意味が分からなかった。いきなり地面に落下したと思ったらこんな場所。ワタシはそうやってこの世界に来た。分からないだらけだったが、前任者が残したノートが無ければ今頃死んでた」


「え。もしかして、私達以外にも人がいるの?」


前任者という言葉に、常盤が疑問を漏らした。少女が途端に立ち止まり、あー、と唸り始めた。


「居るでは無く居た、が正しいかな……ワタシがこの世界に来てからまともに人間に会ったのがたった2人……そしてその2人はワタシのすぐ後ろに……」


少女が後ろを向きこっちを数秒見つめた。その様子に、俺と常盤は察した。少女は止めていた足を再び進め、その後ろを常盤と共に着いて行く。


「ワタシが来たばかりの頃。さっきの笑顔含め……あ、笑顔って言うのはあの黒くて浮いている顔のことだ。怪物、化け物とか言っても数が多くて判別しずらいし……」


怪物が他にもいるのかと、心が憂鬱に沈みそうだ。


「笑顔やスキンリーパーや百手とかに追いかけられ、命からがら逃げた部屋に前任者のーーーー」


白銀しろがねちゃん。前任者って誰?」

「ちゃん……別に荒起あらきと名字で呼んでもよいのだが」


これからは少女を白銀しろがねと呼ぼう。荒起博士と荒起白銀は他人だろうが。荒起と名字で呼ぼうとすると荒起博士の顔がちらついて話に集中出来ない。


ちゃん付けで呼ばれることに慣れていないのか、白銀がむすっとしながら少しうつむいた。


「前任者については、ワタシの拠点に入ってから教える」


現世帰還隊本部と書かれたボロい紙が貼られた扉の前で、白銀が足を止めた。白銀が3mはあるだろう両開き扉をゆっくりと開け、その先の景色が見えた。


「ようこそ!ワタシの拠点兼ラボに!遠慮無く入ってくれ!あぁ、約1年。人が恋しく無いと思った時は無かった……」


白銀が静かに拳を握りしめた。


俺と常盤の目に映ったのは、今にも舞踏会を始めそうな広いホールだった……が、その面影がほぼ消滅していた。


ホールには大量の残骸の山や壁が見えぬ程に敷き詰められた何かの設計図らしき紙。


食糧や何かの発明品らしき物が並べられた床。


ホールの中央に繋がった何本ものコードや幾つもの機械。


そして、ホールの中央に鉄の扉のような1つの装置が鎮座ちんざしていた。


遠慮無く入っていいと言われたが、何があるか分からないので慎重にホールの中に入る。


「適当に空いている場所に荷物とか置いてくれ、その重々しい機械とか銃とか。ここには基本的に怪物達が来ることは無いし、ウィルスとかも一応大丈夫のはずだ」


よいしょ、と白銀が3人分の椅子を用意しながらそう言った。取り敢えず俺はその言葉に甘えて、いい加減背負っているのが辛くなって来た地形測定機。


波熱弾専用の為、弾切れの今現状使い所が無い銃口が大きく作られた銃。


怪物達にことごとく敗北している実弾銃をまとめて置いた。


常盤も同様に銃中心の荷物をまとめて置いた。常盤が白銀が用意した椅子に座り、俺もそれに続こうとした瞬間、常盤が座った椅子からミシ……っと軋む音が聞こえた。


椅子から常盤が立ち上がり、何も言わずに防護服を脱ぎ始めた。


「……」


俺も防護服を脱ぎ、丁寧に畳む。白銀は察して座ったまま何も言わなかった。防護服の下は軍用の戦闘服だ。最低限の武器や治療用具が戦闘服に仕舞われている。


まぁ、防護服のお陰で使うことは無いだろうが。防護服を置き、改めて白銀と向き合うように、常盤と隣り合うように椅子に座った。


「さて、何かワタシに聞きたいことが合ったら聞いてくれ。その代わり、ワタシのお願いを叶えて欲しい。キミたちの世界に帰ることにも繋がるはずだ」


開口一番、白銀がそう言って来た。


世界に帰る。そのことに関係しそうな装置に視線を移す。


「繋がる……か、もしかしてあれがそうなのか?」


俺はホールの中央にある、アビスシステムと酷似した装置に指をさした。


「その通り。紹介しよう。見よ!この装置は空間に穴を開け、その穴を通過することで別世界への移動、この狂った世界からの脱出を可能にする!ワタシの最高傑作……予定の発明だ!」


白銀が椅子から立ち上がり装置の前で手を広げた。


「予定って……」


常盤がツッコミながら呆れた。


「予定でもワタシの予想が正しければ動くはずだ!予め言っておくが、ワタシのお願いはこれの完成に必要な素材等を集めてもらいたい!1年かけてコツコツ作って来たが、流石にワタシ1人じゃ限界がある。キミたちだけにやらせるつもりは無い。素材等の目星は付けてあるし、ワタシも出来うる限りフォローする!」


今の所、荒起博士側からの無線は途絶えたままだ。白銀の発明が稼働するかはさて置き、この世界で本当に1年間生きていれば、この世界で生き抜いたことによるノウハウがあるはずだ。


そのノウハウで、この世界での生存率を出来るだけ上げたい。


しかし、帰還出来るならそれに越したことは無い。世紀の天才発明家を自称していて本当かどうかは怪しいが、白銀のお願いである素材を集めた方が得策だろう。


「分かった。その提案に乗ろう」


俺が白銀に対し手を出すと、白銀が俺の手を握った。






「で、あの装置について聞いたから次の質問。さっきのこの世界に来た経緯についてなんだが……地面が抜けたってどう言うことだ?」


「私も気になってたー」


隣から常盤の気の抜ける声がした。


「あー、そもそもこの世界に入る方法は主に2つ。ワタシと同じくゲームで言う壁抜けバグみたいに、予期せずこの世界に侵入しちゃう方法。理屈は分からない。何故そうなるか分からない。前任者も分からなかったらしいし。次にもう1つは――――」


「人為的に空間に穴を開けてこの世界に侵入する方法……」


「その通り。ワタシの発明、そっちの発明とも理屈は多分同じ。いやーでも、ワタシの最高傑作予定の発明は元いた世界に無い物質とかをふんだんに使ってるから、それ無しで完成とは恐れ入るよ」


改めて荒起博士のヤバさを実感した。


「次の質問。白銀ちゃん、さっきも聞いたけど、前任者って誰?」


常盤の疑問に、俺も前任者に関連しているだろう疑問を投げる。


「あと、入り口に貼ってあった紙に書かれていた、現世帰還隊。多分、白銀の言う前任者と何か関わりがあると考えられる。詳しく教えてくれ」


「ほい」


質問の返答なのか、白銀が俺に1枚の色あせたノートを差し出した。


「何故俺の方に……?」

「だって常盤さんより賢そうだもん」


さらっと常盤をディスって来た。慌てて顔色を伺ったが、常盤は特に気にして無いという表情をしていた。それでいいのか……

俺に差し出されたノートを受け取る。


「このノートは現世帰還隊、副隊長のノート。ワタシが前任者と呼んでいるのはその人だ。そのノートがお陰でワタシはなんとか生きている」


この意味不明な世界について、少しでも情報を知れることを心の底から願いながらノートを開く。


常盤は横からノートをのぞき込んで来た。


白銀は水筒らしき物を持ち、その中の液体をちびちびと飲み始めた。


周囲の2人の行動に意識が行きそうになるが、一度深呼吸して手に持っている色あせたノートを読み始める。

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― 新着の感想 ―
[良い点] SCPやBACKROOMSのような不気味さがすごく良かったです。キャラクターも魅力的でした。 [一言] ここまで読みました。
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