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アビスシステム  崩れゆく常識、積み重なる異常  作者: 鷹鴉
一章 人智を越えた未知足り得る世界
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1話 アビスシステム その1

薄暗く幾つものパネルが光る中、白衣を着た男が、操作室から一つの装置を静かに見下ろしていた。


操作室で装置を操作し、状態や数値を計測する幾つものパネルを、数十人の研究員達が忙しなく操作し記録していた。


その時、白衣を着た男とパネルを凝視していた研究員の目が見開くのは、同時だった。


「……!……成功……したのか……」

「博士!」


僅かな揺れと同時に、操作室から見下ろせるその装置は稼働を始め、光を放っていた。


博士と呼ばれたその男は、冷静に口を押さえ熟考を始めた。研究員達はやっと稼働したその装置に対し歓喜に打ちひしがれていた。


「喜ぶのはまだ早い」

博士がそう言うと、すぐさまその場は静まり返った。


「事前に用意している偵察機を使う」

その言葉に、やるべきことを理解した研究員達はまた忙しなく動き始めた。


偵察機はさほど時間は掛からず用意され、今尚稼働する装置が置かれた部屋へ送り込まれ、偵察機は装置の光に向かって動き始めた。


装置から放たれる光に進み続ける偵察機が触れると、そのまま光に呑み込まれ、偵察機がその場から消失した。


博士は一度瞬きをし、自身の背後を振り返る。そこには漆黒が映し出されている大きなモニターがあり、モニターの両サイドには変動を続しける何かのデータが映し出されていた。


「恒星等の光源は現状無し。気温-14。空気中の酸素濃度、窒素約78%、酸素約22%、その他が約10%。視界確保の為、ライトを使用します」


偵察機から送られた情報を研究員の1人が読み上げ、ボタンを1つ押した。


「おお!」

研究員の1人が声を出した。


ボタンが押されると、モニターが漆黒から雪のような白が映し出され、白い雪のような物が静かに降っていた。しかし光が当たる部分以外は漆黒の暗闇だった。


「前進します」

研究員の1人がそう言うと、偵察機がゆっくりと動き始めた。


それから約20分間ほぼ全く同じ映像が映し出されていると、突如として破壊音が鳴り響き、モニターに映し出されている偵察機から送られる映像が途切れた。


「今すぐアビスシステムを停止せよ!」

博士の焦る言葉に、研究員達は少しばかり慌てふためき、数秒の時間を弄した後、装置は止まり光は萎んで消えていた。


「やっとアビスシステムが稼働したが、これは突入用の人員が必要だな…………」





◆◇◆◇





俺の名は新條しんじょうれん


俺は今、国の極秘研究施設にある食堂の片隅で現実逃避をしている。今でもこの場所にいるのは流石に場違いじゃないかと思ってる。


子供の頃から俺は色々な事に挑戦することが好きだった。

挑戦して最初は駄目でも、何回も挑戦して成功した時の達成感は今でも忘れられない。


数々の挑戦をし続けた結果、20代初めで野球や空手とかの運動スポーツ全般は勿論、絵とか歌とかの芸術もそれなりにできるようになった。


ただ、それなりの秀才は本物の天才に敵わなかった。

学生時代にいた本物の天才は秀才の俺を、完膚なきまでに叩き潰した。何度挑戦しても軽くあしらわれた。


その忘れることも叶わない程の挫折感に、学生を卒業して大人となっても、俺のぽっきり折れた自信が復活する事は無く、ニートの仲間入りしそうな時に1人のスカウトマンが俺をスカウトした。


何のスカウトだ?


あの時俺はそう疑問に思った。

スカウトマンが差し出した名刺に書いてあった会社は、大手でも無く下っ端会社でも無いくらいのそこそこの会社だった。


俺の両親は本気で喜んだ。ニートになりかけてた息子が、立派な社会人として過ごすことの出来る道を示されたことに喜んでいた。


両親は人一倍優しかった。だからこそニートになりかけてた俺にとやかく言う事が無かったが、スカウトマンに後押しされて最終的に俺が根負けした。


スカウトマンに何故俺をスカウトしたのか聞くと、系統の違う様々な大会で上位に入賞した貴方の名前を見つけ、尚且つ才能を持った貴方が、ニートになりかけていると言う情報を風の噂で聞いたからです。

と、返答してきた。


そんなこんながあって、俺に仕事場の案内をするそうでスカウトマンの車に乗った。


だけれど、向かった先は名刺に書いてあった会社では無く、世間から隠すように建てられた大きな建物だった。


スカウトマンの車に乗ったまま俺がここが何処なのか尋ねると、ここは国の極秘研究施設です。

と、返答してきた。


突拍子過ぎて俺の頭の中でハテナが浮かんでいると、スカウトマンが俺に聞いて来た。


貴方には選択する権利があります。ここの記憶を消去され元の生活に戻るか、この施設で特殊部隊の1人として活動するか……どうしますか?


そう聞かれ、俺は悩んだ。しかし、記憶を消された後、このままきっかけが無ければ、まともに挑戦する事の出来ないニートになってしまう気がした。


悩んだ末、俺は特殊部隊として活動する事に了承した。


これが半月前のこと。


俺は挑戦する事は好きだが、流石に極秘研究施設いていい器じゃ無いと今でも思っている。

特殊部隊と言ってもこの半月の間、研究テーマや特殊部隊で何をするのか未だ知らされてい無い。


「おーい!生きてるかー!?」


突然の声に驚きながら何処かに行っていた意識を戻し、目の前にいる女性に視点を合わせる。


「生きてる。で、何をしに来た?」

「はいこれ。やっと研究テーマを教えくれたよ……なーんで私に書類配りを任せたんだろ」


愚痴を言いながら目の前にいる女性から一枚の書類を渡される。


彼女の名前は常盤ときわ凪沙なずな。俺と同じく世間に埋もれていた所をスカウトマンにスカウトされ、半月前に特殊部隊に加入した仕事仲間であり同期だ。


彼女の愚痴を流しながら渡された書類に目を通した。


「研究テーマ……理論上存在しているとされている、この世界とは別の別世界への移動及び調査。なんかスケールデカくない?」


正直予想外だった。極秘研究と言うからには世間に公表出来無い新兵器の開発や新種の生物の研究とかだろう踏んでいたからだ。


手に持っていたコップを邪魔になら無い様に近くのテーブルの端に置き、渡された書類を読み進める。



◆◇◆◇



次元じげん空間くうかん亀裂きれつ発生はっせい装置そうち。通称アビスシステム。


次元空間に亀裂を発生させ、その亀裂を通過し別世界への移動を可能にする装置。数度の稼働実験の後、亀裂が持続安定する数値を発見。


その数値を基準として、小型無人偵察機を使用し亀裂の向こう側の偵察を開始。成功。


小型無人偵察機の別世界の到達を確認。亀裂を介して別世界へ無線の使用可能を確認。重力を確認。完全なる無重力空間ではないことが判明。


空気濃度の計測の結果。酸素濃度等が地球とほぼ同じ為、生物の生存可能条件を最低限満たしている事が判明。


別世界は現状、恒星及び星明りが確認出来ず偵察機に備え付けられたライトを使用。向こう側の亀裂発生地点は雪降る雪原。


暗闇の為それ以上の事が確認できず偵察機の移動を開始。


アビスシステム起動から20分が経過。偵察機は亀裂発生地点から34m移動の後、破壊音と共に偵察機の反応消失。


偵察機の反応消失の為アビスシステムの稼働を停止。

アビスシステム連続稼働時間、亀裂維持20分。

以上の事を加味し、明日14時30分に特殊部隊全6名の別世界投入実験を開始する。


特殊部隊配属の6名は明日の実験の為、各員モチベーションを高めておくように。


備考。別世界は広範囲である事が判明した為。別世界移動の後、1チーム3名の計2チームでの調査を開始する。

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